Deadline Delivers   作:銀匙

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第21話

龍田の3つ目の目的。

それは山甲町全体が有事に遭遇した際、どれだけの兵力を集められるかを見極めるという事であった。

提督はずっとテッドの事を気にかけているし、実力を高く評価している。

一方で海底国軍のように好戦的な深海棲艦や、海軍内の阿呆な派閥連中など、二人の敵は意外と多い。

もし提督が旧交を温める為に山甲町を訪ねれば、まとめて始末出来る絶好の機会と写るだろう。

その時にどれだけ町に防衛能力があるか、我々がどれだけ支援すれば二人を安全に避難させられるか。

提督が実際に山甲町へと向かう前に、現状の能力をどうしても知っておきたかったのである。

「対艦、対潜、対空、航空戦、地上戦・・まぁ備えは及第点かなぁ」

龍田は小さく頷くと、最上達との合流点に向けて舵を切ったのである。

 

「偵察中隊より龍驤へ・・標的の領外退出を確認した」

「ん。お疲れやね、戻ってくる時も他所からの奇襲に気をつけるんやで」

「了解」

「皆も自分とこの子達に帰還指示かけてええで!」

「はーい」

龍驤を筆頭とする航空チームは、洋上で艦載機への指示を出すとホッとした表情を見せた。

Deadline Deliversはコストパフォーマンスが重要であり、高コストの代名詞たる空母は極めて少ない。

龍驤のような軽空母以外にも航空戦艦や艦載機を有する重巡達が手を組んで航空チームを編成したのである。

大所帯ゆえに指示は大まかなものしか出来なかったが、それぞれが考えてカバーしていた。

空母勢の護衛を兼ねた水雷戦隊長を任されていた神通が龍驤達の傍にやってきた。

「私達も航空隊の着艦誘導体制に入りますね」

「頼むで~」

「でも、龍田さん達の目的は結局なんだったのでしょう・・山城さん解りますか?」

「んー」

山城は眉をひそめて少し唸っていたが、やがて小さく肩をすくめながら答えた。

「武器を使わない威力偵察、とでもいえば良いかしらね」

「威力偵察?」

「だって今、私達はナタリアの指揮の元でほぼ全兵力を繰り出しているでしょう?」

「ええ・・」

「なら今、あちこちから記念撮影すれば戦力丸分かりじゃない」

「で、でも、どこからですか?」

「多分、ね」

山城はそう言ってついついと上を指差した。

神通達は怪訝そうな顔でその指を追って上を見た。

 

同時刻、外洋の海上では。

「最上さぁーん、夕張さぁーん」

「やぁ龍田、お疲れ様」

「どうでしたかー?」

「高々度にガスが出てたんだけど、イメージングレーダーと赤外線でバッチリカバー出来たわよ!」

龍田はホッと胸をなでおろした。

「良かったぁ。あれだけ砲門や銃口を向けられて成果が無かったら泣きたくなるわ~」

文月が溜息を吐きながら龍田を見た。

「殺気が予想以上だったのでぞっとしました」

「そうねぇ、レーザーやスコープで少なくとも常に4箇所からは同時に狙われてたし~」

「はい」

「私達が少し動くたびにあちこちから兵装の再照準音が聞こえたし~」

「誰か先走って撃たないかと気が気じゃなかったです・・・脱出ルートも僅かでしたし」

「そう見えるトラップも沢山あったわねぇ。トリップワイヤーも見えにくかったし」

「深海棲艦と艦娘の連合軍ですから戦術の想定パターンも膨大ですし・・」

「帰る途中まで、上空には沢山の航空機から見張られてたしね~」

首を振る文月の横で最上が笑った。

「あは。彩雲、瑞雲、零戦、流星、彗星に紫電改。航空機の見本市みたいだったよ~」

夕張は顎に手を当てていた。

「それにしてもこの部隊の配置方法は参考になるわねぇ。乱雑なようで射線は被らないし、死角が無いの」

龍田は少し考えて、頷いた。

「MADFのマニュアルが生きてるって事かしらね。私が撮って来た映像の分析もお願い出来るかなぁ」

「もちろん」

「任せてください!」

「じゃあ皆で帰りましょ。集合~」

島の中から、背後の海面から、隣接海域から。

鈴谷が、伊19が、金剛が、霧島が、大鳳が、球磨が、多摩が、そして木曾が。

音も無く集まってくると、無言で頷いたのである。

 

翌日。

 

「なぜそこまで手助けする必要があるのだ?」

ここはテッドの事務所で、朝食の席である。

香取の口座開設や身支度まで押し付けられたとテッドが話した所、武蔵は一気に機嫌が悪くなった。

「俺だってやりたかねぇけどよ、龍田は口が上手いんだよ・・」

「香取とやらに見とれていたのではあるまいな」

「あ、それは無い。全くねぇよ」

「どうだか」

「俺は四角四面って奴が嫌いでな。武蔵とは本音で話せるが、香取には何も言えねぇ」

「・・・」

「例えば溜息一つ吐いてもあーだこーだ詮索されるような手合いはダメなんだよ、俺」

「・・本当に香取目当てではないな?」

「違うよ」

「なら私が同行しよう」

「なんで?」

「テッドの車よりは家財道具を運べるからな」

「なぁるほど、武蔵のはバンだからな。でも良いのか?家具とか積むと傷つかねぇか?」

「構わん」

「じゃあ頼むよ。一人だとちょっと荷が重いって思ってたから助かるぜ」

「・・・」

武蔵は黙々と朝食を食べつつ、ちらっとテッドを伺った。

機嫌が良くなったし、どうやら助かるというのは本音のようだ。

それにしてもこの気持ちは一体なんだろう。

 

「・・いや、幾らなんでもこれは要らねぇだろ」

「大きい分には問題ないと思うよ」

「それに何で全員で来るんだよ、完全なタダ働きなんだぜ?」

「人手も多い方がええやろ?」

武蔵が朝食の弁当箱を持ち帰った後。

テッドの事務所の前に停まったのは神武海運の10tトラックと武蔵のダッジラムバンだった。

それぞれの車からは神通以下7名がぞろぞろと降りてきたのである。

テッドは首を傾げながら言った。

「まぁ良いけどよ、手伝ってくれても俺はせいぜいメシ位しか奢ってやれねぇぞ?」

「それでええよ、今日の順番は決めたんか?」

「家が決まらねぇと何も始まらねぇからまず不動産、次いで家具屋、家電屋、ホームセンターって感じかな」

「まぁそうであろう」

「家具屋以外は10tトラックは入らねぇだろ」

「その時はダッジラムで行けば良いだろう」

テッドは指折り数えていたが、

「俺と香取入れたら9人だが、乗れるのか?」

武蔵は頷いた。

「時雨にはトラックで待機してもらうから8人だし、ダッジラムは8人乗りだ」

「そうか、なら大丈夫か。んー、ごめんな時雨」

「良いよ。気にしないで」

龍驤はつんつんと武蔵を突いた。

「なんだ?」

「自分達の時の参考にしぃや?」

「んなっ!ばっ!バカもの!」

「ダンナの好みを知る良い機会やで~?うまく使いや~?」

「~~~!」

二人を見たテッドがきょとんとした顔で訊ねた。

「なぁ武蔵、お前何真っ赤になってるんだ?」

「知らん!もう行くぞ!」

「は?」

首を傾げるテッドに大和がにこやかに囁いた。

「婚礼家具売り場も行くんですよね?」

「なんで?」

「し・た・み、です」

「お、おぉ、なるほどな。そういや一通り回るな」

「はい」

「んー、よし、その辺も気にかけとくぜ。ありがとな大和!」

「どういたしまして」

大和は龍驤と視線を交わし、互いに頷いた。

 

 

 




200話・・・でございます。
えっ?
短編集ですが何か?

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