Deadline Delivers   作:銀匙

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第20話

 

 

「・・まったく、どうしてクーの奴が絡むと悪い方悪い方に転ぶんだ」

「モウ、アノ子ノオ家芸トイッテ良イワネ」

途中で見つけた島に艦隊を上陸させた後、護衛部隊のボスとナタリアは海図を見ながら毒ついていた。

知らない人が見れば戦艦武蔵とレ級が相談しているという奇怪な構図である。

「受け取りの連中には連絡が取れないのか?」

「エエ。定期便ダカラ当該日時シカソノ海域ニハ居ナイミタイ」

「受け取りの連中を動かせないとすると、モンスターを動かすしかないな」

「・・ドウヤルツモリ?」

「致し方あるまい。護衛部隊から決死隊を募り、時間稼ぎを行う」

「決死隊ガ瞬殺サレタラ輸送部隊マデ壊滅スルワヨ」

「ぐ・・ではどうするというのだ」

ナタリアがニッと笑った。

「行キタクナイト思ワセレバ良イノヨ。チョット数ガ要ルワネ」

「作戦を聞かせてくれ」

 

説明を聞いた武蔵はしばらく苦々しい顔をしていたが、

 

「あー・・それは軍事作戦なのか?」

「アンナ畜生相手ニ真面目ニ戦ウ必要ナンテ無イモノ」

「・・ふむ。一理ある。よし、全部隊を編成しなおす。ナタリアはテッドに連絡してくれ」

ナタリアがニッと笑った。

「オ互イニ上手クヤリマショ」

 

 

作戦開始から5日後、テッド達の元にナタリアの航空機が1機到着した。

「テッドさんに緊急!緊急連絡です!」

パイロットの妖精が差し出した手紙を読んだテッドは眉をひそめた。

「・・モンスターのくそったれ。まぁ荷はそのままだ。ただ、後残ってる奴等は・・」

テッドは手元のリストを見た。いつも使ってるDeadline Deliversの多くは作戦参加中。

それ以外の連中は戦域への輸送不可・・・ん?

テッドは受話器を上げた。

 

「はい、ブラウン・ダイヤモンド・・あっテッドさん・・はい、お待ちください」

受話器を手で押さえながらベレーが叫んだ。

「ファッゾさん!テッドさんから緊急の輸送依頼です!」

 

 

2時間後。

「このコンテナ気密性は大丈夫なんだろうな?こんなの劇毒物以外の何物でもねぇよ」

「いざという時は私が積んでるガスマスクを差し上げますから!」

ファッゾは大部隊が出航したのを見送った後、念の為とミストレルに給油と兵装の準備を指示していた。

ゆえに連絡を受けた時には二人とも体制が整っており、依頼の電話から僅か2時間後には荷役を終えて出航したのである。

 

港で見送りながら、ファッゾは傍らのテッドに言った。

「・・ところで、何であんなものが要るんだ?」

テッドは葉巻に火をつけながら言った。

「ばら撒いて足止めするんだと」

ファッゾは肩をすくめた。ある意味正しい使い方かもしれない。

 

翌朝。

 

「ん!敵の航空機かベレー?」

ミストレルの問いに、ベレーは首を振った。

「イエ、連絡サレタ合図デス!味方ノ航空機デス!誘導スルト言ッテマス!」

「よし行くぜ!最大戦速だ!」

「ハイ!」

 

「ヤー、ミッチャン達ガ港ニ残ッテテ良カッタワー」

「こんなものどうするんだよ姉御?」

ミストレルの問いに護衛部隊長の武蔵が肩をすくめた。

「浮遊機雷というか・・まぁそんなもんだ」

「へ?」

「で、ガスマスクとゴム手袋はどこだ?」

「コッチデス!」

ベレーが艤装から取り出したケースを、護衛部隊長が次々と空母達に手渡していく。

「航空隊のパイロットは予備含め一人2セットずつ受け取れ!命綱だぞ!」

ミストレルからコンテナを受け取ったナタリアが叫んだ。

「ハーイ!獲物ハコッチ!ゴム手袋シテ受ケ取リナサイヨー」

ミストレルとベレーは首を傾げた。一体何が始まるんだ?

 

その日の昼頃。

 

「今日ノオ昼ハ・・ウフフフ」

姫は時計を見ながらうきうきとした表情をしていた。

1週間分の献立は日曜日に発表され、本日の昼食はチキンライスと煮込みハンバーグと記されていた。

姫の大好物である。

あと1時間で今週最大のお楽しみがやってくる。

仕事を進める手も自然と軽やかになる。

そんな時に通信リクエストのブザーが鳴ったのである。

「ハイ」

「ヒ、姫様!コチラ警備班長・・一大事デス!」

「ドウシタノ?」

「ア、アア、アノ、魚ガ・・・・ウォエエエ」

「ハイ?チャント報告シナサイ」

「・・・」

「警備班長?」

「・・・」

「警備班長?応答シナサイ」

姫は眉をひそめた。敵襲か?迎撃部隊は何をしているのだ。

即座に通信先を切り替えると

「攻撃隊!応答シナサイ!」

だが、しばらく後に帰って来た応答は、酷くグッタリした声だった。

「エフ・・攻撃隊・・班長デス」

「スグニ応答シナサイ!何カアッタノ?」

「・・ソレガ、我々モサッパリ解ラナイノデスガ・・・臭ッ・・」

「ハイ?」

「航路ノ先カラ、臭イ魚ノ切リ身ガ流レテクルンデス」

「切リ身?サンプルヲ持ッテキナサイ」

「ハ!?イ、イヤ、止メタ方ガヨロシイカト」

「ジャアソッチヘ行クワヨ」

「キ、来テハナリマセン!姫様!危険デス!」

姫は首を傾げた。

魚の切り身が海面に浮いてるのならどうせ崩れた積荷だろうし、腐敗してるのも何となく解る。

だが、たかがそれだけの事。

何を言ってるんだ。酒でも飲んでてバレたくないのか?

姫は首を振りながら席を立った。少し現場に行って引き締めなくては。

 

ガチャ。

「!?!?」

 

姫は棟の入り口を開けた途端、思わず利き手で鼻を覆ったまま固まってしまった。

空気が・・くっ・・・臭い。

臭いなんて生ぬるいものじゃない。

に、匂いが目に染みて・・しかも匂いの種類が限りなく気持ち悪い!

生ゴミを1週間放置したってこんなに臭くない。

あまりの臭さで景色が歪む。涙が止まらない。

こっ、これは・・これは命に関わる。

 

バタン!

 

辛うじて入り口のドアを閉め、ぺたんと座り込む。

「ゼイ・・ハア・・ゼェ・・ウウッ!」

食事前で良かったと姫は思った。

食べた後だったら間違いなく全部ぶちまけただろう。

しかし・・

何か、ドアの隙間から匂いが・・いや、匂いが体に!服についてる!

「イ・・イヤアアアア!」

姫は全速力で階段を駆け上がり、指揮官室へと飛び込んだ。

 

 

 

 




ここで出てくるモンスターは「艦娘の思い、艦娘の願い」の
2章で出てくる「姫の島」です。
忘れちゃったという方はご覧くださいね(←CM)

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