Deadline Delivers   作:銀匙

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第2話

 

5月21日 昼過ぎ

 

表に止まったBMWの様子を見て、ベレーは読んでいた本から顔を上げ、首を傾げた。

ファッゾはいつもならタイヤが鳴く位急ブレーキ踏んで止まるのに・・ガス欠かしら?

ベレーが静かに本を閉じた瞬間、事務所に飛び込んできたミストレルは開口一番怒鳴った。

「おいベレー!ガイガーカウンター貸してくれ!」

「はい?」

「ヤバいかどうか確かめたいんだって!早く!」

ベレーは肩をすくめた。

「年明けに、ここの家賃払うからって売っちゃったじゃないですか」

「ゲ!?」

「まぁ、影響があるような強い放射線が出てるかどうかくらい調べられますけど・・」

「本当か!?」

「ええ・・用意したら行きますよ。外に行けば良いんですね」

「あぁ!」

 

ベレーが表に出ると、青い顔をしたファッゾが遠巻きにスーツケースを指差していた。

ミストレルに至ってはスーツケースと車を挟んで反対側に隠れている。

通りを歩く人達が何やってるんだという視線を投げているが、ファッゾはそれどころではない。

「さぁ、早くガイガーカウンターを」

ベレーはスーツケースを指差しつつ

「これが調べる対象なんですね?」

「ああ」

「ええと・・ちょっと待ってくださいねーっと」

そういいつつ、ベレーは持ってきたバケツから、スーツケースの周りに海水をばさりと撒いた。

そしてちょんちょんとその上に立つと。

 

ベレーは輝きだした。

比喩ではなく、ベレーの体全体が輝きだし、やがて光が消えた。

そして、そこに居たのは深海棲艦のニ級だった。

 

「エエトー」

 

そう言うとレーダーを動かしながらスーツケースの周囲をしばらく回った後、

 

「大丈夫デスヨー、放射線ハ出テマセン」

 

といって、再び輝くと元の姿に戻ったのである。

 

「良かった。じゃあとっとと入ろう。計画を練らなきゃならん」

ファッゾはスーツケースを掴むと、ミストレルとベレーを促した。

3人の様子を眺めていた人達もファッゾの一言でつまらなさそうに解散していった。

 

ファッゾは金庫から封筒を取り出し、懐に入れながら二人に告げた。

「ミストレルとベレーは出港準備を進めてくれ。あと、航路の確認も」

「補給は給油と弾薬両方か?」

「いや、先に艤装に給油しといてくれ。兵装はネタを仕入れてから考える」

そう言い残すとファッゾは事務所を出た。

 

「よぉファッゾ。ヤバイ研の荷を受けたらしいな」

「そうだマッケイ。だから関連ありそうな南太平洋関連のネタをくれ」

ファッゾはそう言うと、マッケイの机の上に2000コイン札の束を置いた。

マッケイは札束を見て目を細めた。

 

ここは情報屋マッケイのオフィス兼住居だ。

屋根の上に突き出た巨大なアンテナが看板代わりにもなっている。

マッケイは日がな一日ここで鎮守府と大本営の通信を傍受しており、ネタになる情報を拾っている。

ファッゾは必要な兵装を選択する為、情報を集めにマッケイを尋ねてきたのである。

「んー」

マッケイは置かれた札束から1枚抜くと、裏表を眺めながら続けた。

「大本営が半月前から幾つかの鎮守府に声をかけてな、大掃除をやってる」

「それで?」

マッケイは次の1枚を抜いた。

「シアルガオ島沖の小島から東の半径50海里圏が戦闘海域で、艦娘達は小島に集結してる」

「なるほど」

マッケイは抜いた札に破れを見つけると眉をひそめて札束の下に返し、代わりに2枚抜いた。

「ただ、今回は大掃除そのものが目的じゃねぇらしい」

「どういうことだ?」

マッケイは札越しにファッゾを見た。

「ここからは2枚ずつになるぜ?」

「構わん」

マッケイはニッと笑うと札を2枚抜き、続けた。

「連中は符丁を使ってるが、対ボス戦用の新兵器お披露目会らしい」

「ほう」

「送りこんだ艦娘の数は報告されてる敵の規模から考えれば過剰だが、過剰分は護衛部隊だ」

「護衛部隊?」

「ああ。第2鎮守府の司令官が今回のアタマで、司令官も小島の臨時鎮守府に居るんだと」

「何でわざわざ司令官が現地に?」

「新兵器の威力を実際に見て確認するそうだが、ありゃ半分休暇だな。余裕かましてる」

「兵器について、他には何か言ってなかったか?」

マッケイは札を抜かず、ファッゾを見て肩をすくめた。

「そろそろ気づいてるんじゃねぇのか?」

「賭けるかい?」

「んー」

マッケイは片目を瞑ってファッゾを見た後

「よし、外れる方に1万だ」

ファッゾは一呼吸置くと話し始めた。

「討伐は開始されているが、まだボスに到達してないから新兵器とやらは使ってない」

「・・・」

「新兵器は881研お手製で・・そうだな、何か部品が壊れて使えない状態だった」

「・・・」

「それを現地から知らされた連中は大慌てでもう1セット作って俺に渡した」

「・・・」

「だからボスに到達する予想時刻より前に届けろと俺達に命じた。違うか?」

マッケイはニンマリ笑った。

「甘いなファッゾ。それなら帰りも受け取る荷物がある筈だろ?ヘマの証拠を残さない為にな」

「むう」

「正解はな」

「ああ」

「弾倉に肝心の砲弾を込め忘れてたんだと。5枚頂き」

ファッゾはがくりと肩を落とした。研究所の連中は阿呆揃いか?何考えてんだ。

マッケイの机から札束の残りを回収しながらマッケイに声をかけた。

「ありがとうマッケイ。他にネタはあるかい?」

マッケイはニッと笑った。

「今日は儲けたからサービスだ。物渡したらとっとと帰ってきな」

「なぜだ?」

「27日から燃料代が2割値上げされるってよ」

ファッゾは顔をしかめた。

「ああちくしょう。良い情報ありがとう」

「どーいたしましてー」

 

その頃。

「しっかしさぁ、絶対深海棲艦の艤装の方が進んでるよなぁ」

「そうですか?」

「だって艤装に燃料いらねぇんだろ?」

「要らないんじゃなくて、海水から燃料を生成出来るんです。それも一部の子だけです」

「お前もだろ?」

「はい」

「あーあ、退屈だなー」

「だからこうして付き合ってるじゃないですか」

 

そう。

鎮守府では、艦娘専用の給油設備が整っている為にハイペースで給油出来る。

しかし、ここは民間港であり、そういう専用設備はなく、給油速度が相対的にとても遅い。

給油の間、艤装には給油ノズルが刺さりっぱなしになるし、艤装を放っておくと盗まれてしまう。

従って補給が終わるまで給油所に長い事居続けるハメになる。

ミストレルはこの補給の時間が退屈であり、その必要がないベレーがうらやましくてならないのである。

ちなみにベレーはミストレルの隣に座り、本を読みながらバケツに汲んだ海水に足を浸している。

一応給油もしているが、どちらかというと暑いので涼んでいるといったほうが正しい。

ベレーは航行中に幾らでも燃料補給出来るので、そもそも出航前に満タンにする理由が無いのである。

 




文字数ですが、ひとまずは2500文字/話位にする予定です。
これくらいの方がサクサク読めるかと。

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