Deadline Delivers   作:銀匙

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第18話

 

 

「・・あら~・・まぁ制限はしてなかったけど~」

龍田はテッドの近くに上陸し、周囲にチラリと目配せすると、にこにこしたままそう呟いた。

テッドは頭を掻いた。

「ええと、すまん。おっかなくてよ」

「何がですか~?」

「その、電話であんなこと言うからよ、強制連行されるんじゃねぇかって、な」

「んー?」

龍田は初めて不思議そうな顔をして顎に手を当てていたが、

「あぁ、117研に復帰って話ですか?いつもの冗談じゃないですかー」

と、ひらひらと手を振った。

「だってよ、今日の話はそれ絡みなんだろ?」

「いいえ?」

「えっ?」

「電話で色々話すと漏れるので、本題は今日にしましょうって言いましたけど~?」

テッドは眉をひそめ、必死になって会話を思い返した。

 

 「とりあえず、続きは明日お話しましょうね~」

 

おい待て、それはそういう意味だったのか?

滅茶苦茶紛らわしい言い方しやがって・・

肩が下がり、ぐんにゃりと俯くテッドの表情を面白そうに見ながら龍田は続けた。

「それで、用件なんですけど~」

「おー・・」

「Deadline Deliversのフリをさせたい子が居るんです~」

テッドは顔を上げた。

「あん?どういうこった?」

「テッドさんが言ったとおり、龍田会の今までのメンバーは全員鎮守府所属艦娘なんです~」

「おう」

「ですから命令系統の第1位は当該鎮守府の司令官で、龍田会としては人員手配が大変でした~」

「だろうな」

「そこで、世間的にはDeadline Deliversとして龍田会専属者を常駐させておきたいんです~」

「フリって事は、Deadline Deliversの仕事はさせねぇんだな?」

「ええ。ただ、変にマスコミに勘付かれると問題があるので~」

「Deadline Deliversとして俺の所に登録はするが仕事は振るな、かつそれを外に告げるな、か?」

「あは。さすがはテッドさん、お察しの通りです~」

「それくらい構わねぇし、町長だって反対しねぇだろうよ・・」

「やった、お話成立~」

龍田が軽くパチパチと手を叩いたので、テッドは再びがくりと首を垂れた。

「紛らわしい言い方するなよ・・・俺がどれだけ肝冷やしたと思ってんだ」

「117研所長にどうですかって話ですか~?」

「そーだよ」

「んー・・何がそんなに嫌なんですか~?」

テッドは数秒、俯いたままだった。

だがふいっと龍田の方にまっすぐ顔を上げると、ゆっくりと話し始めた。

「まず俺は、人を率いるのが苦手だ」

「・・」

「次に、仕事した挙句に死神だマムシだと陰口を叩かれるのは辛い。命を狙われるのもな」

「・・」

「そしてどうやっても、越えられない壁を俺は感じてたんだよ」

「越えられない壁って何ですか~?」

「俺達が告発までたどり着けたのはトカゲの尻尾までで、本体はいつも見えなかった」

「・・」

「そこから先は軍内の様々な圧力とか妨害で煙に巻かれた。機密事項だってそうだろ」

「・・」

「だから117研じゃ限界があるし、苦労に見合う物も得られなかった」

「・・」

「所長が良くしてくれたから頑張ったが、所長の居ない117研なんて嫌な物しか残らねぇ」

「・・」

「そして俺はこの町を、町の人々を、俺の周りの仕事仲間をとても気に入ってる」

「・・」

「だから俺が所長として戻るのはゴメンだ。そういうことさ」

龍田はテッドの目をじっと見ていたが、聞き終えるとにこりと笑い、ポンと手を叩いた。

「じゃあ2つ目のお話はピッタリですね~」

テッドは咥えていた葉巻を慌てて外した。

「えっ何だよ2つ目って」

「テッドさんには、もう1つお願いしたい事があるんです~」

「俺に?」

「はい~」

「な、何だよ。あ、いや、何か嫌な予感しかしねぇから聞きたくねぇ。言うな」

「1つ目と関係があるんですけど~」

「無視すんなよ」

「そのチームの目的は、不正行為を暴く事なんですね~」

テッドははっとしたように目を見開いた。

「・・・おいやめろ、続きを言うな。本当に言うな!」

「その分析のお仕事を~」

「止めろって言ってるんだ」

「テッドさんお願いしますね~」

テッドは両手で頭を抱えてしゃがみこんだ。

「あぁあやっぱりぃぃぃいい」

「じゃあ顔合わせしちゃいましょうね~」

腕を解いたテッドはがばりと龍田に向かって顔を上げた。

「待ちやがれ。俺はマジでOKしてねぇよ!むしろピュアにNOだ!」

「あらぁ、そうなんですか~?」

「俺がこの町で唯一の仲介人だって解ってんだろ!?」

「解ってますよ~?」

「だったらそんな暇ねぇってことぐらい」

「ありますよねぇ?」

「・・・えっ?」

「月の後半とか~」

「・・・」

「真冬のシーズンとか~」

テッドは立ち上がりつつ、ごくりと唾を飲んだ。

「お仕事があんまり無くて、お時間のある時間はトータルすると年で4ヶ月くらいありますよねぇ」

「な、なんでやたら高精度に詳細を知ってるんだよ。町長から聞いたのか?」

「虎沼海運さんって覚えてますか~?」

「覚えてるどころかうちの一番の得意先だ、それがどうした」

「虎沼海運さんから荷物を陸送する会社って、大体決まってますよね~」

「・・・おう、幾つかあるな」

「そこと私達はとっても仲良しなんで~」

テッドはぽかんと口を開けた。

「輸送依頼の時期と量を何年分か教えてもらったんですよ~」

テッドは目を瞑り、唸った。

個人依頼主やスポット輸送など、虎沼海運以外の依頼も無いわけではない。

だが、虎沼海運との取引量は圧倒的で、自分達の忙しさはほぼ虎沼海運に左右されている。

正確には海軍と深海棲艦のいざこざにも左右されるが、こちらは龍田は当事者なので言わずもがなである。

ゆえに陸送会社は偏らないよう4社に分散し、周期性も無いよう輸送依頼をかけてきた。

それは陸路上での強奪を避けるのと、依頼総量が(主に龍田に)漏れないようにという配慮だった。

だが4つとも龍田の配下にあったのでは情報は筒抜けだ。ぐうの音も出ない。

 

 

 


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