Deadline Delivers   作:銀匙

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第17話

 

 

その日の夜、神武海運の事務所。

町長の所から戻ったテッドは神通達から助っ人に目処がついたと聞き、ポツリと呟いた。

「この町は良いなぁ」

横に居た武蔵は頷いた。

「なんだかんだ言っても最後は手を貸すのが今の流れだからな」

「大本営って所はさ、ほんと足の引っ張り合いでよ」

「・・」

「一番足を引っ張られない奴が上の椅子に座れるが、自らは誰かの足を引っ張ってるんだよ」

「・・」

「面従腹背、約束を笑顔で反故にする、困った時は既に誰一人傍に居ない」

「・・」

「だから誰も互いに信じないし、失点を悟られまいと皆必死なんだ」

「・・」

「ま、やっぱりそんな所に戻るのはゴメンだな」

「・・そうだな。テッドがそう思っているのなら、そんな所に戻る必要は無い。我々皆で守る」

「とにかく皆、ありがとな」

「まだ何も始まっていないぞ」

「声をかけて回ってくれたじゃねぇか。それだけでも十分ありがてぇよ」

「・・」

「じゃー俺はそろそろ家に帰るわ。あまり遅く帰ると保障外になるからな」

「何の保障だ?」

「あれ、聞いてないか。俺の家の周りはSWSPが警備してくれてるんだけどよ」

「あの地区、そんな治安が悪いようには聞いてないが?」

「いや、俺を殺そうって連中が外からやってくんの」

「は?」

「だから俺がこの町に来てからずっとワルキューレなりSWSPが警護してくれてるんだけどさ」

「・・」

「特に真夜中はそういう連中が蠢くから、外に出たら命の保証は無いってナタリアに言われてるんだよ」

「そ、その、殺し屋とやらは実際に来たのか?」

「あぁ。ナタリアに聞いたら少なくとも60人以上始末してくれてたらしい」

武蔵達は息を呑んだ。

確かにこの町の治安レベルは決して良くは無いが、せいぜい山賊や武装強盗が出るくらいだ。

だがテッドだけは毎日命の危険に晒されているのだと。

武蔵は眉をひそめた。

「それは大本営に居た時、関係のあった連中から、と言う事か?」

「そうなるな。正確には俺が潰した司令官が所属してた派閥が送ってきたってこったな」

「とんでもない話だな。テッド、私も護衛に加わろうか?」

「いや、連中はローテーションを組んで警護してるし、決して一人では動いてねぇ」

「・・」

「一人で毎晩警護なんて絶対続かねぇし・・それに・・」

「それに?」

「お、お前が俺のせいで怪我とかさ、嫌なんだよ・・SWSPは良いって意味じゃねぇけど」

大和がふふっと笑った。

「ならそろそろ帰った方が良さそうですね。家まで送りましょうか?」

「いや、俺は俺の車で帰るし、まだ大丈夫な時間だ。皆も早く寝てくれ。じゃあな!」

敷地を出て行くキャデラック・フリートウッドを見送りながら、武蔵は顔をしかめていた。

何年経っても刺客を送り込んでくるような伏魔殿にテッドが帰ればどうなるか火を見るより明らかではないか。

武蔵の横にそっと神通が立った。

「武蔵さん」

「・・あぁ」

「これから皆で艤装の臨時メンテナンスを始めますけど、武蔵さんもご一緒にいかがですか?」

武蔵が神通に振り向くと、神通はまっすぐ武蔵の目を見返し、ゆっくりと頷いた。

武蔵はぎゅっと目を瞑ったあと、ニッと笑って答えた。

「あぁ。万全の体制で明日を迎えねばな!」

「睡眠も大事です。すぐ始めましょう!」

二人は颯爽と明かりが点いたばかりの倉庫に向かって歩いて行った。

 

 

翌日、1455時。

「・・・あー、こりゃ町中のDeadline Deliversが動いてるなぁ」

テッドは旧コンテナ埠頭の中に車を進めつつ、周囲をきょろりと見回すと苦笑した。

使われなくなり、放置されて久しい旧コンテナ埠頭。

今も人影こそ見えず、朽ちた筈のこの場所は熱い気配に満ちていた。

近くの林には、スコープらしきガラスの反射光が何箇所も見えた。

外観こそ錆びて古ぼけてはいるが、数日前には1本も無かったコンテナが何本も置かれている。

入り口を封鎖していたバリケードは微妙に動かされ、大型トラックさえ楽々通行出来るスペースが空いている。

近くの倉庫には明かりが灯ってるし、その裏側に何台もの車が停まっている。

旧コンテナ埠頭全体が見渡せる駐車場に停まってる大型トラックも無人に見えるのにエンジンはかかっている。

テッドは車のパーキングブレーキをかけつつ、そういえば今朝から変だったなと思いだした。

 

店を開けても訪ねてくる者も居らず、電話すらかからず、テッドは開店休業状態だった。

誰かは事情を聞きに来るだろうと思って、説明内容を考えていたテッドは拍子抜けしていた。

ただ、時間がある分、どうしても会合の事が頭から離れず、テッドの表情は暗かった。

朝食の時も、昼食の時も、武蔵はいつも通り来てくれたが、言葉少なだったのは却って嬉しかった。

武蔵が昼食の帰り際、戸口で振り向いた。

「テッド」

「あん?」

「・・その、会合は一人で行くのか?」

「龍田に同行者の可否を聞きそびれちまったからな。変に刺激するのもアレだしよ」

「そうか。場所には車で、まっすぐ行くが良い。歩いて行くとか、寄り道とかするなよ」

「ああ。旧コンテナ埠頭は風が強いし、車の中で待ってないと凍えちまうからな」

「準備は整った。言うべき事を言ってこい。私達はお前の傍にいるからな」

「ありがとよ」

武蔵が何かを言い淀んでいる風だったので、テッドは何とか笑顔を作った。

「心配すんなよ。大丈夫だって」

 

そして現在に至る。

 

「てっきり心理的な距離の話かと思ったが、物理的にも傍に居るのかよ・・龍田にバレまくりだろ」

テッドが火をつけた葉巻を咥えた時、腕時計のアラームが1458時を告げた。

ガチャ。

キャデラック・フリートウッドのドアを開けて外に下りたテッドは、外洋の方を見た。

「・・時間ピッタリだな」

防波堤の先から3つの人影が現れたのを見ながら、テッドは紫煙を吐き出した。

 

 

 


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