Deadline Delivers   作:銀匙

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第16話

 

 

「それは困りますなぁ・・」

「まだ確定じゃないんですが、それを匂わせるような事を言われてるんで」

「しかし、テッドさんが抜ければDeadline Delivers全体への影響が大きい事は龍田様もご存知でしょうに・・」

「だが、それを超える切迫した事情があるのかもしれません。詳細は聞いてないので」

「うーむ・・」

神武海運を後にしたテッドと武蔵がまず向かったのは町役場だった。

帰り支度をしていた町長に声をかけ、町長室で話し合っていたのである。

町長は眉をひそめた。

「いずれにせよ、我々も海軍と協力関係を続けるならテッドさんがこちらに居る事は大前提です」

「・・」

「一方的かつ突然反故にされては困るという事をご理解頂けてないのなら、ご理解頂く必要がある」

「・・」

「我々は、龍田会の前身たる雷会から海軍と関わりがあるんですがね」

「ええ」

「雷様は龍田会でも名誉会長職に居られる。我々は雷様に貸しがある」

「・・」

「強引にテッドさんを連れて行くならば、我々は雷様に貸しを返してもらう事にしましょう」

「町長・・」

「心配しなくて良いですよテッドさん。貴方は山甲町に必要不可欠な存在ですから」

テッドは涙を零しながら町長に向かって頭を下げた。

「・・すいません。迷惑かけちまうかもしれませんが、万一の際は助けてください」

「ずっと今まで我が町に貢献して来てくださったんです。この位どうという事はありませんよ」

テッドは少しの間俯いていたが、大きく頷くと立ち上がった。

「交渉は何時からでしたか?」

「1500時、旧コンテナ埠頭です」

「解りました。では17時になっても私に連絡が来なければ様子を見に行かせましょう」

「・・」

「その時、もしどなたも居なければ雷様に電話します。それでよろしいですね」

「ええ。そうなりたくは無いですがね」

「私もですよ。無事を祈ってます」

テッドは戸口で深々と頭を下げると、町長室を辞した。

「・・良かったな、テッド」

ずっと黙って傍に控えていた武蔵は、町長室を出るとテッドにそう告げた。

「ああ。俺はこの町で・・頑張って来て良かったぜ」

「まずは一人、心強い後ろ盾ができたな」

「あぁ、まったくだ」

 

同時刻、夕島整備工場では。

「それ・・本当なの?」

「うん、テッドさんの話を要約するとそうなるんだ」

「酷い話ねぇ・・」

ビットは眉をひそめ、懐疑的な表情をしながら説明に来た時雨を見た。

アイウィは腕を組んで黙っていたが、時雨の方を向くと、

「概要は解ったけど、念の為、要約せずに全体を教えてもらってもいい?」

と言った。

客との数多くのやり取りを通じて、アイウィは要約の危険性を学んでいた。

大きなミスの影には思い込みというのがある。

きちんと全体の経緯を知っていたら良かったのにと後悔した事が何度かあったのである。

時雨は頷いた。

「うん、じゃあちょっと長くなるけどテッドさんが言った通りに話すね」

「手間かけさせちゃってごめんね」

「ううん、真剣に聞いてくれるんだから、これくらい当然さ」

 

同時刻、キッチン「トラファルガー」では。

説明に来た扶桑と山城を前に、ウィスキーのグラスを手にした署長は嫌そうな顔をしていた。

「あんまり派手なドンパチやんないでくれよ。軍相手の証拠隠滅工作は面倒臭ぇんだよ・・」

ぐびりとジントニックを飲んだマッケイは署長の肩を叩いた。

「俺達がそんな単細胞に見えるかよ、署長」

「何か策があるってのか?」

「そこはそっちの二人に聞いてくれよ。俺達も必要なら手ぇ貸すぜ?」

マッケイから振られた扶桑と山城は頷いた。

「もし拒否したにも拘らず、テッドさんを強引に拉致しようとした場合への備えですが・・」

 

同時刻、ファッゾ達の家では。

「そういう訳で、この作戦に協力して頂けませんか?」

「ふーむ・・」

ファッゾは大和の説明を走り書きしたメモを見返していた。

横に居たナタリアは肩をすくめた。

「確かに龍田は強引だけど、そこまで無茶苦茶するかしら」

「俺もそこが引っかかる。ナタリアはその龍田と何度か話した事があるんだろ?どんな奴だ」

「そうねぇ・・老獪な策士、かしら」

「そんな腹黒いというか、狡猾な奴なのか?」

「どこまで何を考えてるかまるで読めないわね。決して浅はかな行動には出ない。慎重で大胆」

「テッドよりキレ者か?」

「それはもう。あれを配下に置くソロル鎮守府の司令官も普通の人ではないし」

「どういう感じなんだ?」

「常識に囚われず使える手は何でも使う、そしてトコトン部下を信じて自由にやらせるタイプ」

「なら尚の事おかしくないか?テッドは嫌がってるんだろ?」

大和が頷いた。

「ええ。嫌だとハッキリ言ってました」

「テッドだってその司令官の部下だったとどっかで聞いた気がするんだが・・」

「ただ、司令官さんはテッドさんの海軍への復帰を強く願ってると聞きました」

ナタリアが頷いた。

「そういえばファッゾ達が不老長寿化処置を受けた島でもそんなやり取りを龍田としてたわね」

「そうだっけ?」

「掛け持ちしないかとかなんとか。横耳で聞いただけだけど、テッドは凄く嫌そうだったわ」

「テッドを匿ったのも龍田だが、それは司令官が望んだ事だろうしな」

「司令官はテッドが狙われてる事自体知らないみたいよ。町長が言ってたわ」

「って事は、それを司令官に伝えて、命の危険があるから止めてくれと頼めば良いんじゃないか?」

大和が大きく頷いた。

「・・なるほど。それは盲点でした」

ファッゾは首を捻った。

「まぁ、本当に嫌がるテッドを連れ去ってまで117研の所長に据える気があれば、だけどなぁ・・」

ナタリアは肩をすくめた。

「手配だけはしておくわ。本当に海軍を相手にするならそれなりの準備は要るしね」

「おいおいナタリア、直接砲火を交えようとするなよ?」

「したくないわよ。だからといって丸腰で死ぬのは嫌」

「まぁそうだが・・」

ナタリアはスマホを取り出すと、SWSPの事務所をコールした。

ファッゾは大和に告げた。

「とにかく、作戦での役割は解ったし引き受ける。テッドには俺達が友人として最大限手を貸すと伝えて欲しい」

「ありがとうございます。では失礼します。夜分遅くすみませんでした」

「気にしないでくれ」

大和はがたりと立ち上がった。

 

同時刻、山下食堂では。

「おいおいおい、テッド抜きでこの町が回る訳無ぇだろ何考えてんだ」

「そうなんよ、せやからいざとなったら手ぇ貸してくれへん?」

「良いぜ。テッドには色々借りがある」

「海軍相手だろうが知った事か」

「やったろうじゃないか!」

龍驤と神通は山下食堂で食事中の面々に声をかけていた。

この時間はDeadline Deliversが食事の為に集まってくるので、話を広めるのに適していたのである。

反応に手ごたえを感じつつ、二人は説明を続けていった。

テッドは自分では苦手と言っていたが、ちゃんと信用を得ている。

そうでなければこういう時に誰も手を貸す筈がない。

 

 

 


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