しかも月曜日・・何というか(苦笑)
「すんまへん」
「ごめんなさい」
「いや、だって、さすがにテッドさんニブ過ぎでしょ」
「あの場面で猫アレルギー・・さすがに無いかな」
「無い無い絶対無い。ありえへんわ」
「余りにも不意打ちでしたね・・夜戦のカットイン攻撃並でした」
「さすがに鈍感にも程があるわよ、テッド」
ドアと共に倒れこんできたナタリア達から集中砲火を浴びたテッドは口を尖らせた。
「悪かったなぁ・・でも他に理由が思いつかなくてよ・・」
そう、テッドは返したのだが、
「あの、幾らなんでも、武蔵さんの恋心には気づいてますよね?」
と、神通が素で言ってしまったのである。
「・・・は?」
テッドは予想通り、目をぱちくりとさせた。
だが、武蔵達も同じ事をした後、
「じ、じじじじ神通ぅ!それ言っちゃダメぇー!」
という大合唱になるまで数秒を要したのが、いかにインパクトの強い一言だったかを示している。
「あ、あの、完全に勇み足でした。誠に申し訳ありません」
俯いたまま固まる武蔵に、おろおろとした様子で何度も頭を下げる神通。
それだけならともかく。
「え?え?え?武蔵が?お、おおおお俺に?」
と、部屋のあちこちをきょろきょろ見回すテッドまで居るのである。
葉巻をシガーカッターで次々輪切りにしている辺り、相当動揺しているのであろう。
大和と扶桑が大きな溜息をついた時、腰に手を当てたナタリアがテッドに言った。
「アンタ本当に解らなかったの?」
「・・すまん」
「このままじゃ武蔵が可哀相って事は解る?」
「えっ何でだよ」
「自分の気持ちは知られて、アンタの返事は聞いてないからよ」
「そっ、そそそそそんな突然言われたってよ」
「何か考えなきゃいけないの?」
「ん?んー・・・」
テッドはふと、自分が葉巻の半分をシガーカッターで細切れにした事に気づき、手から欠片を払いのけた。
「頼む、1本だけ吸わせてくれ。頭ごちゃごちゃだ」
「どーぞ」
「すまん」
・・シュー・・パシュー
新たに吸い口を切った葉巻にターボライターで火をつけていくと、少しずつ落ち着いてきた。
ただ、既に充分火がついてるのにライターを消さない辺り、見ているようで見えていない感じである。
おいおい待ってくれ、なんだか訳が解らねぇ事になったぞ。
確かに武蔵とは軽口叩き合える程度には打ち解けてるって事は解ってた。
で、でもそれは、てっきり武蔵が男っぽい性格ゆえにウマが合うんだろうって程度に思ってたしよ・・
・・シュー・・
葉巻の半分以上が灰になりつつあったが、テッドはターボライターで炙り続けていた。
いや待て。武蔵が俺の事を好きって言っただと?
一体全体どういう事なんだ?
ていうか、アイツは俺のおせちの具が偏ってるとか毎日洗濯しろとか文句ばっかり言ってたじゃねぇか・・
「・・っ!あっちー!」
ついにテッドが持つ部分まで火が回り、テッドは燃えた葉巻を宙に放り投げた。
ナタリアは片手で、燃えていない部分を選んで葉巻をキャッチすると、ジト目でテッドを見下ろした。
「何やってるのよ」
だが、動いたのはナタリアだけでは無かった。
「テッド、手を見せろ。酷く痛むか?」
「い、いや」
「変色は・・してないな。治癒するまで患部は触らない方が良い。待ってろ」
「あ、あぁ」
テッドは向かいの棚から薬箱を取り出す武蔵をぼんやり見つめていた。
アイツはずっと・・俺の事を心配してくれてたってのか?
武蔵はガーゼを切りながら言った。
「テッドは艦娘の状態になってから怪我したのは初めてか?」
「え?あ、あぁ。そう・・だな」
「我々の場合、システムが傷を復旧させるまで広がらぬようカバーするだけだ。人間用の薬は使えないから気をつけろ」
「そ、そうか」
「テッドの場合は無線機だが、艤装本体まで損傷がフィードバックされた場合は妖精が修理せねば治癒しないから留意しろ」
「詳しいな」
「旗艦の業務には僚艦の応急処置も含まれるのでな、基礎的な知識や処置は一通り覚えねばならん」
「そっか・・色々やってきたんだな」
テッドの耳元で山城が囁いた。
「泣かせたら承知しないわよ?」
「・・・そう、だな」
切ったガーゼ等を手に、武蔵が戻ってきた。
「ほら、手をパーの形にしろ」
「あぁ」
「これから患部にガーゼをあてて包帯を巻く。痛かったら言え」
「解った」
テッドは武蔵の作業をじっと見ていた。
武蔵の手つきは無駄がなく、結び目も綺麗だった。
仕上がりに納得したように小さく頷くと、武蔵はテッドに言った。
「今、包む前より痛みは悪化してないな?」
「あぁ。ちょっとチクチクするくらいだ」
「なら傷は浅いだろう。ここ以外に炙った所はあるか?」
「いや、ここだけ・・だ」
そういうと武蔵は立ち上がり、薬箱の方に歩いていった。
「それなら包帯は明日の朝外せ」
「あぁ」
「もし、その時まだ痛むようならビットの所に居る妖精達に診てもらえ。艤装の微調整が必要かもしれん」
テッドは薬箱を開け、片付けを進める武蔵の背中に声をかけた。
「解った。でな、武蔵」
「なんだ?」
「・・ずっと傍にいてくれよ、大事にするからさ」
武蔵は片付ける手をピタリと止め、ぎこちなくテッドの方に振り向いた。
二人を固唾を呑んで見つめるナタリア達7人の瞳孔が開ききっているのは言うまでも無い。
「・・・えっ?」
「俺はさ、お前の言う通り仕事以外はズボラでさ」
「・・・」
「伊達巻もフォークで切りながら食うとかさ、色々面倒かけちまうかもしれん」
「・・・」
「け、けどよ、お前が俺を心配してあれこれ言うんなら、直すようにするよ」
「・・・」
「す、少なくともDeadline Deliversが続く限り俺には仕事がある」
「・・」
「食うに困るような事にはさせないし、大事にするからさ、その、嫁に来てくれねぇかな・・」
武蔵はぽかんとしたままテッドを見返していたが、次第に歯を食いしばり、拳を固め、わなわなと震え始めた。
「おま・・テッ・・こっ!こん!こんな所でなんでそんな大事な事を言うんだ!」
そんな武蔵の反応に明らかに動揺した表情でテッドは答えた。
「えっ、だっ、だってよ」
武蔵は顔を真っ赤にしながら薬箱を指差した。
「私が今何をしてると思う!薬箱に包帯を仕舞ってる最中だぞ!?」
「お、おう、見えてるぜ」
武蔵はぎゅっと目を瞑り、包帯を握り締めながら腕をぶんぶん振り回した。
「ふざっ、ふざけるな!そんな!そんな大事な事!こっ、こんな雑な雰囲気の中で聞いてしまったではないか!」
「なんだよ雑な雰囲気って。初めて聞いたぞそんな単語」
「包帯を仕舞いながら横耳で聞くような!そんな!そんな話じゃないだろ!」
「じゃあどうしろってんだよ」
「そっ、それにうちの事務所だぞここは!」
「解ってるよ見えてるよ知ってるよ!」
「もっ、もっとこう!もっと洒落た高層ビルの夜景が一望出来るホテルの展望デッキとか!」
「んな場所知らねーよ!つーかこの町のどこに高層ビルがあるんだよ!一番高いのでも市役所の3階建てじゃねーか!」
「うるさい!テッドが作れ!もう!このバカ!バカ!バカモノ!」
「何を怒ってんだかさっぱりわからねーよ!」