Deadline Delivers   作:銀匙

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第17話

クーが手にしていたのはビニール袋に入った小さな猫のキーホルダーだった。

それを見たファッゾは溜息をついた。

ミストレルはあのキャラクターグッズを集めに集めてるからな。

本人は上手く隠してるつもりだが、町の誰もが知ってる事だ。

という事はこの展開を最初から見越してたな?食えん奴だ。

ミストレルは震える手でキーホルダーを指差した。

「おっ・・お前・・それ・・」

「コンビニでおむすび買ってクイズで正解しないと貰えなかった限定版だよ~?」

「あ・・ああ・・着てる服が違う・・」

「期間・地域・数量限定だったんだよ~?もうやってないよ~?」

ミストレルがファッゾを見た。

「同じ仕事仲間が困ってるのを見過ごす手は無いよなファッゾ?」

「清々しいまでの建前論をありがとうよミストレル。休暇を取るなら好きにすれば良い」

「うぐ」

「どうする?」

ミストレルは肩をすくめた。

「OK。じゃあ半休な」

「なら俺は何も見てない聞いてない、だ」

ミストレルはクーに振り向き、キーホルダーを掴もうとしたが失敗した。

「こういうのは先払いだろ!」

「成功報酬に決まってるよ!」

「先払い!」

「ダメ!」

「先払いじゃないと行かねーからな!」

「だったらこれオークションで売っちゃおーっと」

「あっ・・それ・・は」

「どーするのかなー?」

「ぐ・・ちゃ、ちゃんと成功報酬としてくれるんだろうな?」

「疑うならいーよ。オークション出せば5万くらいになるしー」

「やめてくださいお願いします」

ファッゾはやれやれと首を振りながら部屋に戻っていった。

どうせミストレルが騙されるに決まってる。クーは伊達に経営者をやってない。

まぁミストレルとナタリアは仲良しだ。滅多な事で紛争にはならんだろう。

 

そして30分後。

「という訳なんだけどさ、姉御」

ナタリアはちらりとクーを見た後、ミストレルに向き直って言った。

「みっちゃん、あたしに厄種押し付けるって事かい?酷い事するねぇ」

「い!?そ、そんな事ないぜ姉御」

目頭を押さえるナタリア。

「うっうっ、友達だと思ってたのにさ・・」

「あ、当たり前だろ!」

ナタリアはハンカチの隙間からチラリとミストレルを見ると

「おおかたクーの古狸に何か物やるって騙されたんだろう?友情を売るのかい?」

ミストレルはクーに向き直った。

「マジか!?やっぱり成功報酬ってのは嘘だったのか!」

クーはジト目でミストレルを見返した。

こいつ、純情過ぎて全く交渉に向いてないや。ファッゾを丸め込んだほうが良かったか。

まぁしょうがない。

クーは軽く両手を上げながらナタリアの方を向いた。

「航路的にはいつも行くルートなんだけど、ムファマスが途中の海域で変な動きがあるって言うんだよ」

ナタリアはじっとクーの目を見ながら答えた。

「それで?」

「僕達の今回の積荷は燃料だからさ、引火したら大爆発しちゃうよ」

「良いじゃない。潔く散りなさいよ」

「散りたくないから頼んでるんじゃん!」

「じゃあテッドに話通して。ワルキューレとしてなら受けてあげる」

「4人分のギャラを出せるほど定期航路のギャラは良くないんだよぅ」

「・・じゃ、変な動きって何さ?隠したら承知しないよ」

ナタリアがすっと目を細める。冗談は通じない雰囲気だ。

クーは溜息をつき、一呼吸置いてから話し出した。

「広範囲の海域で、深海棲艦が全滅してる。僕が通る海域も含まれてる」

「は?全滅って、艦娘の奴らの仕業かい?」

「違うみたい。艦娘も被害にあってるらしいしね」

ナタリアの声が一段低くなる。

「・・まさかモンスターじゃないだろうね」

「さっ、さすがにモンスターって事は・・」

クーは誤魔化しかけたがナタリアの殺気立った視線に耐え切れず、

「すいません。その確率が濃厚だとマッケイからも聞いてます」

と、認めたのである。

 

モンスター。

 

通常見られる深海棲艦が可愛く見える程、規格外の戦闘能力を持つ化け物である。

ここに居るメンバーはいずれも実物を見た事は無いが、その苛烈な戦いは伝説として語り継がれている。

モンスターに逆らうなんてもってのほかであり、自分の縄張りが見つからない事を震えながら祈るしかない。

 

「フン、そんなこったろうと思ったよ」

ナタリアは細巻き煙草に火をつけながら納得したように頷いた。

ミストレルは思い切りクーを睨みつけた。

「てめぇ・・そんな危ねぇ橋をベレーに渡らせようとしてたのかよ」

「ベッ、ベレーちゃんは超広域レーダーを持ってるからそれを頼りたかったんだよぅ」

ミストレルはナタリアに向き直った。

「姉御すまねぇ、この話は無しだ。幾らなんでも無茶苦茶だ」

ナタリアは肩をすくめた。

「定期航路なんてすっとぼけちゃいなさいよ。1ヶ月もすれば艦娘達が始末してくれるわよ」

クーは床に目線を落としながら言った。

「・・テッドも断ってやるって言ってくれたんだけどさ」

「なんだよ」

「情報屋の話を総合すると、モンスターは僕達の古巣の海域に向かってるんだ」

「!」

「もし燃料を持っていかなかったら逃げる時に燃料切れになっちゃう」

「・・お前」

「捕まったら全滅させられちゃう」

「・・」

クーはキッと顔を上げた。

「今行かないといけないんだ!僕の友達が!モンスターから逃げる為の燃料なんだよ!」

ナタリアはミストレルとクーの会話をじっと聞いていたが、紫煙を吐き出すと目を細めた。

 

 

 






感想を書き起こして頂いた皆様、ありがとうございます。
安堵すると同時に、前作でお世話になった方々もちらほら見かけて嬉しいです。
なんといいますか、懐かしいというには早いかもしれませんが、そういう感覚です。
あと、御礼が遅くなってしまいすみません。
リアルの体が只今上期末の事務作業で死に掛けておりまして、昨日は寝てしまったのです。
そんなわけで、平日1話以上の配信はちょっときついのですよ・・

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