Deadline Delivers   作:銀匙

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第12話

 

 

3月6日深夜、アリューシャン列島近海海底

 

「・・チェ。コッチハツーペア・・ウン?」

「ドウシタ?」

小さな監視小屋の中で相方とポーカーをしていた海底国軍の兵士の片方が、ソナー音の変化に耳を澄ませた。

「・・・」

相方への返事代わりに片手を上げ、ソナーの前に戻り、幾つか操作をした後に振り向いた。

「AD7ノ海域ニ・・感アリダ・・妙ダナ」

もう1人が気だるそうに答えた。

「ドウセ無頼者カ、零細軍閥ガウロツイテルンダロ?放ットケヨ」

「イヤ・・」

ソナーからレーダーの操作台に席を移した兵士は一気に顔をしかめた。

「クソ!北カラ大軍ガ海境ニ向カッテ進軍中!ID不明!ウチノ連中ジャナイ!」

「ナンダッテ?北極圏軍閥ノ連中ガ攻メテキタッテノカ?!」

「IDガ検知出来ナイカラ所属ハ不明ダ!数ハ少ナクトモ1000以上!パートリーダーニ緊急連絡ヲ!」

「ワ、解ッタ!」

 

 

同時刻、海底国軍北方パート海境防衛センター

 

オペレータルームの中で、どのオペレーターも次々かかってくる連絡に目を白黒させながら対応していた。

「エエト、海域AQ6ニ1000体以上、所属不明ノ軍勢ガ海域ヲ南下中デスネ?エッ?AP6?」

北方パートリーダーはどさりと置かれた書類を前に目をごしごし擦っていた。

「勘弁シテクレヨ・・」

更に書類を積み重ねた部下は目を三角にした。

「リーダー!早ク目ヲ覚マシテクダサイ!報告分ダケデ10万モノ軍勢ガ進軍シテキテルンデスヨ!」

「・・ウェッフ」

「アアモウ!西パートニ応援ヲ要請シマシタカラネ!」

「ソレデ良イヨ・・全ク、何ガドウナッテルンダヨ・・」

北方パートリーダーは叩き起こされた頭を振りながら必死に事態を整理していた。

少なくとも100箇所の海境付近で、1箇所当たり1000体以上の深海棲艦の軍勢が空白海域に迫っている。

1000体以上、というのは海底国軍が保有するレーダーの同時計測数が1000体までだからである。

つまり少なくとも10万体が我々に向かって進軍している、というのである。

どこもまだ空白海域にも達していないが、速い部隊では後2時間程度で越境するペースだ。

今は元首命令で大本営相手に海境警備部隊を日本近海に集中させており、それ以外は完全に手薄。

当然、それらを呼び戻す訳には行かない。

越境に間に合う次の最寄りは西側の警備を担うセンターであり、そこに援軍を頼んだのである。

だが・・

北方パートリーダーは首を傾げた。

北極圏軍閥とは当然不可侵条約を結んでるし、元々北極圏軍閥は極めて温厚な連中だ。

そして奴らの戦い方はホームである酷寒の海に敵を誘い込み、凍らせて始末するというものだ。

だからこちらが余計な越境行為さえしなければ平穏なものだった。

事実、今まで1度たりとも攻め込まれた事などなかった。

「・・・マサカ」

北方パートリーダーの頬を冷たい汗が流れた。

攻勢ウイルスを北海道沖で艦娘に向かって散布したが、まさか北極圏軍閥の連中まで感染したのか?

そしてそれを我々の仕業だと気づき、怒り狂って進軍してきたというのか?

ならば10万どころか50万を越すと言われる全軍で進撃してきている可能性だってある。

北極圏軍閥海境警備部隊の錬度は高い。我々の精鋭部隊と海境争いが出来るのだから。

決して戦えない連中じゃない。あえて戦わないだけだ。

全軍で来られれば今居る3万体の警備体制では到底押し返せない。

いや、海境警備部隊が全員揃ってても厳しいだろう。

「ホ、本部ヘ連絡スル!シバラク部屋ニ入ルナ!」

北方パートリーダーはコールセンターの様子をちらりと見て、ぶるっと震えながら自室のドアを閉めた。

 

 

3月7日0400時、ソロル鎮守府工廠。

 

「作戦開始1時間前です。各チームは進捗状況を報告してください。繰り返します、作戦開始1時間前・・」

電子アナウンスがひっきりなしに鳴り響き、それをかき消すかのように作業音が鳴り響く。

工廠付近は船がみっしり詰まって並んでおり、次々と作業が施されては出航していく。

鎮守府の妖精に加え、普段は日向達の基地で艦娘化作業をしている妖精達も加勢しているがギリギリだ。

溶接の火花があちこちで滝のように流れ落ち、すぐ近くの船からは揮発性溶剤の匂いが漂っている。

通常であれば

「安全確保せんか馬鹿者!」

と工廠長が怒鳴るような有様だが、今はそうも言ってられないのである。

 

ガシャッ!

メンテしたMP7にマガジンを叩き込んだナタリアは、同行するメンバーをくるりと見渡した。

フィーナ、ミレーナ、フローラ。

艦娘時代からずっと一緒に戦ってきた、阿吽の呼吸で動いてくれる部下。

こういう時は何よりも頼れる、心強い存在だ。

「落ち着いてチェックしてね。充分猶予はあるわ」

「はい」

その時、ナタリアは背後から声をかけられた。

「チームブラボーはアンタ達だよな?」

 

 

 


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