Deadline Delivers   作:銀匙

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第10話

 

 

3月5日朝 柿岩家会議室

 

「以上を総合しますと、ここ数ヶ月の間で、物資や出入りが頻繁だったのはこれらの4海境に絞られます」

3課長の報告を聞き、防空棲姫は頷いた。

「後はその先のどこにプラントがあるかですが・・実際に越境する訳にも行きませんね」

レ級組組長が手を打った。

「そうだ。海軍なら衛星を持ってませんか?」

防空棲姫は元老院の面々と頷きあった。

「浮砲台組長殿に連絡を取ってください。ソロル鎮守府に報告して調べて頂きましょう」

 

 

4時間後、ソロル鎮守府通信棟。

 

スピーカーから聞こえてくる中将の声には焦りの色が濃くにじんでいた。

「衛星写真とその解析は最優先で手配した。後30分もすれば結果が出る筈だ」

「ありがとうございます」

「・・・依頼からたった3日でここまで掴んでくれた事には感謝しなければならないのだが・・」

「大和さんの容態が、良くないのですね?」

「・・うむ。今はもう、横になったままで、起きる事も難しいそうだ・・」

「・・・」

「提督・・解っている。解ってはいるのだが・・急いで欲しい・・」

「勿論です。我々も大和さんには恩がありますし、大事な友人ですから」

「頼む・・・んっ?!入れ!」

「どうしました?」

スピーカーの向こうでごにょごにょとやり取りが聞こえ、五十鈴の声が聞こえてきた。

「提督、待たせたわね。連絡を受けた海域の衛星画像を解析したけど、可能性があるのは1箇所しかないわ」

「どこです?」

「ウェーク島の西1kmにある比較的浅い海底よ。他の候補の調査結果も含めて詳細は暗号通信で送るわ」

「お願いします」

「じゃ、通信終わり。しっかりね!」

「あ、まだ中将殿と・・」

「ダーリンの事なら私が励ましておくから大丈夫!そっちはそっちの仕事をして!」

「解りました」

提督は通信機を切ると、ゆらりと立ち上がりながら長門に言った。

「そうだ・・良い事を思いついた。皆を集会所に集めてくれないかな」

長門は提督を見てゾクリとした。

提督が蛇のように暗い目で邪悪な笑みをたたえている。

ずっと平静を装ってはいるが、提督は今度の件に怒り心頭である事を長門は察していた。

いよいよ、我々が攻勢に転じるという事か。ならば地獄の底まで付き合おう。

長門は頷いた。

「任せろ」

 

それから1時間ほど、集会場はパーティーかと思うほど賑わっていた。

発端は提督が状況説明の最後に放った「一言」であり、どう実現するかを皆で話し合っていたのである。

検討すべき課題はハードで、大量で、一見すると不可能なものだった。

それでも皆の表情は今までと明らかに異なっていた。

なぜなら霧の中で迷走している訳ではなく、明確に目標が定まっているからである。

賑やかで、騒々しく、笑い声が飛び交う中、猛烈な勢いで一言が草案に、草案がプランへと整っていく。

その様子を間近で見る事になった浮砲台組長は後に防空棲姫に青ざめた顔でこう語った。

 

「連中は狂った作戦を技術力で無理矢理実装します。そこには常識の欠片も無い。絶対敵対してはなりません」

 

 

同時刻、大本営郵送室。

 

「大和さん、お水です。少しでも飲んでください」

「余り・・近寄らない・・方が・・良いですよ・・ゲフッゲフッゲフッ・・ゴハッ」

「どうせ私も遅かれ早かれかかります。さぁ、これを飲んだら少しでも寝てください」

「ごめん・・なさい・・」

机の上に敷いた布団から伸びた大和の手を取ると、熱く、そして弱々しかった。

郵送室の担当者はそっと手を取り、布団の中へと戻すと、大和の額に冷水で絞った手ぬぐいを乗せた。

こんなに具合が悪いのに、ずっと大和さんは私の事ばかり気にかけてくださっている。

誰が、何故、こんな事を・・・

 

 

3月5日昼過ぎ、ワルキューレの事務所。

 

「また龍田会でしょ。嫌な予感しかしないわね」

「今回は窓口は龍田だが依頼元はソロル鎮守府だ。ただまぁ、その意見には賛成だ」

テッドは肩をすくめつつ紫煙を吐き出した。

ナタリアは気だるそうにメモの紙切れを眺めながら、細巻き煙草に火をつけた。

「・・絶対これ、アタシ達を前提にしてるオーダーよね」

「俺もそう思うぜ。しかもソロルまで来てくれってよ」

 

 屋内戦の経験が豊富で機転の利く1艦隊。全員深海棲艦で。

 

ナタリアは上目遣いにテッドを見た。

「他のオーダーは?」

「ありったけ艦娘を集めておけ、とさ。これは町で待機してれば良いそうだが」

「他に条件無いの?」

「無い。だから応じた艦娘は全員準備に入らせるさ」

「艦種の限定も無いの?何がしたいのかしら」

「誰でも出来るとなりゃ輸送くらいしかねぇし、本当に手が足りねぇんだろう」

「ギャラはちゃんと出るんでしょうね」

「今回は請求しただけ払ってくれるそうだ」

「危険手当も欲しいわね」

「ああもちろんだ。ふんだくれるだけふんだくってやる」

「そこは任せたわよテッド」

「じゃあ受けてくれるか?」

「他となるとSWSPしか居ないでしょ。あっちはテッドの警備があるし、無理よ」

「そっか。すまん。あと、やけに金払いが良い所が却って引っかかる。装備は固めていけよ」

「せめてターゲットが何かくらい教えてくれれば良いのにね」

「最初の3文字がそうなんじゃねぇか?」

「・・兵装は装甲系で馴れた武器を持っていくべきかしら」

「相手がどんな奴とは書いて無いぞ。深海棲艦かモンスターかさえ解らん」

「龍田も解らないのかもね。まぁ後はフィーナ達と相談するわ」

「出発時刻とか集合場所はこの紙を見てくれ。じゃ、よろしくな」

「ええ」

テッドとナタリアは同時に立ち上がった。

 

 

同時刻、虎沼海運社長室。

 

虎沼が恵と来年度の戦略について話し合っている所に内線が鳴った。

「なんだ?」

「社長、ソロル鎮守府の文月様からお電話が入っておりますが」

虎沼は恵を見ながら答えた。

「会議システムにつないでくれ。オープンで受ける」

 

「文月様、ご無沙汰しております」

「はい。恵ちゃんも元気ですか~?」

「元気だよ~」

「それで、えっと、そちらには今、お二人以外はいらっしゃいませんか?」

「ええ。私と恵の2人だけです」

文月が一瞬、間をおいた後に話し始めた。

「・・実は、うちの鎮守府からアメリカに輸送したい物があるんです~」

「なるほど」

「それがとても沢山あるのですが、今何隻くらいチャーター出来ますか~?」

「恵」

恵はタブレットでファイルを呼び出すと、すばやく数を数えた。

「んー、定期便とか修理中を除くと・・・当面予定が無いのは28隻、かな。充分ありますよ」

「修理中というのは、うちにドック入りしてる2隻の事ですね?」

「そうよ」

「じゃあその2隻も含めて30隻、まとめてお借りしても良いですか~?」

 

 

 


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