Deadline Delivers   作:銀匙

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第4話

 

 

「本当に・・本当にふざけてるわね!」

雷は自室への道を歩きつつ怒りが収まらない様子だった。

しばらく歩いた所で、ヴェールヌイ相談役があっと短く声を上げたので、雷は振り向いた。

「どうしたのよ?」

「そうだ。おかしいよ雷」

「何が?」

「我々と深海棲艦の身体的特徴に関する特別機密事項は覚えてるかい?雷」

「・・深海棲艦と艦娘は共通事項が多いって事?」

「そう。特に身体機能についてはほとんど同じと言って良い」

「だから連中も海中では生命維持装置が必要なんでしょ。覚えてるわよ」

「深海棲艦はどうしてウイルスが蔓延している鎮守府に乗り込んでるのに平気なんだろう?」

「えっ?」

「私達が容易に感染するようデザインされたウイルスなら、深海棲艦達も感染するんじゃないのかな?」

「深海棲艦達も感染してるって事じゃない?鎮守府への攻撃とは無関係かもしれないし」

「えっ?わざわざ死のリスクを冒してるって事かい?」

「そもそも、鎮守府に対する深海棲艦の攻撃はほぼ全ての鎮守府で日常的に起きている事よ」

「・・・そうだね」

「発症すると哨戒や迎撃が出来ないから滅ぼされた。普通なら撃退出来るから事無きを得ている。違う?」

「まぁ、戦争が始まった頃、小さな島に住んでいた人間達はそうやって滅ぼされたわけだしね」

「ええ。だからそのうち、感染した深海棲艦と戦う可能性も出てくるかもしれないわね」

「・・いや、そうか。むしろそうだったのか」

「第9642鎮守府が感染した感染源は、深海棲艦ってこと?」

「となると、緊急に防疫手段が必要なんだけど・・・」

「そうね・・でも・・」

雷とヴェールヌイは今尚騒がしい881研の棟の方を振り返り、雷は肩をすくめた。

「・・ワクチン開発にしろ、治療薬開発にしろ、頼みの綱は燃えてしまったわ」

「それらを外注しようにも・・また検体を手に入れなければならないね」

「いいえ。人に感染する以上、検体を外に出すのは危険過ぎる。万一市街地で漏れたら取り返しがつかないわ」

「881研の人的被害が少なかったのがせめてもの幸いかな」

「そうね。出来るだけ早く建物や設備を修復して、やってもらうしかないわね」

ヴェールヌイ相談役は首を振った。

「冬は好きな季節なのに」

「早く戻りましょ。ここで普通の風邪引いたら紛らわしすぎるわよ?」

「そうだね」

二人は再び歩き出した。

 

 

同じ頃。

ミレーナはキッチン「トラファルガー」でフローラと飲んでいた。

家でも禁じられている訳では無いが、飲まない人間が多いと飲みにくいのである。

「この時期は本当に仕事がなくなるわよね~」

「ボスが閑散期の分まで計算してギャラ交渉してくれるから良いけど、私達だけならお手上げよね」

「ワルキューレに」

「ボスに」

「かんぱーい」

 

カロン♪

 

習慣で入口を見たフローラはそのまま声をかけた。

「やっほー、スターペンデュラムの那珂ちゃんじゃない。どうしたのそんなしょぼくれた顔しちゃって」

呼び止められた那珂はじっとフローラを見た後、ぶわわっと双眸から涙を溢れさせた。

「う・・う・・うえーーーん!」

「えっちょっとどうしたの?止めてよ人の事見て泣き出すの」

ルフィアが肩をすくめた。

「素直に謝った方が良いわよ」

「本気で何もしてないわよ!ちょっと那珂からちゃんと言ってよ!」

那珂は腕で目をごしごし擦りながら言った。

「契約が・・定期契約が3つも切られちゃったの・・」

クーが厨房からひょいと顔を覗かせた。

「うえ。3つ同時は痛いね。別のお客さん?」

「ううん。同じお客さん。2次問屋さんなんだけど・・うちとの契約を・・全部解除するって・・」

「なんかヘマしたの?」

「してないもん!今日だってちゃんと届けたって明細持っていったんだもん!」

「ふーん。それで?」

ルフィアに促された那珂はカウンター席に腰掛けた。

それを合図に店内はしんと静まり返った。

とても他人事とは思えないDeadline Delivers達が耳をそばだてて聞いている故である。

那珂はしょんぼりと肩を落としながら続けた。

「理由も聞いたんだよ。那珂か誰かが気に触る事しましたかって」

「うん」

「でもそうじゃなくて、あちこちの取引先と連絡が取れなくなって焦げ付いてるんだって」

「あっちゃー・・那珂も輸送料取りっぱぐれたの?」

「ううん。うちは毎回現金で支払ってもらってるもん」

 

企業同士の取引は、基本的に品物の受け取りと代金の支払いの間に期間的な間隔がある。

この間に取引先が倒産するなどで代金を回収出来ないトラブルを焦げ付きという。

那珂のように現金取引をしている場合は起きないが、これが出来るのは額面が小額だからであろう。

実は金融機関も含め、企業は手元にそれほど大金を置かないのが普通なのである。

 

「で、3つも定期契約をなくしちゃったから落ち込んでたと」

「うん。うちがミスした訳じゃないし、仲良しのお客さんだったから・・寂しいなって」

那珂の話がそろそろ終わりだと察したDeadline Delivers達は一斉に話を再開した。

クーが肩をすくめたのを横目に、ミレーナが那珂に声をかけた。

「それならまた呼んでくれるわよ。なんか奢ってあげるから元気出しなって」

那珂はぴょこんと顔を上げた。

「ほんと!?じゃあルフィアさん、トリプルベリーチョコパフェのXLサイズください!」

「はーい、景気の良いオーダー入りましたー」

ルフィアは呆然とするミレーナをちらりと見ると、笑いをこらえながら厨房に入っていった。

ミレーナはげっそりとした顔で言った。

「あ、あんた・・一気に元気出たわね・・」

「アイドルは~、切替が大事なんだよっ!」

「だったら入ってくる時から元気にしてなさいよ」

「誰か奢ってくれるかなって。きゃは♪」

イラッ☆

青筋を立てながらホルスターに手をかけるミレーナの肩を、そっとフローラが叩いた。

「騙されたアンタの負けよ」

「おのれこのド腐れアイドルぅ~」

「それはそうと那珂ちゃん」

「はーい?」

「その連絡が取れなくなった取引先って、うちらの仲間?それとも人間?」

「んー・・」

那珂はライネスから巨大なパフェを受け取りつつ眉を顰めていたが、

「多分うちらのお仲間じゃないかなぁ。ボーキサイトとか常にリクエストされてたし」

「今までそんな話聞いたことあった?」

「ううん。今回が初めてだって問屋さんも言ってたよー」

「そう・・」

フローラは腕を組んだ。

艦娘、あるいは深海棲艦が突然かつ一斉に失踪、か。

ちょっとボスの耳に入れておこうかしら。

 

 

 




実はスターペンデュラム初登場?

表記を1種類訂正しています。

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