天龍は金剛の後に大人しく従っていたが、ついに肩をすくめた。
「・・なんなんだよ、金剛さんよ。こんな裏っぺりまで連れて来てさ」
「んー・・」
金剛は周囲を何度か見回した後、頷いて言った。
「おかしいと思いませんカー?」
「何がだよ」
「早霜デース」
「・・イカれてるってんなら賛成だぜ。いきなり仲間撃ち殺したんだからよ」
「そこデース」
「・・あん?」
「早霜と出撃した時の事、思い出してみてくだサーイ」
「・・・」
「仲間を差し置いていきなり撃ったり、前に出たりする子ですカー?」
「・・ちげーな。アイツはずっと戦況を見てて、必要なら急所に一撃ってタイプだ」
「デース」
「だから今回だって夕張と島風を一撃で仕留めたんだろ?あってるじゃねーか」
「撃った理由はどうですカー?」
「・・・んー・・そういや・・」
「YES。あまりにも感情的で短絡的デース」
「・・どういう事だよ」
「NEXT。早霜はあんなに出歩く子ですカー?」
「・・いや・・あいつはむしろインドアタイプだ」
「デース」
「そういや・・昨日からやけに見かけるな・・高波と二人で・・」
「YES。あの子達は何かを探してマース」
「何かって何だよ。自分を睨む奴って事か?」
「それなら話を聞いた直後から露にしてる子は多いですし、もう解ってる筈デース」
「・・んー?」
金剛は天龍の耳元で囁いた。
「逆って事は、無いデスカー?」
「逆って・・睨むことの、か?」
「YES」
「・・け、けどよ、それを何で今更探すんだ?」
「それはつまり、夕張に害を成す存在デース」
「え?だってもう夕張は・・あっ!!!」
短く声を上げた天龍に、金剛は唇に人差し指を当て、声をひそめた。
「シーッ!全ては仮説デース。でもその方が、全部繋がると思いませんカー?」
「・・だから歩き回り、探してるってか?」
「ただそのやり方は、早霜と高波が自らを囮にしてるって事デース。Dangerousデース」
「それでもアイツらは・・夕張に今後危険が及ばないようにしてるってことか・・」
「YES」
「俺達はどうすりゃ良い?」
「仮説が正しければ、確認を終えたら二人から説明があると思いマース。それまで・・」
「二人に手出ししねぇよう引き締める、ついでにそっち側の奴も探す。だな?」
「YES。天龍は察しがイイネー」
「んー・・軽巡連中には仮説を説明しねぇと引き入れられねーぞ?反発してる奴も多いしよ・・」
「天龍から説明してもらうのは荷が重いですカー?」
「・・午後に川内型・球磨型全員とミーティングがあるが、その時説明して良いか?」
「あまり広範囲に行うと早霜のターゲットが警戒してしまいマース」
「んー・・夜戦馬鹿とクマと筋トレ女だけで大丈夫かなぁ・・」
「バランスがとても難しいネー、だから天龍に任せマース」
「そっちは、任せて良いんだな?」
「YES。重巡、空母、戦艦は私と霧島で話すネー」
「後は潜水艦か・・イクに言っとくか」
「潜水艦の子達は横の繋がりが太いデース。それで良いネー」
「やれやれ。それならそうと俺にくらい言えってんだ。高波も早霜も水臭ぇなー」
「・・あの子達はとても真面目で、最後までやり通す子達デース」
「けど、何でも背負い込みすぎるのが玉に瑕なんだよ」
「・・YES」
「ま、金剛の仮説を踏まえるとスッキリ説明が付くし・・それに」
「それに?」
「そうであって欲しいな。俺としてもよ」
金剛と天龍はニッと笑いあった。
こうして鎮守府は、どこかいつもとは異なる雰囲気に包まれていった。
その夜。
コン・コン・コン
ノックの音に一瞬の間を置いて、扉がゆっくりと開いた。
「・・・こんばんは、です」
「っ!」
ノックしたあきつ丸は、現れた高波の顔を見てどきりとしたが、すぐに目を瞑った。
そうだ。
高波も早霜と同じ夕雲型の生き残り。同じ部屋で当然だ。
レイ殿は気づいていたのでありましょうか・・当然、そうでありましょうな。
もし武器を持っていたら、あるいは間違えて・・
観念したように溜息をついたあきつ丸は、目を開けて苦笑した。
「こんばんは、であります」
「ちゃんと説明するので、入って欲しいかも、です」
あきつ丸は無言で頷き、中に入って行った。
部屋には布団が敷かれ、その奥できちんと正座した早霜が待っていた。
「・・・まずは、必要性があったとはいえ、騙した事を、お詫びします」
向かい合うように座ったあきつ丸に、早霜は深々と頭を下げた。
あきつ丸は怪訝な顔になった。
「・・砲撃した事、で、ありますか?」
「正確には、ゴム弾で撃った事を今まで言わなかった事、ですね」
「・・えっ・・なぜ・・・そん・・あ・・あむっ!」
あきつ丸はもう少しで大声をあげそうになり、慌てて自らの両手で口を塞いだ。
早霜は頷いた。
「これからレイさんに連絡を取り、答えあわせを行います」
「こ、答えあわせ、で、ありますか?」
「はい。状況から考えると、私が考えた事と、レイさんの企みは相違ない筈です」
早霜はスマホを手に取った。
「こちらに夕張会専用アプリ、幹事君をインストールしました。初期設定も済ませてあります」
「・・」
「では、レイさんに・・ダイレクトコールを・・行います」
早霜の手がかすかに震えている事に気づいた高波は、そっと早霜の太ももに手を置いた。
早霜は揺れる目で高波を見返した。
「ね、姉さん・・」
「大丈夫。早霜ちゃんの推測は間違ってないから、怖がる事は無いです」
早霜はぎゅっと瞑った後、薄く目を開け、幹事君のダイレクトコールボタンをタッチした。
IDは・・0が5つ・・