Deadline Delivers   作:銀匙

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第15話

「絶・対・に!ファッゾさんが運転してくださいね!」

 

早々と軽トラの助手席に座り、涙目で訴えるベレー。

「はいはい、じゃあ帰るとするか」

運転席でシートベルトをしながらファッゾは思った。

あの道を嬉々として運転したがるミストレルは肝が据わってるんだな。

ベレーの様子を見る限り、艦娘だからってわけでもなさそうだし。

・・ナタリアはジャムを買いにしょっちゅうハーレーで来てるらしいが、あれは論外だ。

 

3時間後。

「届けて・・きたぞ」

グロッキーな表情を浮かべるファッゾとベレーにビットはけろりとした顔で

「結構早かったじゃない。こっちは部品入れ替えてテスト中よ。もうちょっと待って」

そう答えると、アイウィが

「お疲れ様!麦茶だよ!」

そう言って2人分の麦茶を盆に載せて立っている。

さすが最速を誇る島風。気配りも一流である。

「やぁありがたい。ベレーも飲むと良い」

「い、頂きます・・」

二人がグラスを受け取ると、アイウィはにこりと微笑んで手を出した。

「?」

「御代」

「麦茶で金取るのか!?」

「トラクターの修理代っ!預かってきたんでしょ?」

「あ、ああ、そうか。これだ」

封筒をそのまま渡すとアイウィが早速中身を確認し、

「・・・ん。丁度だね。確かに!」

といってポケットに仕舞った。

その時ビットが計器を片付けながら振り向いた。

「お待たせ!これで良いと思うわ。ガスの抜けも無いみたいだし」

と言ってきたのである。

 

「涼しい・・極楽・・」

ドバドバと冷風を吐き出すBMWの室内でベレーが感動している頃。

ファッゾは修理代の支払いを済ませながら、ふと用件を思い出した。

「そういえばさ、ビット」

「なーに?」

「あいつの事なんだが」

ファッゾがベレーを指差し、続けた。

「燃料を生成出来る機能が艤装にあるようなんだが」

「ふんふん」

「外販する為に大量に作って、その、あいつ自身に悪影響は無いだろうか?」

「うーん」

ビットは少し考えこんでいたが、

「ちょっと艤装見せてもらえるかしら?」

と返した。

 

「生成装置ハコノ辺リダト思イマス」

「ふんふん。これね。海水はどこから取り入れるの?」

「足首ノ辺リニ取水口ガアリマス。生命維持装置ノ取水口ト共有デス」

「なるほどねー。ちょっと燃料貰っても良いかしら?」

「ハイ」

ベレーがニ級に戻り、ビットが説明を聞きながら装置を調べている。

遠くで見守るファッゾに、アイウィが声をかけた。

「ベレーちゃんの艤装で商売するの?」

「俺はさせたくないんだがな・・命を削ってまで商売する事はない」

「でもさ、ベレーちゃんの生成出来る燃料って誰でも使えるの?」

「さぁな。お互い燃料という1つの単語で言ってるが、同じ物かどうかも解らん」

「だよねー」

 

しばらくして、ビットがフラスコを手に戻ってきた。

「うん、一般的なケロシンとほぼ同一の成分。燃焼特性も同じ。海水から生成出来るなんて羨ましいわ~」

「どうだった?生命や艤装の重要な装置に影響はありそうか?」

「ううん。構造は結構単純で、触媒みたいなのを通してるだけよ」

「そ、そうか」

「元々大量に変換する事を想定してるみたいね。ただ・・」

ファッゾがピクリと反応した。

「なんだ?どんな悪影響があるんだ!」

「取水システムはベレーちゃんの体力がエネルギー源なのよ。ガス欠でも動けるようにでしょうね」

「それで?」

「だから燃料変換すると、ベレーちゃんはお腹がすく筈よ」

ベレーはこくこくと頷いた。

「ただ、ベレーちゃんは体力維持に必要な栄養も海水から取れるでしょ」

「ハイ」

「だからある程度燃料を生成したら、今度は体力回復の為に栄養生成モードに切り替えないといけない」

「ソウデスネ」

「そういう意味で連続生成は難しいわ。多分ベレーちゃんの燃料タンク一杯分位が連続生成出来る上限だと思う」

「ハイ。ソンナ感ジデス」

ファッゾは首を振った。

「そんなに身を削ってやる事は無いよ、ベレー」

ベレーは人間の姿に戻ると、

「でも、ご飯1回分でタンク1杯分の燃料が作れますよ?」

「装置が壊れたらベレーの命に関わるだろ?」

ビットは肩をすくめた。

「まぁ取水装置くらい直してあげるけどさ」

「ビットは黙っててくれ」

ファッゾが睨んだので、ビットは肩をすくめてアイウィに囁いた。

「まるでお父さんだよねー」

アイウィがニッと笑って返した。

「娘がアルバイトするなんて許さーんって感じ」

「うるさいぞ二人とも」

「はーいはい」

しゅんとするベレーにファッゾは続けた。

「俺は前も言ったが、生きる為に必要な金を稼ぐだけで、金を稼ぐ為に命を削って欲しくないんだよ」

「ファッゾさん・・」

「どうにもならなくなったら頼むかもしれないが、今はやらなくていい」

「・・」

「それこそベレーは片付けや掃除、洗濯なんかをキチンと出来るんだから、そっちの方を生かすとか」

そう、言いかけたとき。

「えっ!ベレーちゃん掃除得意なの!?」

目を輝かせて見事にハモったのはアイウィとビットであった。

 

ファッゾとベレーは涼しい車内に満足しつつ、事務所へと車を走らせていた。

「結果オーライだったな、ベレー」

「はい。週1でハウスキーピングのアルバイトが頂けるとは思いませんでした」

ビットとアイウィの修理工場は、別名ゴミ屋敷である。

確かに部品取りの車が置いてあったりと工場ゆえやむをえない所もあるが、二人とも片付けが超苦手である。

ゆえにベレーに掃除のアルバイトに来ないかと誘ったのである。

勿論コキ使われないよう、ファッゾが睨みを利かせて交渉したわけであるが。

「うん、夕島整備工場で掃除のアルバイトなら安心だ。うん」

何度も頷くファッゾをちらりと見ながら、ベレーはそっと微笑んだ。

深海棲艦の自分でも、ファッゾはとても大事にしてくれている。

それが嬉しかったのだ。

 

 





コメントが恐ろしいくらい少ないので不安です。
マニアック路線ゆえ仕方ないとは自覚してますが・・・
まぁその、豆腐メンタル仕様なのですよ、私は。

とはいえ、そろそろ駒も揃ってきたので動かしていきますよ。
場が動けばきっとコメントも増える・・はず・・きっと・・多分。

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