Deadline Delivers   作:銀匙

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第11話

 

レイはスマホを取り出すと幾つか操作し、話し始めた。

「ビットちゃーん、聞こえるぅ?」

「はい!レイさんばっちりです!」

レイはひょいとスマホを五月雨に向けた。

「じゃ、話して良いわよ」

浜風がポリポリと頬をかいた。

「あー、お会い出来る訳ではないんですね」

レイは首を傾げた。

「私、会わせるって言ったかしら?」

浜風に見られた五月雨はゆっくりと頷いた。

少なくとも当てもなく追っているよりは遥かに進展した状況だ。

五月雨は軽く息を吸うと、自分達が霧島に頼まれた事と、妖精達の手紙を話していった。

ビットは時折相槌を打ちながら聞いていたが、妖精の手紙のくだりを聞き終えると、

「そう。あの子達、そんな事までしてくれたの・・」

と呟いた。

五月雨は俯きがちに言った。

「私達は、一服盛られた事も含め、あの夜の司令官の様子では仕方なかったと考えてます」

 

その時。

「そっ、それは・・え?ばりっち?」

薬を飲ませたのは自分と妖精であり、ビットではない。

アイウィはそう言いかけたのだが、ビットはそっとアイウィの肩に手を乗せて囁いた。

「言わなくて良いわよ、島ちゃん」

「でっ、でも・・」

「もう、過ぎた事だし、妖精さんが罰を受けちゃうでしょ」

にこりと微笑んだビットの笑顔に、アイウィは深い覚悟を見た。

確かに、二人でもう結論は出したのだけど。

 

スピーカーから五月雨の声は続いていた。

「霧島さんは夕張さんの意思を聞いて、お互いの落とし所を見つけて欲しいといいました」

「そうでなくても、私達も、夕張さんに今まで沢山無理を聞いてもらったご恩を忘れてはいません」

「でも私達の鎮守府が取り潰されて欲しくないと思う気持ちもあるんです」

「どこか、良い解決策は無いでしょうか・・・」

ビットはアイウィを見た。

アイウィはきゅっと唇を結び、こくりと頷いた。

一呼吸置いてから、ビットはマイクに向かって話しかけた。

「解ったわ、じゃあ2人のIDプレートを返します」

「えっ?」

「私達は鎮守府に帰る意志はないわ。処罰の後も冷遇されるのが目に見えてるしね」

五月雨は俯いた。

「・・そう、です、ね」

本当はそれどころではなく、帰ったら即刻解体される。

喉元まで出かかったが、レイが首を振ったのでぐっとこらえた。

一方、アイウィは唇を噛んでいた。

ビットには言ってないが、あの晩司令官は強制解体だと大声で怒鳴っていた。

厳罰なんて生温い物ではない。騙すなんて酷い。ばりっちは私が守らなきゃダメだ!

ビットは静かに続けた。

「あと、私達は他所の鎮守府に行くつもりも無いわ。静かに暮らしたいだけよ」

「・・」

「だから私達を見つけたけど逃げたから仕方なく撃ち、轟沈させた証としてIDプレートを持ち帰った」

「!」

「そういう事にしてもらえないかしら」

五月雨はレイに向かって訊ねた。

「そ、それで、その、大本営は認めてくれるのでしょうか?」

レイは目を細めつつ言った。

「・・ビットちゃん、ちょっとこっちで相談するから待っててね」

「はい、お願いします」

レイはビットの答えを聞いた後、スマホのマイクをそむけ、五月雨達にだけ聞こえるように呟いた。

「実際の話、艦娘が戦闘中に轟沈する事は頻繁に起きてるわ」

「そう、ですね」

五月雨は俯いた。

所属する110鎮守府でも、定刻哨戒ですら強い深海棲艦と遭遇した等の理由で轟沈者が出る。

大討伐事案では駆逐艦や軽巡は必ず轟沈者が出るし、時には重巡や戦艦クラスでも轟沈する。

そんな時は司令官がとても不機嫌になるのだが、霧島が以前、

「司令は皆にではなく、敵に対して憤ってるんですよ」

と教えてくれたっけ。

レイは続けた。

「轟沈した艦娘の船魂を持ち帰れない時はIDプレートを代替とする。これは正規ルール」

「はい・・」

「合意があるなら本来は契約解除と解体が正式な退役方法だけど・・」

「話し合えない以上合意出来ないし、成り行き次第で身の安全すら保証されない可能性もある・・ですね?」

「そういう事。だから次善の策として、IDプレートのみの返還というのは妥当じゃないかしら」

五月雨は浜風を見た。

「・・どうしよう、浜ちゃあん」

今にも泣きそうな五月雨に浜風は溜息を吐きながら答えた。

「理屈は合ってますし、我々が轟沈させたのも元々司令が命じた通りといえば筋は通ります」

高波が呟いた。

「でも、司令官さんは、本当は夕張さんに帰ってきて欲しいって思ってる気がする、かも・・」

あきつ丸は静かに首を振った。

「本心がそうだとしても、あれだけ大立ち回りした後で意見を変えるのは難しいのであります・・」

「そう、ですよね・・・」

レイは無言の早霜を含め、それとなく5人の表情を見回し、ちらと右手に居た夕張に目配せをした。

その夕張は頷くと、そっと群衆に紛れて行った。

レイは五月雨に尋ねた。

「答えは決まったかしら?」

「・・・はい」

レイはスマホを五月雨の方に戻しつつ言った。

「じゃ、ビットちゃんに言ってあげて・・・お待たせ、ビットちゃん」

「大丈夫です」

五月雨は少し躊躇ったが、頷きながら言った。

「夕張さんがそう仰るなら、IDを私達が持ち帰ります。寂しいですけど・・お別れですね」

スピーカーから声が聞こえた。

「ごめんね五月雨ちゃん。じゃあ二人でIDプレート持っていくね」

五月雨の顔がパッと明るくなった。

「あっ、じゃあ最後にお会い出来るんですね」

レイが肩をすくめた。

「通信が切れちゃったわね・・待ってて。もう来る頃だから」

少しして、群集が割れた間を夕張と島風が手を繋いで現れ、静かに五月雨達の方に向かってきた。

五月雨が手を振りながら、

「夕張さん、島風さん、今までありが・・」

そう、言い始めた時。

 

 

 

 ドドドン!

 

 

 

至近距離で突然砲音が鳴り響き、向かってきていた二人ががくりと倒れ伏した。

すぐに二人の近くにいた夕張達が悲鳴を上げながら周りを取り囲んだが、程なく一帯が強く光った。

それは五月雨や浜風が悲しいくらい見慣れた、艦娘の轟沈を告げる光そのものであった。

 

 

 


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