Deadline Delivers   作:銀匙

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第9話

 

浜風達が引き返す頃、五月雨達は大本営の入り口にいた。

 

「ご用向きは?」

「・・・へっ?」

五月雨は、今、警備兵に問われるまで大本営に来た表向きの理由を考えていなかった。

まさか逃亡した夕張達と連絡が取りたいから夕張会に向かうんですなどとは言えない。

何と言おうかと冷や汗をかいてる様を見て、高波がそっと

「あ、あの、司令官に、こちらで売ってるお土産を買ってくるよう頼まれたのかも、です」

と小声で言ったので、怪訝な顔をしていた警備兵は苦笑した。

「なるほど。そういう司令官最近多いんですよね。まぁ本来は違反なんですが・・内緒にしときましょう」

「す、すいません」

「お土産コーナーはそちらの通路をまっすぐ行った先ですよ。お気をつけて」

「ありがとう、です!」

警備兵と別れてしばらく歩いてから、五月雨はそっと高波に言った。

「あ、ありがとう高波ちゃん。ごめんね」

高波はにこりと笑った。

「気にしないで良いのです」

「とっ、ところで・・夕張会の建物ってどこにあるのかな・・」

高波は少し首を傾げて考えていたが、

「いかにも夕張さんが居そうといえば、工廠・・かも?」

「そっか!大本営の工廠エリアですね!行ってみましょう!」

「はい!」

 

そして。

 

「う・・わぁ・・」

それは多分、ずっと前は普通のプレハブだったのだろうと思われる。

しかし、その外壁は焦げたり溶けたりした所を異なる外壁でつぎはぎされ、工業系の匂いが辺りに漂っている。

よく解らないアンテナが屋根から空に向かって突き出ていたり。

壁に埋め込まれた電子部品のランプがチカチカと瞬いていたり。

高波が納得したように頷いた。

「いかにも夕張会の建物かも、です」

「え、えっと、皆で掃除して終わるんじゃなかったっけ・・」

五月雨は引き気味だが、高波はそっと窓から中を覗き込んで言った。

「でも、中は片付けられていて、綺麗かも」

「えー・・・あ、ほんとだ。意外ですね・・」

そんな話をしていた所、

「あなた達、夕張会に何か御用かしら?」

二人が振り向くと、大きなバールのようなものを手にしたジト目の夕張が一人。

そして見た事もない二足歩行型の武装したロボットが夕張の後ろに2体。

2体はまっすぐ銃口をこちらに向けている。

高波が「ひょうっ・・」と息を飲んだかと思うと、その場にぺたんと座り込んだ。

「ちょっ!高波ちゃん!高波ちゃん!」

「こ・・腰が・・抜けました・・」

蒼白になった高波を、夕張はポリポリと後ろ頭をかきながら見ていたが、

「しょうがないわねぇ・・アルファ、ベータ、私についてきて。二人が逃亡したら発砲を許可するわ」

「「リョーカイ」」

「ほら、肩貸してあげるから。中で話聞かせてもらうわよ」

そう言って夕張はプレハブの鍵を開けた。

 

 

「で、二人は何してたのかしら?」

夕張は五月雨達に近くのパイプ椅子を指差し、自分は向かいの長椅子に腰掛けた。

「えっと、その・・うちの鎮守府の夕張さんと連絡を取りたいんです」

五月雨はそう言いつつ、夕張の後ろの2体をちらちらと見た。

銃口は相変わらず、ぴたりと自分達を狙っている。

夕張はますますジト目になった。

「普通にインカムなり通信棟で連絡すれば良いじゃない。壊れたの?」

「あ、あのっ、秘密を守ってもらえますか?」

「秘密?」

「はい!」

「・・それはその夕張に関係するのね?」

「はい・・」

夕張は少し五月雨を見つめていたが、やがて肩をすくめた。

「話の流れ次第ね。私達の仲間に危険が及ぶなら約束は反故にするわよ」

「逆・・とも・・そうです・・とも・・言えないです」

「んーまぁ、話して御覧なさいよ」

五月雨は拳を握った。これはやむを得ない。

「はい・・お話します」

 

15分後。

 

「そういう訳で、あきつ丸さんの案に従って、私達は何とか連絡を取りたくてここに・・」

そこでちらりと夕張を見た五月雨は

「ひっ」

と、短く息を呑んだ。

目の前の夕張が怒りに震えながら眉間に皺を寄せていたからだ。

「あっ、あのっ、ごっ、ごごっ、ごめんなさい」

「あなたに怒ってるんじゃないの。その司令官、なます切りにしてやろうかしら」

「・・へっ?」

「でも、秘書艦の霧島さんには感謝しないといけないわね」

「えっ・・えっと・・」

「そして貴方達にも。そうねぇ・・ビットちゃん、悩んでたもんなぁ・・」

高波はおずおずと聞いた。

「・・ビット・・ちゃん?」

夕張は手をひらひらと振った。

「あーごめんね。夕張会って全員夕張でしょ」

「はい」

「だから鎮守府番号をもじってあだ名をつけるの。貴方達の鎮守府は第110鎮守府だから」

「それでビットさん、かも?」

「そうよ」

五月雨はふと気づいたように訊ねた。

「あ、あの」

「なにかしら?」

「うちの夕張さんがビットさんなら、貴方は・・」

「あぁごめんなさい。私は大本営所属の夕張だから、あだ名はレイよ」

「れい?」

「鎮守府じゃないから番号が無いの。だから0番でレイ」

高波が首を傾げた。

「という事は・・会長さん、かも?」

「夕張会に会長は居ないわ。私はまぁ・・そうね、この建物の管理人ってとこかしら」

五月雨はそっと上目遣いに話しかけた。

「そ、それで、レイさん、その、あきつ丸さんの言ったように、ビットさんに連絡は取れないでしょうか・・」

「んー・・」

レイは頬杖をついてしばらく考えた後、

「ここで待ってなさい。悪いけど勝手に出ちゃダメよ。その2体が見張ってるから。トイレはそっちよ」

「はっ、はいっ!わ、わかりました!」

「アルファ、ベータ、この二人を監視。部屋から出たら発砲を許可するわ」

「「リョーカイ」」

レイはそう言ってプレハブから出て行った。

高波は慣れたのか、興味深そうにじっと2体のロボットを見つめていた。

 

 

 


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