Deadline Delivers   作:銀匙

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第8話

 

浜風があきつ丸に訊ねた。

「それで、夕張会の会場に出向いてどうするのですか?」

「夕張会のどなたかにご協力頂ければ、我が夕張殿とお電話などで連絡が取れるかもしれないのであります」

「なるほど!それは名案かもしれませんね!」

「でも、夕張会が私達が行った時にやってるかどうかは、解らない・・かも?」

「その通りでありますが、夕張会は割と頻繁に行われていると聞いたのであります」

浜風は五月雨に尋ねた。

「会合が開かれていなければ無駄になりますが、一気に解決出来る可能性もあります。どうしますか?」

五月雨はしばらくうんうん唸っていたが、

「分散して全てのルートを辿っても見つけられるとは思えないです」

「では・・」

「でも、全員で行く事もない・・かな・・・あきつ丸さん」

「なんでありますか?」

「夕張会の本部は、私達の誰かが行って解るような建物ですか?」

「はい。表現が難しいのでありますが、いかにも夕張会という場所に、いかにも夕張会という建物でありました」

「なら、あきつ丸さんでなくても良いですよね」

「・・と、思われるのであります」

「だとしたら、例えば浜風さん、早霜さん、そしてあきつ丸さんは引き続き追跡頂いて・・」

「・・」

「私と高波さんで夕張会の方に行くのはどうでしょう?」

「なるほど。頭脳としての早霜さんと目としてのあきつ丸さん、ですね」

「はい。臨機応変な統率は私より浜風さんが長けてると思いますし」

浜風が頬を染めた。

「そっ、それは解りませんが、その、お任せ頂けるなら頑張ります」

「高波さん、私一人だと心細いから一緒に来てくれませんか?」

「お役に立てるなら嬉しいかも、です!」

「じゃあ今夜は早く寝ましょう。明日の日の出と共に私達は出ます。そちらは浜風さんに任せます」

「解りました。連絡チャネルは4?6?」

「距離が離れるかもしれないので・・6の、暗号表8で」

「解りました」

早霜はずっと地図と路線図を睨んでいたが、ぽつりと言った。

「なんとなくですが、こちらのルートの確率が高そうな気がします」

あきつ丸が訊ねた。

「なぜでありますか?」

「このルートには検問がありませんし、その割には高速道路も使う遠距離ルートです」

「・・」

「途中で鎮守府の付近を通る事も少ないです。ただ・・」

「ただ?」

「行き先は地方都市ですから大都会よりは隠れにくい。逃亡先も限られます」

「・・」

「しかし、あの夕張さんの事。自活する為の環境くらいこしらえてしまいそうな気がします」

「大変同意出来るのであります」

「ですから、あえて終着ではなく、途中で降りるかもしれません。たとえば・・この辺りで」

早霜はそういうと、外洋に突き出た半島を指差した。

浜風は頷いた。

「そこにしろ、最終目的地にしろ、あきつ丸さんの航空探査なら1度に出来そうですね」

「ええと・・はい、1度の飛行で探査出来るのであります」

「なら追跡ルートと最終目的地が決まったので、私達も休みましょう」

早霜が初めて心配そうな顔をした。

「・・・先程の話は推定に基づく仮説ですが、よろしいのですか?」

浜風は頷いた。

「どうせ夕張さんがどのルートを選ぶかなんて、今ここで何一つ確証があるわけでもありません」

「ええ」

「ならば推論でも、一番そうかもしれないと思ったところに行きましょう」

早霜はそっとあきつ丸も見たが、

「自分も、他に案がある訳でもありません。こういう時は勘に従うのも良いと思うのであります」

と、にこっと笑われたので、早霜は頷きながら言った。

「それなら・・私達も眠りましょう。五月雨さん達はお休みになられてますし」

「えっ?!」

早霜の視線を追うように浜風とあきつ丸が振り向くと、テントの奥で寝袋に収まってすやすやと眠る2人の姿があった。

「は、はやっ!早っ!」

「で、あります・・」

「では、おやすみなさいませ」

早霜の声に驚いて向き直れば、既に早霜ももぐりこんだ寝袋のチャックを閉める所であった。

「えっ!あっ!ね、ねまっ、寝ましょうあきつ丸さん!」

「み、皆さん早過ぎるのであります・・」

こうして初日は過ぎて行った。

 

 

2日目。

 

「・・本当にここに来たのでしょうか」

「ちょっと、自信なくなりますね・・」

浜風達は推定した漁港からバスに乗り、ラッシュアワーのターミナル駅へと降り立った。

だが想像を超える人の多さと、

「し、視線が痛い、のであります・・」

というあきつ丸の言葉通り、自分達を奇異の目で見る人々の視線が痛かった。

「もしここに夕張さん達が来ていたら、早々に立ち去りたいと思う筈・・」

早霜はきょろきょろと見回すと、

「ありました!」

そういってバス停の1つに駆け寄って行った。

それは昨晩話していた地方都市行きの乗り場だったが、早霜は時刻表を見てがくりと肩を落とした。

「ど、どうしたんですか?」

「4日に1本しかないんです・・しかも前に出たのは・・・」

「・・・昨日」

「何時頃、でありますか?夕張殿は間に合う時刻だったのでありましょうか?」

「ええと・・」

早霜はしばらくノートになにやら書き込みつつ時刻表を睨んでいたが、

「・・乗れた可能性がありますね」

浜風が唸った。

「だとしたら追跡を続けたいですが、我々はどうやって行きましょうか・・」

あきつ丸が肩をすくめた。

「予想降車地点に海路で回る他無いのであります。4日も待っているわけには行かないのであります」

早霜が肩をすくめた。

「では・・我々は上陸地点近くまで一旦後退するしかないですね」

浜風が地図の1点を指差した。

「この町外れに海浜公園がありますよ?そこから海に出ても良いのでは?」

早霜が首を振った。

「いいえ。そちらの海浜公園を含めてこの鎮守府の警戒エリア内です。呼び止められれば言い訳が出来ません」

「あー・・・そこにありましたか・・なんと厄介な・・」

「ただ、漁港まで戻らなくても、この辺りまで戻れば良いかと」

浜風はキッと顔を上げた。

「致し方ありません。先程乗ってきたバスの逆ルートで戻りましょう!」

 

 

 


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