Deadline Delivers   作:銀匙

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第6話

 

その日の夕方。

 

「・・・」

広域探査から戻ったカ号を迎えたあきつ丸は結果を早霜に伝えると、機体の点検を装いつつ手紙を読んでいた。

そこには様々な事が書かれていた。

夕張が工廠でどのような役割をこなし、何に悩み、どうして深海棲艦を直すに至ったか。

「そうだった、のでありますか」

あきつ丸は手紙を仕舞うと、腕を組んで考え出した。

修理訓練の為とはいえ、どこかで敵になるかも知れぬ深海棲艦を直していたのは良くない事だ。

だがそれは司令官の胸三寸で、例えば練習用の艤装を手配するから止めなさいと指導する事も出来た筈だ。

 

「ただ・・悩ましいでありますな」

 

妖精達は淡々と事実を連ねるだけに留めていたが、行間には助けてやって欲しいという気持ちが溢れていた。

そしてあきつ丸自身、着任時に戸惑っていた自分に世話を焼いてくれた夕張に手を貸したかった。

一方で、鎮守府に戻れば司令官がボスである事は紛れも無い事実である。

組織で生きていく上でボスを裏切るのは避けるべきだし、命を預ける関係なら尚更である。

この手紙をどう扱ったら良いのだろう。

 

司令室で司令官から言われたのは追跡と捕縛、そして処罰の為に連れ帰る事だった。

だが工廠に向かう前、司令棟の出口で霧島に呼び止められ、こう念押しされた。

「旗艦の指示に従ってください。良いですか、何があっても旗艦の指示を優先してくださいね」

 

何か、ある。

 

あきつ丸はそう感じた事を思い出した。

ならばこの手紙の事も旗艦に知ってもらうべきだろう。

 

「五月雨殿、少し、よろしいでありますか?」

 

あきつ丸は五月雨に近づいていった。

 

 

「・・・工廠の妖精さん達から、絶大な信頼を得ていたのかも」

最後に読み終えた高波は、そっとあきつ丸に手紙を返した。

無人島に上陸した5人はレーションで夕食を済ませ、設営したテントの中でランタンを囲みながら順番に手紙を読んだ。

五月雨はしばらく腕を組んでうんうん唸っていたが、やがて話し出した。

 

「あきつ丸さんは聞いてないと思うんだけど、霧島さんの命令に私達は従ってるの」

「えっ?司令官殿の命令では・・ないのですか?」

「霧島さんはね、私達に夕張さんと会って、何があったか、今後どうするかを相談して来てって言ったの」

「・・ふむ」

「そうでなければ私達断ろうと思ってたしね」

「そう、なのでありますか?」

「だって司令官はデッドオアアライブで連れ戻せって言ったんだもん」

「デッ!?そ、それは自分には言わなかったであります。処罰の為に連れ戻せとだけ・・そうでありましたか」

浜風が頷いた。

「なるほど、あきつ丸さんに言わなかったという事は、さすがにマズイと解ったようですね」

「自分も、もしデッドオアアライブと言われていたら断ったかもしれないのであります」

「ただ、連れ戻しても有無を言わさず解体されるのは変わらないと思います」

「・・昨夜からの経緯を考えると否定しづらいのであります」

高波が首を振った。

「でも、命令を断ったら司令官さんは私達にも冷たく当たるようになるかも、です」

五月雨は頷いた。

「だから霧島さんの助け舟に乗った。そういう事なんです」

あきつ丸は五月雨に訊ねた。

「霧島殿は、他に何か仰っていたでありますか?」

「鎮守府が取り潰しとならない方向で解決して欲しいと」

「まぁそうでありましょうな」

浜風が頷いた。

「妖精達の手紙によって経緯は明らかになりましたが、2人には早く会わねばなりません」

「その通りでありますが、カ号による捜索も、ある程度範囲を絞らねば燃料が尽きてしまうのであります」

早霜がばさりと大きな海図を床に広げた。

「皆さん、ご覧ください」

高波が首を傾げた。

「これは鎮守府を中心とした海図、かも?」

「その通りです。お二人は昨晩、早ければ2030時には出航したと思われます」

「・・」

「島風さんは超高速に分類されますが、夕張さんは低速」

「・・」

「ゆえに夕張さんの航行速度で考えると、今日の夕方の時点で・・ここまでは行けます」

そういうと、早霜は同心円状に指をなぞり、交差した陸地の幾つかに丸をつけた。

「一方で、あきつ丸さんが正午頃に行った航空探査で、海洋上にお二人の姿が無い事を確認してくださいました」

「はい。この辺りまでは該当無しでありました」

そういうとあきつ丸は捜索範囲を指でなぞった。

「だとすれば、ここまでは行けませんし、この辺りの島という可能性もありません」

浜風が訊ねた。

「どうしてです?追っ手をまく為に潜む可能性もありますよ?」

「島は無人で補給も出来ませんし、レーダーがある以上、追っ手に接近されれば状況は不利になります」

「なるほど」

「だとすれば、正午までに航行可能な範囲で、その後の逃亡まで視野に入れれば・・」

早霜はすうっと1点を指差した。

「上陸地点はこの漁港しかありません」

高波が訊ねた。

「でっ、でも、この漁港はとても小さい町だから、隠れてもすぐ見つけられる、かも?」

早霜は別の地図を広げた。

「あくまで上陸地点です。これがその漁港近辺の地図ですが、ここまで移動すればバス停があります」

「あっ」

「そしてバスが辿りつく先は・・ここ」

五月雨が眉をひそめた。

「ひぃふぅ・・うわー・・6路線も乗り入れてるターミナル駅ですか・・・」

「ただ、夕張さんは恐らく列車を諦めるかと」

「どうしてです?」

早霜は微笑んだ。

 

 

 


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