Deadline Delivers   作:銀匙

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第5話

 

ダン!

 

拳を作った両手で食堂のテーブルを勢い良く叩いたのは五月雨であった。

並べられたアイスクリームの入った器が小さく踊った。

「霧島さん!何なんですか司令官のあの命令!聞く必要があるんですか!」

向かいに座っていた霧島は、口を閉じてこそいるものの、他の面々も同じ気持ちだと悟った。

表情が読めないのは早霜くらいか。

霧島はゆっくりと周囲を見回し、青葉が居ない事を確認してから口を開いた。

「貴方達に本当にやってもらいたいのは、夕張さん達の意思確認と解決策を決める事です」

「えっ?」

「・・正直、司令は頭に血が上ってますし、言ってる事も軍規に違反しています」

「はい」

「ただ、そうなった原因については解らなくもないですよね?」

五月雨がしょぼんとした表情になった。

「それは・・敵艦を修理していたって聞いた時は私達もびっくりしましたけど・・」

「ですが、夕張さんは私達の艤装や兵装の修理に貢献してきた方です」

「そっ!そうです!何度も無理を聞いてくれました!」

霧島も頷き返した。

「ですから事を収めつつ、それぞれの言い分で取り入れられるものは取り入れ、上手く収めたい」

「・・」

「しかし、大本営に知れたら、彼らは有無を言わさず夕張さんを捕縛もしくは轟沈させるでしょう」

「ええっ!?」

「単に今度の件を書面で読めば反逆というか、不穏分子としか読めないですからね」

「えー」

「さらにいえば監督不行き届きとして司令もクビになり、我々もLv1にされ、バラバラに異動となるでしょう」

「そ、そんなぁ・・」

「大本営に気づかれる前に我々でケリをつける方が、皆の為になるとは思いませんか?」

「・・」

「ですから、司令の意図を汲みつつ、こういう風に指示を変えるのはどうでしょう?」

「えっ?」

「速やかに夕張・島風の両名と接触し、経緯をまとめ、今後について話し合うこと」

「・・」

「ただし条件として、この鎮守府が取り潰しとならない方向での解決であること」

「・・」

「これならどうですか?五月雨さん」

「・・霧島さんが書き換えてくれるんですか?」

「ええ。お任せください」

五月雨は溜息をついた。

思えば司令官が着任したばかりの頃から、何かある度にどうにか丸めこんで来た気がする。

「どーして私にばかりこういう面倒なお役目が回ってくるんでしょう・・」

「五月雨さんは一番司令と長く過ごしてきた方ですから、不器用さは良くご存知ですよね」

「はい・・それはもう」

「司令は現状に惑い、先々に不安を抱いてるのだと思います」

「そうだろうなってのは・・解りますけどぉ・・さすがにこんな厄介な案件は・・」

「だからこそ、五月雨さんにしか頼めません。どうか引き受けてくださいませんか?」

「・・うー・・解りましたよぅ・・どぉしよー・・」

五月雨がふにゅんと机に突っ伏したので、ずっと黙って聞いていた早霜が口を開いた。

「鎮守府からの調査支援は、全く期待出来ないのでしょうか?」

「大本営は頼れないですし、二人が通信に応答しない以上、鎮守府で出来る事はほとんどありません」

「・・」

「出来る事といえば皆様にせめて燃料や弾薬を満載し、航路手続きを迅速に行う事くらいです」

「解りました。地図や海図等の資料を出来るだけ頂きたいのですが」

「ええ、どれでも持参頂けるよう許可を取っておきましょう」

「あと、もう1つ」

「はい」

「航空機による探索がどうしても必要です」

「・・んー、まぁそうですね。ですが航空機を扱える艦娘に余裕は・・」

「ぜひ、あきつ丸さんを」

霧島はぽんと手を打った。

「そういえば先月改になってましたね。解りました!お呼びしましょう」

「では・・資料を取りに参りましょう。皆さんはアイスを召し上がっててください」

早霜はそう言うと静かに立ち上がった。

 

「は、はい!直ちに準備するであります!」

 

あきつ丸は突然捜索艦隊に編入された事に驚きつつも、出港準備の為に工廠へと向かった。

艤装の調整と兵装設定を妖精達と進めていると、つんつんと足を突かれた。

見ると妖精が数名、じっとこちらを見上げている。

「えっと、どうかしたのでありますか?」

「あきっちゃん、1つ頼まれて欲しいんだが」

「なんでありますか?」

「僚艦の皆に気づかれないように、後でこれを読んでくれねぇか?」

「読めば、良いのでありますか?」

「読んでどうするかはあきっちゃんに任せるからさ、頼むよ」

「・・承知いたしました。お手紙、頂戴するであります」

 

こうしてあきつ丸を加えた5人は、遠征や出撃組に混じってそっと出航した。

工廠からそれを見送る妖精達は不安げな表情だった。

「なぁ、あきっちゃん動いてくれるかなぁ」

「さぁな。ただ、あきっちゃんはこの後も鎮守府で働かなきゃならん。肩身の狭い思いはさせられねぇ」

「俺達で支援出来る事はしてやるけどな」

「かといって毎日司令官に目の敵にされるなんてシャレにならんだろ?」

「確かに」

「出来れば手を貸してやって欲しいがなぁ・・難しいよなぁ・・」

 

 

 


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