Deadline Delivers   作:銀匙

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第4話

 

アイウィがビットにそっと囁いた。

 

「どうして見られてるのかな・・」

「んー・・私達くらい背格好の子はいるし・・後は服装かしら」

「服?艤装は仕舞ってるよ?」

「じゃなくて、ほら、皆の格好・・布が多いでしょ」

「んえ?」

 

アイウィは自らの服装を見て、次に町の人の装いを見て、主に下半身の違いに気がついた。

そして見られている視線の先が、自らの腰回りである事も。

「おうっ!」

「・・んー、このカッコじゃ目立つかなぁ」

ビットはふと、通りの反対側を指差した。

「ねぇ島ちゃん、ほら、あの人達の服、あのお店で売ってるわよ」

「皆が着てる服にした方が目立たないよね」

「そうね。買って着替えちゃいましょ!」

二人は店に向かって歩き出した。

 

「これ、このまま着てっちゃいますんで」

「ハイ解りました!じゃあお二人のタグ外しちゃいますね!全部で9800コインっス!」

「あ、良いわよ島ちゃん。払っておくから」

「うん、じゃあ外で待ってるね!」

「はーい・・ええっと、じゃあ1万コインで」

「1万コイン札入りやす!200コインのお釣りとレシートっス!マイドありゃーしたぁ!」

「どうもー」

通りに戻ったビットの前で、アイウィはしきりに自らの太ももの辺りを撫で回していた。

「どうしたの、島ちゃん?」

「んー、長ズボンなんて久しぶりだから・・布がまとわりついて走りにくいなぁって・・」

「でもこれ、とても機能的よ?ほら、こんな所にもポケットついてるし、このベルトで手袋挟んでおけるし・・」

説明するビットをじっと見ていたアイウィが言った。

「・・なんかさぁ」

「なぁに?」

「ばりっち、やたら似合ってるよね・・」

「へ?そうかしら?でも島ちゃんとお揃いの格好、嬉しいなぁ」

「え、えへへ。そうだね。でもまだなんか皆と違うような気がするんだよねぇ・・視線は感じなくなったけど・・」

 

二人が服を買ったのはいわゆる職人向けの店であり、購入したのは「つなぎ」であった。

ビットは通りを歩いていたメカニックの一団を見た後にこの店を見つけたのだが、これも運命という奴か。

夕張はバッグの中をごそごそと整理していたが、ぽそりと呟いた。

「あ、皆には連絡しとこうかなぁ」

 

 

 

一方、その頃。

鎮守府では二人が脱走した事が判明し、目を覚ました司令官は昨夜にも増してカンカンだった。

司令官は極秘の捜索艦隊として4名を指名し、司令室で檄を飛ばしていた。

選ばれたのは旗艦の五月雨、副官の浜風、早霜、そして高波であった。

並び順は純粋にLvである。

 

「いいかお前達!是が非でも見つけろ、二人共だ!」

「はい!」

「首に縄をかけてでも引っ張って来い!情けは一切無用だ!」

「え、あ、はい・・」

「抵抗するなら始末しろ!デッドオアアライブだ!」

「「「「ええっ?!」」」」

 

デッドオアアライブとは生死を問わないという意味であり、4人はこの一言で一気に引いた。

確かに、睡眠薬とはいえ自分達に一服盛って脱走した事に良い気持ちはしなかった。

ただ、状況を考えればやむを得ないというのが艦娘達の見解だった。

自分達が起きている時に夕張達が脱走するのを見たら、制止しない訳にはいかない。

情に流されて見逃せば見逃した者が処罰の対象になるからである。

そして司令官は今も解体どころか轟沈させろとまくしたてているのだから、残っても弁明の機会は無いだろう。

全員を眠らせれば残った者は誰も処罰されない。

一番穏便に、かつ生き残る為にはあれしか方法がなかったのだ、と。

霧島は司令官の隣でそっと溜息をついた。

この鎮守府で、大なり小なり夕張に借りが1つも無い艦娘はほとんど居ないだろう。

なのにそんな言い方では4人は受け入れがたいだろう。

私にだけさっき言った事を皆にもちゃんと言えば良いのに・・・

司令官は4人がどん引きした事に気づき、更に青筋を増やして怒鳴りつけた。

 

「何だお前達!文句があるのか!」

五月雨が口火を切った。

「えっと、燃料などを補給する為に随時帰港するのは構いませんよね?」

「どんだけ時間かけるつもりだ馬鹿!1週間以内に探して来い!」

「無理ですよ!」

「無理じゃない!ちんたらやってたら憲兵隊に気づかれるだろ!」

恐る恐る高波が手を上げた。

「あ、あの、せめてどっちへ行ったか教えて頂ければ、探しやすいかも、です」

「知るわけないだろ!それを探すのがお前達だろうが!」

「ふえええっ!ま、周り全部海なのに1週間でなんて、む、難しい、かも・・」

「かもかも言う前に探してきてくれよ!」

浜風がついに眉をへの字に曲げた。

「出来ません!」

「なにっ!?」

五月雨が続いた。

「そうですっ!そんな命令まで受けるなんて、私達は海軍と契約してません!」

「くぬー!」

「うー!」

唸りながら睨みあう司令官と旗艦の五月雨を見ながら、皆が言う事は尤もだと霧島は頷いた。

海軍は、艦娘に対し、出撃、遠征、演習、近代化改修、解体、改造を命令出来る。

それが契約だが、今司令官が言ってる事はどれにも該当しない。

単純に言えば暗殺してでも隠蔽工作してこいと言われているのだからきっぱり断るのが本来だ。

 

だが。

 

霧島は司令官にそっと声をかけた。

「司令」

「・・なんだ?」

「本作戦が特殊なのは確かですので、私がこの子達に補足します」

「む、むぅ・・」

そして霧島は司令官に耳打ちした。

「ちょっと食堂で甘いもの食べてもらって、先程のお話をしてきますので」

司令官は霧島にバツの悪そうな目線を寄越しつつ、ぼそぼそと囁き返した。

「あ・・あまり時間をかけないでくれよ・・ほら、財布」

「お任せください。では五月雨さん、皆さん、ちょっと食堂でお話しましょうか」

パタン。

一行が出て行くと、司令官はどさりと椅子に腰掛け、深い溜息をついた。

何故だ。

夕張には手が足りない時の遠征以外頼まないようにしたし、工廠での仕事が好きだというから任せてきた。

確かに毎日多忙を極めていると霧島から聞いていたが、皆そうだし、出撃する以上破損はつきものだ。

ここは御三家ほどでは無いが大都市圏も近く、鎮守府近海でも小競り合いはしょっちゅうだ。

我々が潰されれば都市に砲火が届いてしまうので、重要な防衛ラインでもある。

そもそも深海棲艦など話の通じない化け物だ。

1体でも多く、1分でも早く深海棲艦を消す事など、当然全員の共通認識だと思っていた。

怪我をしてるならそれこそ好都合。

仲間を呼んで始末させるなり、怪我を直すふりをして爆薬でも押し込んでしまえば良かったのだ。

何より修繕のプロである夕張と、最も対潜攻撃に優れた島風が抜けた穴をどうやって埋めれば良い?

育成中に轟沈してしまう艦娘も多い中、高Lvまで生き残った艦娘は貴重な存在なのだ。

だが、だからこそ後輩達への影響は大きいので、先輩として正しい姿で働いてもらわねば困る。

軍に唾を吐くような真似をされては後輩達が惑ってしまう。

司令官は再び溜息をついた。

「五月雨も・・解ってくれなかったなぁ・・」

 

 

 


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