Deadline Delivers   作:銀匙

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S.10話

戻ってきたファッゾはキョロキョロと部屋の中を見回した。

「ん、フィーナとフローラは部屋に戻ったのか?」

「だいぶ酔いが回ってたから」

「そうか。もう0100時も回った。俺達も寝ようか」

「・・ねぇファッゾ」

「うん?」

「一緒のベッドで寝ても良い?」

「酔っ払ってるか?」

「お酒が入ってる事は認めるけど・・」

ナタリアはそっとファッゾと腕を組んだ。

「私達、夫婦でしょ?」

ファッゾはややあってから、明後日の方を向いて言った。

「あーその、俺も今夜は酔ってるしさ、その、添い寝で済まんかもしれんぞ」

「解ってるわよ。旦那様ですもの」

「・・・」

「皆寝ちゃったし。ねっ?」

ファッゾは二人以外居なくなった部屋を見回してから、

「あー、その、じゃ、じゃあ、一緒に寝よう、か」

と答えるのが精一杯だったという。

 

同じ頃。

 

「ほら、ドア開けたぞ。皆入れ」

神社の駐車場に停めた武蔵のダッジラムのバンに乗り込むと、龍驤はホッと息を吐きながらいった。

「うー寒い寒い。夜明け以降に初詣すればええやんかー」

神通が首を振った。

「2年参りは縁起が良いですからね」

「せやかて寒ないか?」

「冬が寒いのは当たり前の事ですから」

一方、助手席に乗り込んだ時雨は運転席でエンジンをかける武蔵に言った。

「あ、そうだ武蔵」

「なんだ?」

「今年は随分長い事お祈りしてたけど、何を願ったんだい?」

「願い事は他人に言うと叶わなくなるのでな、黙秘する」

「よっぽど叶えたい願い事なんだね」

「そうだな」

時雨はふふっと笑うと、

「じゃあ僕も影ながら二人の事を応援するね」

と言ったので、武蔵はぎょっとした顔で時雨を見た。

「何故知ってる!口にしないよう気をつけたのに!」

時雨はきょとんとした顔で答えた。

「え?他に武蔵が必死に願う事なんて無いかなって・・」

武蔵はハッとして後部座席を見た。

龍驤、山城、大和は口に手を当てつつ、にやりんと笑いながらこちらを見ている。

神通と扶桑はニコニコと優しく微笑んでいるが、明らかに気づいている。

完全に自爆した事に気づいた武蔵は顔を真っ赤にしたまま前を向き、アクセルを踏み込んだ。

5.9リッターのV8エンジンは凶悪な出力をタイヤへと伝えたのである。

 

その頃。

 

「洋酒でもお屠蘇っていうのかねぇ・・まぁ良いや」

テッドは新しく封を切ったボトルから、スコッチウィスキーをグラスへと注いだ。

ボトルの傍らには重箱から取り分けたおせちが盛られた皿。

箸で黒豆をつまみ、テッドはそれを眺めた。

「適当に食ってた去年とはえらい違いだぜ・・ん」

黒豆を飲み込んだ後、スコッチウィスキーを一口。

「・・やっぱ合わねーぜ、武蔵よぅ」

苦笑しつつ、ふと、煮しめが目に留まる。

ひょいとゴボウを口に放り込んだ後、スコッチウィスキーを一口。

「お。こっちは合うな。意外だぜ」

この煮物、いや、煮しめか、これは良い味だ。

あの時は聞きそびれたが、誰が作ったんだろう。龍驤辺りか?

重箱を返す時にちゃんと礼を言うとするか。何もってくかな。

煮しめのレンコンを噛み締めながら、テッドは微笑んだ。

「さて、そろそろ片付けるとするか」

グラスから最後の一口をあおったテッドは、汚れた食器やグラスを手に立ち上がった。

 

そして、夜が明ける頃。

 

「はーいいらっしゃーい。3名様?テーブル席にどうぞー」

「甘酒2つにおでん1つね?まいどー」

キッチン「トラファルガー」は海沿いにあって、かつこの町で元旦の早朝から開く唯一の店である。

初日の出を見に来た客が、そのあまりに冷たい海風から回復すべく暖を取りにやってくる。

ゆえに店内に入りきらないので、クーが表で甘酒とおでんの出店を始めた所、こちらも人気となった。

元旦から黒山の人だかりで、通りがかったドライバー達が何事かと覗き込むほどである。

「4番さんのカレーとオニオンスープあがったよー」

「はぁーい!6番さんラーメンとホットコーヒー1つ」

「ん、解った」

店の中もルフィアとライネスがフル稼働しても追いつかないほどの有様である。

といいつつ、ライネスはクーの売るおでんと甘酒も仕込みながらの対応である。

「おっちゃんごめん!おでんが切れた!出来てるだけ頂戴!」

表からクーの怒鳴り声がすると、ライネスは両手鍋にひょいひょいと具材を放り込むと、

「ルフィア、表にこれを持ってってやってくれ!」

と、手渡すのである。

ルフィアはクーの所から空になった鍋を受け取り、持ってきた鍋と差し替えつつ、

「おっちゃんじゃなくて、ライネスさん、でしょ?」

と、クーの耳元で囁き、クーがびくりとなるのである。

こうして、元旦の昼過ぎまで店を開けた後、ライネス達は店を閉じ、仕込みを行う。

そして3人で近くのお寺に初詣に行って商売繁盛と家内安全を願い、翌朝まで眠るのである。

「そりゃ普段より正月の方が忙しいよ。営業時間も変則的だしね」

ライネスは苦笑しながら肩をすくめるが、続けて

「でも、売り上げがあるってのはありがたい事だよ」

そう言って笑ったのである。

 

 

 




おしまい、です。

リクエストを頂いた時、良いネタを頂けたなあと思いました。
前作でも年末年始の描写は、年末の長門と提督の様子をちょっとだけ描いただけでしたからね。
書いてそうで書いてなかったですし、折角ですからお正月らしくというか、TVでいう特番っぽくしたかったんです。
そういう意味でDeadline Deliversの日常を、特に事件性は無い形で書けば丁度良いかな、と。
ソロルとか山甲町以外の方々はボリューム的に今回は見送りました。
期待していた方すいません。

そんな訳で10話構成で3日間に渡ってお送りしましたが、皆様如何でしたでしょうか。
コメントをお待ちしております。


さて、年初が月曜日スタートという残念な年明けとなりました。
なので皆様を応援すべく、明日から新章を始めたいと思います。
新章は普段通り、1日1話ずつ公開していく予定です。
ダルい通勤通学時のささやかな楽しみとなれば幸いです。
それでは皆さん、また明日から午前6時にお会いしましょう。

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