Deadline Delivers   作:銀匙

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S.09話

「・・ほら、すぐ済む事じゃないか」

「上手いもんだなあ」

「ああやって冷蔵庫に入れておけば正月の間くらい持つ筈だ」

「ん、ありがとな」

礼を言いつつ、テッドはお重の二段目をしげしげと見て言った。

「それにしても、この煮物さぁ」

「煮しめだ。それがどうかしたか?」

「・・なんつーか、丁寧だな」

「どういう意味だ?」

「言ったままさ。俺が作るイモの煮っ転がしなんていびつでさ」

「ほう」

「大きいのとか小さいのとか色が濃いの薄いの雑多にあるんだが、これは形も綺麗に揃ってる」

「・・」

「これを作った奴は、丁寧に食べ物を扱うんだなって」

「・・褒めてるのか?」

「勿論。良い母ちゃんになれるだろうな。で、これ、誰が作ったんだ?」

「・・う、うるさい」

「へ?」

「と、とにかくおせちは渡したからな!じっ、じゃあ、かっ、帰る!」

 

バタン!

 

「・・・なんで怒ったんだ?」

テッドは武蔵が閉めたドアを呆然と見つめていた。

 

武蔵は大股で通りを歩いていた。

外の空気を強く当てておかないと顔から火が出そうだ。

「ああもう!ああもう!山城達が焚き付けるから意識してしまうではないか!」

赤信号を仇のように睨みつけながら、武蔵は腕を組んだ。

まったく。ああまったく!

テッドとは単なる仕事上の関係であって・・そういうものじゃない!

 

 どーでもいい奴のおせちなんて1ミリも気にしないでしょ?

 

ちっがう!断じて違う!うるさいうるさいうるさい!

武蔵はぽよんと浮かんでくる、山城のニヤケ顔にパンチを入れた。

 

 

1月1日の0000時。

 

「新年、明けましておめでとうございます。各地からの便りを・・」

TVの中でアナウンサーがそう伝えた時、夕島整備工場では二人の寝息がするばかりだった。

年末のコンテナ整理でくたびれ果てた二人は、29日と30日の二日間はほとんど眠っていた。

そして31日になってようやく

 

「整理はしたけど掃除して無いじゃん!」

 

という事に気づき、急遽大掃除大会となったのである。

大晦日にさすがに応援を頼むのは気が引けたので、二人で頑張った結果が現状である。

ちなみに二人とも居間に置いたコタツの中で眠っており、TVはついたままである。

如何に疲れ果てていたかが窺い知れよう。

 

一方。

 

「おめでとー!」

「ん、おめでとう」

「おめでとう」

「はいカンパーイ!」

「カンパーイ」

日を越える直前から酒の封を切ったのはファッゾの家だった。

ナタリア達はちょっと乾杯する位は普通にやっているし、ファッゾも

「まぁ新年くらい乾杯しても良いさ」

という程度には酒をたしなむのである。

一方、ミストレルとベレーの二人は酒は嫌いだと公言しており、

「初詣行く時に起こしてくれよ」

「寝ます。おやすみなさい」

と、日を越える前から眠ってしまったのである。

というわけで、今起きているのはワルキューレの4人とファッゾである。

 

そして、0100時を過ぎた頃。

「私、そろそろ寝ます。おやすみなさーい」

「お休み、ミレーナ」

「おやすみー」

あくびをしながら引き上げていくミレーナを見送った後、ナタリアはファッゾに言った。

「それにしても・・ファッゾ」

「なんだナタリア」

「ありがとう」

「何が?」

「結婚してくれた事」

「なんだよ薮から棒に」

「ちゃんと言ってたかなって思って」

「ナタリアは最初に告白してくれたじゃないか。俺こそなかなか返事出来なくてすまなかった」

「悪戯に引き伸ばしたり曖昧にした訳じゃないのは解ってるわよ」

「それでも、気になっただろう?」

「た、多少ね。ちょっとだけ」

それを聞いたフィーナはニヤリと笑った。

多少、ねぇ・・・

あの日、ボスはファッゾさんが帰った後、

「あぁぁあどうしよー、私マズイ事言っちゃったかなー」

と、事務所の中をクマのようにうろうろ歩き回ったまま朝を迎えた事を知っている。

ルフィアから電話がかかってきた時はひっと短く声をあげ、震えながら受話器を取っていたのも知っている。

そしてファッゾがくると聞いたらしく、

「あぁファッゾが来る・・なんて言うのかしら・・どうしよ。どこで待ってれば良いの?迎えに行けば良いの?」

と、真っ青な顔で頭を抱えていた事も知っている。

あと数日もファッゾさんの返事が遅れたり、断られていたらボスは病院送りになっていたかもしれない。

勿論、鉄格子の嵌った個室の方の、である。

 

「俺、ちょっとトイレ行って来る」

ファッゾが席を外した後、フィーナの表情に気づいたナタリアはジト目で見返した。

「なによぅ」

「何でもありませんよー」

「嘘よ絶対嘘よ」

「どっちがですかねぇ」

「なによ何の話よ」

「あの夜ぅ、ルフィアさんから電話がかかってきたときー」

「・・アンタ起きてたの!?」

「黙秘しまーす・・えへへへへ」

ナタリアはごくりと唾を飲み込んだ。

これはまずい。フィーナがかなり酔っている。

しかも自分が隠しておきたい事を知っている。

特にファッゾには恥ずかしいから知られたくない!

「あー、そうだフローラ!」

「はぁーい?」

「フィーナがだいぶ酔っ払ってるから肩貸してあげて」

「ういっ!フローラ!これよりフィーナ副隊長を曳航して参りまっす!うぃー」

ナタリアは二人の後姿を見て苦笑した。

肩を貸してるのか千鳥足で余計歩かせているのか・・・

まぁともかくこれで平和は保たれた。

ファッゾに隠し事は無しにしたいが、醜態を積極的に晒したくは無い。

 

 

 




1箇所表現を訂正しました。
やっぱり1日複数話の投稿だとチェックが甘くなりますね。
反省。

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