Deadline Delivers   作:銀匙

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S.08話

ビットが生き生きとした表情になったので、ミストレルは微笑んだ。

「おっ、やる気出したのかビット?」

「違うの!ベレーちゃん!」

「は、はい?」

「私達のご飯作ってください!」

「へ?」

「習った事の復習にもなるでしょ!ね!ね!ね!」

「え、あ、は、ハウスキーピングの日って事、ですか?」

アイウィが答えた。

「それ以外でも何日でも!何なら毎日でも良いよっ!」

「ふえええっ!?」

ジト目になったファッゾが言った。

「良かったなベレー、毎月のバイト料10倍に上げてくれるってさ」

アイウィがぐきりとファッゾを見た。

「ど、どうしてそうなるの?」

「週1のハウスキーピングが週7の食事つき家政婦に昇格だろ?10倍でも安いよなあ」

「うっ」

「まさか同じ料金で、なーんて言わないよな。経営者として」

「あ、ベレーちゃん、やっぱり良いです。レーション食べます」

ミストレルがヘッと笑いながら両手を腰に当てた。

「お前ら、特別にタダで来年から料理教えてやる」

「いえ結構です」

「いーや、お前達に拒否権は無い!」

「やだやだ!頑張った挙句に美味しくないご飯を大量に食べるあの虚しさはもう嫌!」

「炭なんて食べたくない!」

「だーからそうならねぇように教えてやるっての!」

「いーよ別にー」

ナタリアはアイウィの耳元で囁いた。

「食事代浮くわよ?」

「本当ですか?」

途端に真顔になったアイウィに、ナタリアは頷いた。

「一人暮らしだと外食の方が安いけど、二人以上なら自分で作る方が圧倒的に安いわよ」

「ばりっち!この機会に料理覚えよう!」

「島ちゃん裏切ったわね!レトルトさえ炭になったの忘れたの!?」

ビットとアイウィ以外の面々はジト目になった。

どうやったらパウチ詰めされてるレトルトが焦げるんだ・・・

ファッゾがミストレルに話しかけた。

「相当スパルタで長期間教えないと無理っぽいぞ?取り消すなら今だぞ?」

ミストレルは首を振った。

「いーや、ちゃんと調理出来るように、最低限の基本は教えるっ!」

ビットがミストレルの方を向いた。

「最低限って?」

「コメが炊けるようにとか、野菜を刻めるとか、だ」

「まぁそれが出来ればお惣菜だけ買ってくるとか出来るんだけどねぇ」

「だろ?」

「炊飯器で炊いてコメが燃えたのよねぇ・・」

「どこをどうやったらそうなるんだよ」

「私が聞きたいわよ」

「と、とにかく、二人にはちゃんと教えるからなっ!」

「うえー」

「はーい」

 

その時。

 

「やぁ。ビット、アイウィ。今大丈夫かな?」

門をくぐってきた時雨にアイウィが返事を返した。

「あれー?時雨ちゃんどうしたのー?何か修理?」

「違うんだ。うちでおせちを作ったら少し多かったから、お裾分けにと思って」

「えっ本当?良いの?」

「うん。丁度2人分くらい余ったから、どうかな」

「貰う貰うー!ありがとー!」

時雨はファッゾ達の方をすまなさそうに見ると、

「あ、えっと、ファッゾ達の分までは余らなかったんだ。ごめん」

と言って頭を下げた。

ファッゾは手を振った。

「いや、良いよ。うちはもう正月料理は全て用意しちゃったから」

ミストレルがニッと笑った。

「こいつらは正月もレーション食べるって言ってたから丁度良かったぜ」

時雨が無表情になった。

「・・・正月さえもレーションだっていうのかい?」

「炊飯器でコメ炊いても炭になるんだと。だからアタシが年明けから教えてやる事にしたんだ」

時雨が頷いた。

「それが良いね。もし手に余るようだったら僕に言って。手伝いに行くから」

「時雨は教えるの上手そうだよな」

「ううん。むしろ今まで武蔵や龍驤から教わってばかりだよ」

「龍驤が料理上手なのは知ってるけど、武蔵も上手いのか?」

「うん」

時雨は包みを解くと、重箱を1つ開けた。

「ほら、この煮しめは武蔵が作ったんだよ?」

「へー、ちゃんとニンジンが花びらの形に切れてらぁ。ゴボウのささがきも綺麗だなー」

「うん。味も薄めで品が良いよ」

「武蔵って男っぽいからそういうのは苦手だろうと思ってた」

「実を言うと、僕も意外だった。あ、武蔵には内緒にしておいてね」

「わーってるわーってる」

「じゃビット、アイウィ、松の内を過ぎたらお重を取りにくるからね」

「はーい。洗っておくねー」

「ありがとうね、時雨ちゃん」

「じゃあ僕はこれで。皆、良いお年を」

「良いお年をー」

 

その頃。

 

「ふうん、切り揃えると伊達巻も雰囲気変わるものだなぁ」

「・・今までどうしていたのだ?」

「へ?フォークで」

「・・まさかとは思うが、直にフォークで切りながら食ってたのか?」

「おう」

「頭痛がしてくるな・・」

「食えりゃいーじゃねーかよ」

「うるさい。今年はちゃんとここから食べろ」

「解ったよ・・じゃあこれも持っていけよ」

「伊達巻好きなんだろう?」

「フォークで食うなって言うからよ」

「切れば良いだろ切れば!」

「俺が切ると斜めになるんだよ」

「あーもう貸せ!台所はどこだ!」

 

 

 


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