Deadline Delivers   作:銀匙

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S.04話

 

 

12月26日1500時、夕島整備工場。

 

ファッゾは一回りした後、見積書を睨んでいるビットに囁いた。

「・・今度から月に1度位整理したらどうだ?」

「えー」

「あのお兄さん達が死ぬ思いしてるのは誰のせいか良く考えろよ?」

「うー」

一方、アイウィとベレーは救護班兼休憩所と化していた。

「お茶どうぞ!」

「やーすいません。本当は頂いちゃいけないんですが、頂きます」

「マスク、新しいのに替えませんか?」

「あ、そうですね。貰います」

「酸素ボンベ後2本しかないけど、買ってこようか?」

「助かります。じゃあ20本お願いします。レシート頂ければ現金で清算しますので」

「解った!じゃあベレーちゃん、ちょっと行って来るね!」

「行ってらっしゃい」

アイウィが買いに行こうと踵を返した時。

「ネットメディアーズの者です。手前共の責任者に会いた・・うわぁ」

「おお来てくれたか!先に負傷者を病院へ!後は手伝ってくれ!」

「は、はい・・なんだこれ・・」

 

その頃。

 

「・・よぅ。誰か居るか?」

テッドが向かった先は神武海運だった。

正門には小さいながらも注連飾りが飾られており、年を迎える準備は出来ているようだった。

だが、人の気配がないしゲートも閉じられている。

普通の会社なら年末休暇だろうとなるが、ここは神通達の住まいでもある。

「変だな・・」

そう呟いたテッドが呼び鈴を押そうとした時。

「テッドか?どうした」

背後から声がしたので振り向くと、買い物袋を提げた武蔵が立っていた。

「お、丁度良い所に来たな」

「ここは我々の家だぞ」

「ちょっと上がらせてくれよ」

「構わないぞ。ちょっと待て、玄関を開ける」

 

「なるほど。確かにこの時期は大袋売りが多いからな」

「あぁ。だから貰ってくれよ」

「良いのか?」

「俺が持ってても腐らせるだけだからな。勿体無ぇだろ」

「まぁそうだが・・うん?」

「なんだ?」

「どうして餅とイクラとハムと伊達巻とスモークサーモンしかないんだ?」

「他に何か要るか?」

「黒豆は?数の子は?田作りは?蒲鉾は?栗きんとんは?昆布巻は?紅白なますはどうした?」

「別に好きじゃねぇし」

「好き嫌いの問題ではない!」

「あんまりスコッチに合わねぇし」

「おせちは酒のつまみではない!」

「日本酒には合うんだけどな」

「その基準から離れろ」

「いーんだよ別に俺の事は。お前は俺のかーちゃんか!」

「お母上もさぞお嘆きの事だろう」

「うるせーな」

その時。

「あーごめんねお邪魔しちゃって、冷蔵庫に入れるだけだから気にしないで」

「頑張ってくださいね、武蔵さん」

「そうやで武蔵。気にせんと続けてや」

「あ、僕達どこかで時間潰してこようか?」

「よ、夜までどこか時間を潰せるところがあるでしょうか・・」

「あらあら、夜までで良いのかしら?うふふふ」

ジト目になった武蔵が神通達6人に答えた。

「何を誤解している?」

「デートの真っ最中やろ?」

「ちっがう!何言ってるんだ!おすそ分けのお返しを話してただけだ!」

「大丈夫。大丈夫やて。うちら仲間やないか」

「何が大丈夫だっていうんだ」

「誰にも言わないから心配しなくて良いよ」

「時雨、お前は完全に誤解してる」

「あらそうかしら」

「姉上まで何を言うんですか!」

「だって武蔵、今とっても楽しそうだったわよ?」

「・・・えっ?」

きょとんとする武蔵、首を傾げるテッド。

「俺が買ったおせちの具が偏ってるって話をしてただけだぜ?」

山城がチッチッチと立てた人差し指を振った。

「どーでもいい奴のおせちなんて1ミリも気にしないでしょ」

「あー・・まぁそうか。それがなんだってんだ?」

「鈍いわねぇ。武蔵はテッドさんの事気にかけてるって事じゃない」

「は?俺の健康をか?」

山城以下6名がダメだこいつと言わんばかりの重い溜息をついたので、武蔵はぶんぶんと腕を振った。

「ええい!ややこしくするな!おせちの具は買えたのか!」

「揃えたわよ。全部冷蔵庫に入れたわ」

「ならこれから調理する!貰った分お返しを渡す!」

テッドはぎょっとして武蔵を見た。

「え!?い、いいよ、俺別になますとか・・痛ぇ!」

テッドのつま先を目一杯踏んだまま龍驤が続けた。

「ほな完成したらテッドの事務所に持ってこか。時間かかるし」

「ん?あ、あぁ、そうか。煮しめとかもあるからな」

大和がそっとテッドに耳打ちした。

「武蔵のおせち、楽しみにしててくださいね?」

「えっ?」

「ちゃんと、受け取って、あげて、くださいね?」

テッドは背中に嫌な汗をかいた。

大和はニコニコ笑ってるが拒否は許さないという気迫に満ちている。

「あ、ぁー楽しみにする、か、なー」

「良かったわね武蔵。じゃあお姉ちゃんと一緒に作りましょ」

「うむ、姉上よろしく頼む!」

ようやく龍驤の踵から開放された足を引いたテッドに、今度は扶桑が声をかけた。

「では明日にでも武蔵さんに持って行かせますので」

「あー、結構かかるんだな」

「煮込んだり下ごしらえする時間もありますので」

「そっか。その辺はわからねぇからよろしく頼むぜ。じゃあな」

 

こうしてテッドが去った後。

 

「ほら武蔵、デートの続きは明日。おせちちゃんと作りなさいよ?」

「山城何言ってる!」

「ほれほれ、煮しめは大和と武蔵に任せたで?うちはなます仕込むな」

「僕は蒲鉾や数の子を切り揃えるよ。扶桑、手伝ってくれないかな」

「解りました。山城、神通さん、お重を戸棚から出して洗ってくださいな」

その時、神通がぽつりと言った。

「テッドさんが美味しいって言ってくれると良いですね、武蔵さん」

この時武蔵が反論しなかったので、

「私には素直じゃないのに神通さんには素直なのね・・」

と、山城が少し拗ねたという。

 

 

 


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