Deadline Delivers   作:銀匙

130 / 258
S.03話

「よぅ舞ちゃん」

「あ、テッドさん、こんにちは」

「今日は非番かい?」

「はい」

正月飾りや餅等を売っている露天市場で、テッドは私服姿の舞と出くわした。

そういやこの子と俺は逆の道を辿ったんだなとテッドは思った。

舞は艦娘として建造され、解体された時に船魂から人間になる事を選んだ。

俺は人間だったけれど、無線機に憑依する形で、いわば船魂になったようなもんだからな。

テッドは舞が持っていた包みを指差した。

「おっ、良いモチ買えたな?どこで売ってた?」

「えっと、あっちの角に出てるお米屋さんですよ」

「そっか。舞は正月どうするんだ?」

「実は今年、初めて元旦と2日の2連続でお休み貰えたんです」

「ほー」

舞は警察官であり、年末年始の警察は忙しい。

ゆえに交代で休みを取るし、特に忙しい大晦日と元旦はどちらか出勤が当然である。

「だから初詣から帰ったら温泉に行こうと思って」

「良いじゃねぇか。宿は取れたのか?」

「はい。隣町なんですけどね」

「あぁ、紅葉屋か?」

「ええ」

紅葉屋は山の上に立つ温泉旅館であり、風光明媚な事で知られている。

地元民からすると近い所にある宿だが、全国から客が訪れる程の人気振りである。

「ほんとは初日の出も紅葉屋さんから見たかったんですけど、満室だって言われちゃって」

「だろうな」

「でも元旦の夜なら1部屋だけ空いてるよって言われたんで、すぐ入れちゃいました」

「元旦の夜なら初夢じゃねぇか。良い夢見られると良いな」

「あっそうですね!忘れてました!」

「明日から大晦日までは勤務かい?」

「ええ。毎日交通整理です」

「折角温泉が待ってるんだ。腹冷やさないようにな」

「はぁい。じゃ、テッドさん、良いお年を」

「おう、お前も良い年迎えろよ!」

 

その頃。

アイウィが問い合わせているのだが、地元の中古屋では物量が多すぎて対応出来ないと首を振られた。

そこで大手のセンターに電話すると、最初は冗談かと笑われた。

だが、本当の事だと繰り返し説明すると、声色がコロッと変わった。

「・・受けたいのですが、うちには大型トラックがないんです。何台も連ねて行って大丈夫ですか?」

「ご心配なく」

「で、では、まずは見積もり要員を向かわせます。調べる場所はお借り出来ますか?」

「中庭を片付けて、ビニールシート敷いておけば良いですか?」

「充分です。では正午までには伺いますので」

「よろしくお願いします」

 

こうして、アイウィとビット、それにベレーが中庭を片付け始めたが、

「やれやれ・・」

と言いつつ、ファッゾも手を貸したのである

 

時は11時30分。

表がにわかに騒がしくなったので、アイウィはひょいと窓の外を見てぎょっとなった。

つられてファッゾ達が見ると、そこには見た事のない群集が居た。

揃いの緑のエプロンと手袋、それにキャップを着用し、全員マスクにメガネ又はゴーグルをつけている。

まるで陸軍のようだ。

「ネットメディアーズの者です。お見積もりに伺いました。私が責任者です」

ビットは淡々と応じた。

「えっと、まずはコンテナかつタイトル毎に見積をください。それから・・」

その様子を見ていたファッゾはアイウィにたずねた。

「なんかビットの奴、妙に慣れてないか?」

アイウィは肩をすくめた。

「だって電気街でばりっちがよく買ってくるお店だもん」

「なんで知ってるんだ?」

「あのお店の袋提げて帰ってくるから」

「なるほどな」

 

一方。

 

テッドは舞の教えてくれた米屋の前に立った。

所狭しと並べられた商品の間からおじさんが声をかけた。

「らっしゃい」

「ええと、あ、もうちょっと小さいサイズのモチ無ぇか?」

「あー、さっき売り切れちゃったねぇ」

「となると、一番小さいのはこれか」

「だね」

「ふーむ」

テッドは3kg入りと書かれた餅の袋を手にとって考えた。

小さく切って個包装にしてくれてるのは助かる。

だが、一人暮らしだから500gもあれば充分なのだが・・

「まぁ良いか。じゃあこれ1つくれ」

「あいよ」

 

しばらくして。

「熊手は買った、餅とあれは買った・・あ」

ふと、テッドは不老長寿化した時にやってもらったオプションを思い出した。

「糖尿を気にする必要はない、か。よし!」

テッドは魚屋の方に歩いていった。

 

「ふーい、よいしょっと」

小1時間ほど回ってきたテッドは助手席に幾つかのビニール袋を乗せ、運転席へと回りこんだ。

ちらりと袋の中身を思い出す。

「んー、ちと買いすぎたな。でもなぁ」

一人暮らし用の分量を売ってくれる店は少ない。

年末年始用ともなると特にそうだ。

「・・よし」

テッドはキーを回してエンジンをかけた。

 

 

そして1500時。夕島整備工場では。

 

「おいしっかりしろ!」

「う、腕が痙攣して動かないッス・・先輩・・もうダメッス」

「メディック!メディーック!酸素缶と湿布薬をー!」

とてとてと走ってきたベレーが言った。

「お待たせしました。酸素と湿布薬、です。貼りますね」

「あぁ、こんな可愛い子に貼ってもらえるなら・・悔いは・・無い・・ッス・・・」

「こんな所で気を失うなー!」

「チーム12、78番コンテナへの突撃を開始します!」

「よし、必ずツーマンセルを徹底しろ。第2グループ長!誰か手を回せ!」

「このままでは日が暮れます。投光器を手配しませんと」

「よし、本部に増援の催促と投光器のリクエストを!」

「解りました!」

店から到着したのは軽のワゴン車10台に4人ずつ40名だった。

責任者の指示の元、彼らは手分けしてテキパキと作業を進めていた。

しかし、コンテナの4割を過ぎた辺りから疲労による負傷者が続出。

この人数では無理だと判断した責任者は応援を要請するも未だ到着せず、なのである。

 

 

 

 




1箇所誤字を訂正し、1行加筆しました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。