Deadline Delivers   作:銀匙

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S.02話

 

「・・・まぁ、確かにビットの所なら部品があるんじゃないかって感じはしてたけどな」

呼ばれて出向いてきたファッゾは事情を聞かされるとこう返したのである。

ビットがポンと手を叩いた。

「でしょ!ファッゾさんの車だって何度もそれで直したよね!」

「けどさすがにコンテナ70本分は多過ぎだろ。よく在庫把握してるな」

「・・あー」

ビットがそっと視線を外すと、ビットの傍にいた妖精達が手を振った。

ファッゾはジト目になった。

「まさかお前、在庫全く把握してないなんて事は」

頷く妖精達、左右の人差し指をつんつんと合わせるビット。

ファッゾはアイウィを見て言った。

「経営者も大変だな」

「ファッゾさんなら解ってくれると思った」

「で、どうやって捨てるかだが・・・処分場がなぁ・・」

ファッゾが腕を組んで眉をひそめたのには理由がある。

この町には2ヶ所の処分場がある。

1つは最終処分場で、海に面した入り江を囲った形なのだが、こちらは焼却灰と土しか受け入れない。

もう1つは焼却処分待ちの一時処分場だが、こちらは内陸で船が使えない。

アイウィは溜息をついた。

「順当に考えるとトラック借りてきて一時処分場送りだよね」

ファッゾは首を振った。

「だがコンテナ1本毎に処分料を取られるし、70本分の輸送となると大変だぞ?」

ベレーはずっと考えていたが、

「ここで燃やしてしまえば、最終処分場に持っていけますよね?」

ファッゾが自分の顎を撫でながら答えた。

「焼却灰にしてしまうのか?それはそうだが・・ビット」

「・・はぁい」

「嫌なのは解るが教えてくれ。構成する素材は何が多いんだ?」

「ほとんどがDVDとブルーレイとフィギュアだからプラスチックよ」

アイウィが溜息をついた。

「やっぱり修理と関係無いじゃん・・」

「でもほとんど未開封だし・・いつか見ようと思ってたのになぁ」

ファッゾが頷いた。

「それなら捨てなくても良いじゃないか」

ビットの表情が一気に明るくなった。

「えっ本当?取っておいて良いの?」

「売っちまえばいい」

ビットの表情がそのまま固まった。

「えっ?」

「捨てるなら金がかかるが、売り飛ばすなら上手く行けばタダで済むかもな」

 

「いやー!絶対いやー!私のコレクショーン!うぉぉおおおおお!」

 

そう言ってビットが床に伏して泣き出した。

だが、アイウィはけろっとした顔で

「じゃ、まずは中庭を片付けて、整理する場所作るね」

と言ったので、ファッゾはアイウィとビットを交互に見た。

「コンテナ70本分も未開封の物があっても見られるわけないし」

アイウィがそう言った時、ベレーがぽつりと言った。

「もしかして、重なってるものもあるんじゃないかな・・」

ビットがふと顔を上げた。

「えっ・・ダブって買うなんて事は・・ないと・・思うんだけどなあ・・」

だが、妖精達が懐疑的な表情でビットを見たので、ファッゾは頷いた。

「同じのがあるかどうかは俺達でも解るが、なら尚の事手が要るな」

アイウィは溜息をついた。

「じゃあテッドさんに正式に依頼を出すよ・・」

 

「はぁ!?40フィートコンテナ70本分のDVDの整理ぃ!?」

「うん」

「それ、どの辺りに輸送が関係するんだ?」

「最後に中古屋さんに持っていく時なんだけど・・それよりその前の仕分けの手が要るの」

「そのDVDは価値があるのか?」

「私は解んないけど、多分あるんじゃないかなぁ」

「なら、輸送以外も出来て、陸上での大量輸送の経験があって、信用出来る奴、となると・・」

「ファッゾさんの所、ワルキューレさん達、そして」

「神武海運くらい、だぞ?」

「だね」

「・・ファッゾ達を除けば高いぞ?」

「だよね」

テッドはしばらく考えていたが、

「・・・何年かかけて地道に整理したらどうだ?」

「たった3年の結果がこれなの。だから来年末にはもっと溢れると思う」

「ビットは何考えてそんなにDVD買ってんだ?」

「欲しかっただけだと思うよ」

「じゃあいっそ、中古屋に任せたらどうだ?」

「どういうこと?」

「連中に見積もらせるんだよ。で、売りたい奴だけ売る。案外運んでくれるかもしれねぇぞ」

「それ良いね!あ、それだとお仕事にならないね」

「気にするなよ。年内に済むと良いな」

「うん!ありがとね!」

アイウィの電話を切ったテッドはホッと息を吐いた。

忙しい訳じゃないがコンテナの中で埃まみれで年越しなんて冗談じゃない。

危ない危ない。さて、とっとと店を閉めて正月飾りでも買いに行くか。

テッドは車のキーを掴むと事務所を出た。

 

「もう26日か・・・」

テッドは信号待ちをしながら、その奥にある師走の空を眺めた。

Deadline Deliversが世間に知られ始め、仕事量が安定してきたのはここ2,3年の事だ。

立ち上げる前から艦娘と深海棲艦のいざこざとか、それぞれが抱えてきた過去の清算とか・・

「色々やったなぁ・・」

既に人間ではなくなった身だが、武蔵に言った通り全然実感が無い。

うっかり市役所からのお知らせを手に健康診断へ行きそうになった事もあった。

 

「不老長寿化措置を受けた後は健康診断や医者に行ってはいけません」

 

それが睦月の注意事項だった。

なんでも心電図等で異常な値が出てしまうので、そこから表沙汰になりかねないらしい。

とはいえ、それくらいしか違いがない。

海に浮ける訳でもなく、無線通信が出来るのはファッゾや町長など、同じ措置を受けた者同士だけだ。

「電話があるのにわざわざ無線なんて使わねぇしな」

青信号になったので、テッドはアクセルを踏み込んだ。

 

 

 


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