Deadline Delivers   作:銀匙

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第38話

龍田は海原を見ながら言った。

「Deadline Deliversは、今や世界の海運、いえ、物流ラインに必要不可欠な存在です」

「・・」

「虎沼さんは北米と日本を結ぶので手一杯、Deadline Deliversはそれを各大陸と結んでくれている」

「・・」

「日本が莫大な物流ハブになっている現状は、この国の経済状態を維持する上で不可欠」

「・・」

「そして虎沼さんの港とDeadline Deliversの港、その間の陸送を私達の会社が独占している以上」

「・・」

「彼女達が変調をきたされると私達にも大きな影響が出るのよ~」

不知火が口を挟んだ。

「不老長寿化の話が漏れなければ良いのですが・・」

「絶対漏れるでしょうし、それも織り込み済みよ~」

「えっ?」

「考えてみて~、私達から世間にPR出来る筈無いでしょ~?」

「もちろんです」

「じゃあどうやって政財界の要人の耳に入れるの~?」

「・・あっ」

「実際に処置に成功した人間と会う程、確実な証は無い」

「・・」

「そして少しずつ噂として漏れ広がる位の方が、こういうオカルトめいた話は信憑性が高まるものよ~」

「つっ、つまり、彼らは実験台兼広告塔、だと・・」

「ええ。昆柊初代所長も同じ役割だけど、話が広がる速度が予想以上に遅かったのよね~」

「・・」

不知火は思った。

こちらもあまり知られれば処理能力的に困る。問題視する団体の処理も厄介だ。

かといって全く漏れなければ莫大な金を積んでやってくるカモの耳に届かない。

だから秘密を守れと言われつつも漏れ広がる位を「丁度良い」分量だと考えたという事か。

漏れたら漏れたでビジネスに繋がり、漏れた事実はナタリア達と交渉する時のカードにもなる。

ならば変に爆弾を仕掛ければ全ての意味でネガティブにしか作用しないから何もしない方が良い。

あまりにあっさり認めたからおかしいとは思っていたが、龍田会長はあの短い時間にそこまで考えたのか。

自分とは頭の回転が違いすぎる。もう口出しするのは止めよう。

「納得してくれた~?二人とも~」

「は、はい」

文月は腕を組みながら言った。

「という事は、実験台と言えど、あんまり失敗してはいけないという事ですね」

「あんまり、じゃなくて、絶対、なんだけどね~」

「えっ?」

「悪いサンプルがあったら要人は決して飛びつこうとしないもの~。むしろ予想以上に良くないとね~」

「・・・」

「東雲組は信頼出来るけど、一応ちゃんと言っておかないとね~」

 

3人は滑らかにソロル鎮守府へと舵を切っていった。

 

「は?今何て言ったナタリア?」

「だから、私達と同じ寿命になれるのよ」

「俺が艦娘・・いや、艦男になるのか?」

「正確には無線機に憑依するそうだから、艦では無いけどね」

夕食会から帰ってきたナタリアは、皆が寝静まった真夜中にファッゾの部屋を小さくノックした。

そして顛末をすっかり話して聞かせたのである。

「それにしても、海軍は何考えてそんな技術を開発したんだろうな」

「ずっと働ける司令官とか?」

「うわぁ、ありそうだなぁ・・」

「辞めてて良かったじゃない」

ファッゾは少し考えていたが、

「・・・うん、結果がどうであれ、その話に乗る事にするよ」

「ファッゾ・・」

「ただ、1つ約束して欲しい」

「なぁに?」

「もし俺が帰らぬ人になった時は、海軍と砲火を交えるな。そして、ミストレル達を頼む」

「えっ・・」

その時になってナタリアはようやくリスクに気がついた。

 

 ファッゾが処置に失敗して、帰らぬ人になったら?

 

ナタリアは一気に目の前が真っ暗になった気がした。

ファッゾが、ファッゾが帰ってこなかったら?

えっ?

海軍、いや、あの鎮守府と砲火を交えない?

そんな選択肢あるわけないわよ。

最後の一人になろうがズタボロにされようが、あの鎮守府を地獄の業火に放り込んでやる。

だって生きてる理由が無いもの。

「・・リア?ナタリア!おい!」

「!?」

ふと我に返ると、心配そうな目で覗き込むファッゾが居た。

「大丈夫かナタリア?」

ナタリアは言葉が出なかった。

震えながら、泣きながら、ファッゾにしがみつくしかなかった。

 

翌朝。

「行くでしょ、あなた?」

「ついでに10歳くらい若返れないかなあ」

「良いわね!出会った頃のあなたは王子様みたいだったし!」

ここは商工会議所の一番奥の会議室。

ファッゾが呼んだのはライネス達、テッドが呼んだのは町長と警察署長であった。

クー、ルフィア、ミストレル、ベレー、そしてワルキューレの面々も関係者として集まっていた。

そしてテッドとナタリアが龍田達の提案内容を説明していったのである。

キャッキャとはしゃぐライネスとルフィアはむしろ例外である。

町長やファッゾはどちらかというと腹を括った表情をしていた。

そして警察署長に至っては辞退すると答えたのである。

理由を尋ねられた署長は、

「不老長寿になってもメリットが無いよ。結構警察のお仕事はしんどいんだぜ?」

そういって肩をすくめたのである。

町長はしばらく悩んでいたが、

「わしはもう少し、皆を守る仕組みを整備したい。条例作りは根回しに時間がかかるしな」

と言って参加を表明した。

ファッゾは肩をすくめ、

「リスクはあるかもしれないが、そうそう乗れる船じゃないし、なりたい理由は明確にある」

と言った。テッドはそれに頷くと

「俺もほとんどファッゾと一緒だな。まぁ俺の場合は俺の後釜が居ねぇって事だが」

そう答えたし、ライネスは

「不老長寿の可能性を俺のような民間人が得られるチャンスは今回限りだろうからな」

と、にっこり笑って答えた。

ナタリアは一通り聞いてから、改めて署長の方を向いた。

「この町がこうなれた表の理由が町長とテッドの活躍だとしたら、裏の理由は私と署長のそれだったと思うの」

「んー、俺が何かしたかなぁ」

「余計な時に何もせずにいてくれたし、時に警察の役割以上の事をしてくれた」

「・・何の事やら」

「次々来る後釜の坊や達にイチから説明するのはとっても面倒なんだけど?」

「警察は定年ってもんがあるんだが?」

町長が澄ました顔で言った。

「うちの県はとにかく貧乏でな。コストカットにシルバー世代の活用を模索する動きがある」

「・・なに?」

「元気なシルバー世代なら署長役にモデルケースとして採用されるかもなあ」

「いつから手を回してた?」

「わし一人でこの町を背負うのは荷が重いからな」

「・・本気かよ」

「本気だが?」

町長と署長は数秒間視線を交わしていたが、署長は最後にはやれやれという風に溜息をついた。

ナタリアはそっと訊ねた。

「改めて聞くわ署長、この町の仕組みに今後も加わってもらえないかしら?」

「このメンバーでずっと町を動かすってのか?」

「正確には、町長、署長、テッドよ。そして私達が実働部隊。構成員のほとんどが同じ時間軸を生きる者達になるわ」

署長は肩をすくめた。

「ん、同期の連中にゴルフのドライバー勝負で圧勝するのも悪くないか」

「物凄い理由ね」

「まー、その・・さ」

「?」

「俺もこの町には愛着があるしな」

上目遣いで見返した署長に、ナタリアはニッと笑った。

「じゃあ町長、署長、テッド、ファッゾ、ライネスの5人で良いわね?」

室内に居た全員が頷いた。

 

一方、その頃。

「はぁーぁ・・」

「姉様?」

「・・・はぁー」

溜息をつきながらぼんやり外を眺める防空棲姫を見て、妹である港湾棲鬼は首を振った。

ファッゾさんが結婚したと耳にしてからずっとこの調子。

これはしばらく駄目そうだ。

 

 

 

 


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