Deadline Delivers   作:銀匙

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第35話

「ぃよっし!いよっしゃあああああ!!!シャーッ!」

「あー負けたー」

 

そう。

1位はミストレルの全勝であり、ぶっちぎりである。

だが2位はミレーナ、3位フィーナ、4位フローラとなったのである。

トータルではミストレルとフィーナのチームが勝った。

しかし、ミレーナは1万コイン札を差し出しながらも満面の笑顔だった。

まさに試合で負けて勝負に勝ったのである。

「うっうっ・・ミレーナは、ミレーナはついに、ついにやりました・・」

「良かったね、良かったねミレーナ」

「フローラぁ・・うわあああぁん!」

抱き合うミレーナとフローラを前に、フィーナは完璧に引いていた。

「そ、そんなに・・」

一方、ベレーは手早くテーブルの上の散らかったカードや点数表を片付けると、

「ご飯に、します!」

と、少しムッとした顔で台所へと姿を消した。

気づいたフィーナがミストレルに訊ねた。

「えっと、何でベレーちゃん怒ってるのかな?」

「ん?あぁ、ベレーはファッゾとアタシのご飯が大好きでさ」

「へー」

「その為に昇天せずに艦娘となって帰ってきたくらいだからさ」

「えっ?」

「だからファッゾのメシを邪魔されるのはとっても面白くないってわけさ」

「ご飯食べたら機嫌直してくれるかしら?」

「大丈夫大丈夫。気になるなら食後にビーネンシュティッヒ奢ってやれば完璧だ」

「ビ?」

「ビーネンシュティッヒ」

「え、ええと、シュトーレンじゃ無くて?」

「あれはハチ公の好物だろ」

「そもそもどこで売ってるの?」

「山下食堂の隣のケーキ屋」

「仕方ない。皆も買って来たら食べる?」

「普通に食うぜ。旨いし。ただ・・」

「ただ?」

「売り切れとか作ってない日もあるから、ベレーには確保出来てから言った方が良いぜ」

「あぁ、先に言って無かった場合・・」

ミストレルがブルブル震えながら目線を逸らした。

「あっ・・あれはさ・・ちょっと想像を絶するくらい怖い思いをする事になるぜ」

「そこまで!?」

「怒ったベレーはこの家でいっちばん怖いからな」

「・・ボスより?」

「あぁ。姉御より間違いなく怖ぇ」

フィーナはごくりとつばを飲み込んだ。

 

「ちょっと出かけてくるわね」

食後。

フィーナはそういうと、バイクのキーと財布を手に出て行った。

ベレーちゃんに気づかれないよう迅速に。

 

ピロロンピロロン・ピロロンピロロン♪

 

「良かった、まだ開いてた」

自動ドアをくぐったフィーナはホッとしつつ、いらっしゃいませと声をかけた店員に訊ねた。

「あー、えっと、ビーネンなんとかって」

「ビーネンシュティッヒですか?」

「そうそうそう。それ欲しいんだけど、ある?」

「ありますよ。お幾つですか?」

「良かった。ちなみにどれなのかしら?」

「これです」

 

あ、美味しそう。ボスも好きそうだなあ。

 

「ええっと、7つ、で、機嫌直してくれるかしら?」

フィーナの呟きに、店員はにこっと笑った。

「あぁ、ベレーちゃんですか?」

「えっ?あ、聞こえた?」

「はい。たまにファッゾさんとかミストレルさんが真っ青になって買いに来るんで」

「あー」

「ちょうど今のお客さんみたいに」

「・・で、二人は何個買っていきます?」

「ファッゾさんは5個買って行きますね。ミストレルさんは4個かなぁ」

「ってことは少なくともベレーちゃんは2個って事ね」

「ええ。お二人ともベレーちゃんが物足りないと怖いからと仰って」

「じゃあ・・14個あるかしら?」

「ええっ!?・・えっと・・すみません、10個しかないですね」

「まぁファッゾさん達が2個ずつで良いか。買い占めると問題かしら?」

「もうこの時間だと大丈夫だと思いますけど・・何となく予感が」

「何?」

「これ、他にも好きな方が居・・」

 

ウイーン!

 

「おばちゃん!ビーネンシュティッヒ3個ちょうだ・・・ひぃいっ!」

ドアを開けて入ってきたのはクーだった。

フィーナは氷の炎を背負いつつ、それはそれは鬼気迫る形相で睨みつけながら言った。

「うちが10個のうち8個買うのは確定してるの。買うなら2個で我慢なさい」

「でっ、でもっ、うち3人」

「他のになさい」

「えっ、いや、でも喧嘩に」

「死にたい?」

「僕バームクーヘンにします!」

「そう。良い子ね。じゃあ8個くださいな」

「はっ、はい・・お持ち帰りの時間は?」

「15分もかからないわ」

「解りました」

 

ちなみにフィーナが急ぎ足で帰った後、

「ほら、シュネーバル2個あげるから、またおいで」

「おばちゃぁあん、すっごい怖かったぁー、うぇぇええぇええん!」

「よしよし」

と、泣きながらしがみつくクーをケーキ屋のおばちゃんは優しく抱きしめたという。

 

そして。

「・・・」

「あ、えっと、ベレーちゃん、夕食遅らせちゃってゴメンね」

「・・・」

「これ、お詫びの印なんだけど・・」

「・・ビーネンシュティッヒ発見しました」

「えっ、外箱見てよく解ったわね」

「気配でわかります。ビーネンシュティッヒです」

「気配!?」

「あっ・・それ以上傾けたらダメ、隣とくっついちゃいます」

「あ、ああ、そうね。任せちゃって良いかしら?」

「お任せされます。アッサムのミルクティーを23%濃い目、任務開始です」

箱を受け取るとくるりと背を向けるベレー。

フィーナは個数の事を告げようと声をかけた。

「あ、後ねベレーちゃん」

だが、完全に目の光を失ったベレーが首から上だけフィーナの方を向きながら言った。

「邪魔する敵は完全排除します。夜の戦いです。負けません」

フィーナはぶんぶんと頭と両手を振った。これはマジだ。

「あ、いえ、後で良いわ」

「ビーネンシュティッヒ・・ビーネンシュティッヒ」

「こ、怖いわね・・」

ミストレルはTVから視線を外すとフィーナに言った。

「何個買ったんだ?」

「8個よ。ベレーちゃん2個で」

「おっ、よく気がついたな。まぁ今日ならベレー大魔神は1個でも納得してくれると思うけどよ」

「あなた達が買う時の個数を教えてもらったのよ」

「アタシも2個って頼んどけば良かったなぁ」

「そうしたかったんだけど、クーに2個取られたのよ」

「2個?3個じゃなく?」

「1個はお話し合いで、ねっ」

「どう考えてもクーがマジ泣きしてる姿しか見えねーな」

「そんなにあの店はビーネンシュティッヒ以外美味しくないの?」

「他もうめーよ、ただビーネンシュティッヒが異常なだけだ」

「異常?」

「まぁ食えば解る」

 

 

 


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