Deadline Delivers   作:銀匙

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メリークリスマスってことで、夜にお届けです。
まあ、私にとっては普通の平日ですけどね(苦笑)




第33話

「あっ・・困ったな・・」

ファッゾは中途半端に人差し指を宙に彷徨わせた。

そう。

ワルキューレの事務所の玄関には呼び鈴が無いのである。

勿論ドアノッカー等という洒落た物があるからではない。

閉店後に叩き起こして笑顔で応じてくれる面々では無いので、誰も困らなかったのである。

ファッゾはぐるりと建物を回りこむ事にした。

確か勝手口があったよな・・・そっちに無いかな。

サクサクと砂利を踏みしめていく足が、人影を見つけてぴたりと止まる。

 

「どうしたってのよ、こんな夜更けに。答えでも聞かせてくれるのかしら」

 

裏口の戸に軽くもたれながら、ナタリアが悪戯っぽく微笑んでいたのである。

ファッゾの、そしてナタリアの。

視線が軽く交差する。

ファッゾがゆっくりと歩き出した。

「色々考えたんだけどな」

「ええ」

「同じDeadline Deliversだが、俺達の会社は業態がまるっきり違う」

「そうね」

「だから・・あぁいや、こんな夜更けに言いたいのはそんな事じゃない」

「えっ?」

ナタリアの一歩前に立ったファッゾは、薄暗い街灯の裸電球に上から照らされた。

軽く俯いたその姿は、まるで演劇の主人公みたいだとナタリアは密かに思った。

私だけの・・なんてね、ふふ。

だが、ファッゾがキッと顔を上げたので、ナタリアはどきりとした。

「ナタリア」

「えっ・・ええ」

ファッゾはその一歩を踏み込むと、強く、強くナタリアを抱きしめた。

「えっ・・えっ・・ちょっ!?」

ファッゾは事態を飲み込んでないナタリアの右耳に向かって囁いた。

「俺が俺で居られる間、ずっとお前と一緒に居たい。今すぐ始めたい」

「えっ!?それって?あのっ!?えっ?」

「ナタリア」

「はっ、はい」

ファッゾは上半身だけ軽く逸らした。

首元にさっと冷気が流れたので、ナタリアはふるっと震えた。

「結婚しよう」

返事をする間もなく、ファッゾはナタリアの唇を塞いだ。

ナタリアは始めこそ目を見開いたが、ゆっくり目を閉じると両腕をファッゾの背中に回した。

その様子はまるで1枚の絵のようだった。

 

「お、おお、おおぉぉぉおぉ・・ミュージカルかっての。この後歌い出すのかっての」

「どうしよう、完全に出て行ける状況じゃなくなったんだけど」

隙間から見ていたフローラとミレーナが恐る恐るこちらを向いたので、フィーナは肩をすくめた。

「良いじゃない。今時こんな展開、少女漫画にもなさそうだけど」

「ど、どうしたら良いかな」

「音を立てないように撤退するしかないと思うけど?」

「うっそ録画しないの?」

「何でそうなるのよ・・いーから来なさい」

「みっ、耳引っ張らないで・・イタタタタ」

「私なにも・・あうぅぅぅうううぅ」

ナタリアは戸口を細目を開けて見ていたが、気配が消えたので再び目を瞑った。

邪魔したらフィーナ達といえど容赦するつもりはなかったが、まぁ良いわ。

 

 

その翌日。ファッゾの事務所にて。

「という訳で、うちの方の定休日を変えようかと思うんだ」

「そんな先の事まで心配してたなんて・・さすがファッゾお父さんよね」

「という事はナタリアお母さんになるんだぞ?」

「・・そっかぁ」

「お、おいおい、そこは突っ込んでくれよ」

「だって・・実感するじゃない?」

「実感か。俺は今更って感じだけどな」

「言われ続けたものねぇ」

「今までは否定し続けてきたが、ナタリアが奥さんなら悪くないな」

「まあ、うふふふ」

 

食堂のテーブルに腰掛けていたミストレルは頬をひくつかせながら、真向かいに座るミレーナに言った。

二人はカードゲームの真っ最中である。

「なぁ、C4かクレイモア持ってないか?」

「RPG-7の方が良くない?」

「あー良いな、ぶっ飛ばしてぇ」

「で、ストレートフラッシュ」

「げっ!?」

「はいはい2000コイン頂きぃ」

「なんでそんな強えーんだよミレーナぁ」

シャシャシャとカードを切りながらミレーナはいった。

「だって訓練があったもん」

「訓練って、どこで?」

「鎮守府よ。ミッションによってはバッカみたいな方法で決着をつける事があるの」

「・・」

「その時、クジ運悪いからカードはパスなんて言える場面ばかりとは限らない」

「・・」

「だから色々学んでるわよ?ロシアンルーレットで死なないようにとか」

「どう、やるんだ?」

「ハンマーを起こす前、次に装填される位置にタマが入ってると重心が偏るのよ」

「・・・ええっ?」

「解りやすいようにすると・・」

ミレーナは自分のホルスターからコルトパイソンを抜くと1発だけ弾を残し、位置決めしてから手渡した。

「ほら、触ってみて」

「・・・うん」

「これが違う位置になると・・ほら違うでしょ」

「・・さっぱりわからねぇ」

「それを解るようにする訓練をすれば、運任せから技術の世界になるの」

「なるほど」

「興奮した相手なら、そいつにタマが行くようシリンダーを回す事も出来る」

「マジかよ」

「ええっと・・・」

ミレーナはシリンダーを開け、シャーっと回転させた後でパシャリと閉めた。

「これで最初にハンマー起こした奴はお陀仏で・・」

再び同じような動作をして閉じるといった。

「これで3人目がお陀仏」

「マジかよ」

「開けてくれて良いわよ」

ミストレルがそっと受け取った銃のシリンダーを開け、数えた。

「ほんと・・だ」

返されたパイソンにAP弾を込め直しながらミレーナは言った。

「まぁそんな変態的な訓練もみっちりやらされたのよ。MADFって所はね」

「・・・実際、役に立ったのか?」

 

 

 


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