「・・すっごいなー」
ミレーナがそう呟いた理由は、
「あぁ!あぁ!そう!ヨーグルト!いちごのヨーグルトぉぉぉ!」
そう言ってフィーナが目の色を変えてヨーグルトをがつがつ食べる姿を見ていたからである。
「そんなに好きだったっけ?ヨーグルト」
「今とっても食べたかったの!」
「へー。あ、あと紅茶も置いとくね?」
「あ、飲みたい!すぐ!」
「すぐですか」
「ジャストミートよ!」
ミレーナは心の中でファッゾに拍手を送っていた。
こんなピンポイントでよく解りますねぇ・・
フローラとミレーナは事務所に戻ってきた後、冷凍庫からそっとアイスを取り出し、ニッと笑って頷いた。
そして向かい合って食べ始めた。
ご褒美があるというのは嬉しいものである。
「そっちどうだった?」
「うん、フィーナが見た事無いくらいの勢いでヨーグルト食べてた」
「ボスも食べたなぁ。ゆっくりだけど全部。まだ熱あるみたいだったけど」
「フィーナは普通の顔色だったけど、ボスはどんな様子だった?」
「なんか、ぼーっとしてたよ?顔がちょっと赤くて、へらへら笑った感じで」
「大丈夫なのそれ?」
「私も聞いたんだけど、大丈夫大丈夫って言うからさ・・」
「明日の朝の様子見て、変わらなければファッゾさんに相談してみようよ」
「そうだね」
「ところで、さ」
「うん、私も提案あるんだけど」
「・・一口」
「だよね」
二人はそういうと、互いにアイスを交換したのである。
「美味しいわー」
「パッケージからして高そうだよね。どこで買ってきたのかな?」
「なんかこう、ボスにもフィーナにも内緒でさぁ」
「そっとご褒美の高級アイス食べるのって・・」
「・・・」
「・・・」
二人はニッと笑った。
「すっごい美味しいよねー」
「背徳感と共犯感ものすごいわー」
「捨て方注意だよねー」
「あ、そうだねー」
「ひゃー、フタの裏舐めちゃおー」
「あっ、あたしもあたしも!」
二人はその晩、とても楽しかったそうである。
翌日。
「いや、大丈夫よ?起きて普通に食べるわよ?」
「ファッゾさんから、それでもリンゴを食べさせるようにと」
「あ、リンゴは貰う、けど・・」
「なんですボス?」
「・・ええと」
「リンゴは1人2個ありますから結構食べられますよ?」
「1個はお昼にしてさ、その、もうちょっと」
「お粥とかですか?」
「あ、良いわね」
「梅粥ならありますけど」
「良い!よく気がつくじゃない!」
「ファッゾさんが買ってきてくれました」
「・・うちに渋いお茶なんて無かったわよねぇ」
「緑茶のティーバッグが」
「あるの!?」
「ファッゾさんが以下同文です」
だが、途端にナタリアはしゅーんと俯き加減になった。
フローラは心配そうに手を取った。
「ボス?やっぱりまだ具合悪いんじゃないですか?」
「ううん。そうじゃないの・・」
「・・沢山お酒飲んだ事と関係します?」
「そう・・ね、そうなるかなぁ」
「話くらい聞きますよ?フィーナほど上手くないですけど」
「貴方達に優劣をつけてる気は無いんだけど」
「でも、こういうのってフィーナが一番対応してますし、それが合ってると思いますし」
「・・」
「フィーナもろとも風邪引いたのって、そういう事なんですか?」
「そう、ね」
「そろそろ吐き出した方がよくないですか?」
「・・」
「今日はテッドさんも仕事待ってくれてますし、フィーナの具合が悪くなければ・・」
「私個人の問題だし、あんまり良い話じゃないよ?」
「そうだとしても、です」
「・・」
「私達は日頃からボスに色々気にかけてもらってますし、相談にも乗ってもらってます」
「・・」
「だから私達がボスのお悩み聞くのだって良いと思うんです」
「・・」
「ボスはよく言うじゃないですか。事態が変わらなくても吐き出すだけで楽になる事もあるって」
「・・」
フローラは笑って立ち上がった。
「フィーナの様子見てきますね」
「・・ええ、あの」
「はい?」
「ありがとう、フローラ」
「いつもしてもらってる事ですから」
そして、ナタリアの部屋に全員が集まった。
言い淀むナタリアに、フィーナが口を開いた。
「・・ボス」
「うん」
「あの夜、バイクに突っ伏して言った事覚えてますか?」
ナタリアの顔色がさあっと青ざめる。
「・・な、何、言ったの?私」
「まるっきり?」
「記憶が無いんだけど」
「あーその・・ファッゾさんに抱かれたい、と」
キャァァアアアアアア!
同じ声を上げようとしたのはフローラとミレーナだった。
だが、ナタリアが先に大声でそう叫び、声の可愛さと意外さに驚いて声が引っ込んでしまった。
フィーナは肩をすくめた。
「まぁほとんど丸解りなんですけど、一応補足貰えますか?」
茹でダコもかくやというほど全身真っ赤になったナタリアは、涙目で体育座りになり、ぷるぷる震えている。
酔っ払いの与太話ではないと今証明してるようなものだが、3人は思っていた。
やだ、ボスが可愛い、と。
「でもね、そういう気持ちってどうなのかな、好きって言っていいのかなって・・それで私思ったの」
フローラとミレーナは既に数回足を組み直していたが、フィーナは相槌を打ちながらじっと聞いていた。
すでに2時間、話が止まらない。
乙女チックな告白が大フィーバーのノンストップリミックスである。
ミレーナは思った。どんだけボスは溜め込んでたのよ。
「・・・という事なのよ」
ナタリアが口を閉じ、ようやく部屋が静まり返ったので、フローラはそっと溜息をついた。
フィーナが無表情に頷くと言った。
「つまりファッゾさんが大好きで一人で悶々と考えまくって事実と想像の合い挽き肉状態である、と」
ナタリアが一瞬で真っ赤になった。
「あ、あああ逢引はまだ早いんじゃない!?も、ももも物事には順序って物が」
「違います」
ミレーナは言った。
「まぁ知らない仲じゃないから慎重になるのは解りますけどね」
「でしょ!?そうよね!攻略は慎重にって教官も言ってたし!」
フローラは言った。
「ただ、戦況分析的に考えれば、ボスは相当不利ですよ?」
「やっぱりそう?」
「んーまぁ、昨日の対応を見ればファッゾさんはボスを決して軽くは扱ってないです」
「・・そっかぁ・・えへへ」
「でもそれは、どっちかというと具合の悪い艦娘を看病する司令官というか、お父さん的態度ですし」
「うっ」
「その方面から攻める場合、同居してるミストレルさんとかベレーさんの方が圧倒的有利ですし」
「そっ・・そうよね」
「そもそもファッゾさんがボスをどう見てるか、確認してないですよね」
「ぐはっ」
ミレーナがそっとフローラのひざに手を置いた。
「あんまり致命傷負わせると可哀相よフローラ。戦況分析ほどドライにやらなくても」
「あっ、つい」
その間、フィーナはじっと、腕を組んで考えていた。