Deadline Delivers   作:銀匙

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第22話

 

ファッゾがワルキューレの事務所を再び訪ねてきたのは夕方だった。

事務所のドアをそっと開けると、事務処理をしていたミレーナ達が気づき、声をかけてきた。

「ファッゾさん、こんにちは」

「二人は?」

「朝からぐっすりです」

「そうか。熱があると水分が逃げるから、これをそれぞれの部屋に」

そういって天然水の入った2リットル入りのペットボトルを袋から出し、蓋をパキッと開ける。

「あ、ウォーターサーバーありますよ?」

「本人にしろ看病する人にしろ、部屋から何度も汲みに来るのは大変だろ?」

「・・おぉ」

「なるほど」

「それから、このヨーグルトは二人の夕食に」

「あー、食欲なさそうですもんね」

「うん。ただ冷たい物だけだと体が冷えるから、これ温かい紅茶。1人1本ずつな」

そう言って「紅茶」とシールが貼られた魔法瓶を2つ取り出す。

「はい」

「明日の朝は、二人が大丈夫と言っても無理させるな。りんご位が良いと思うんだが、二人は剥けるか?」

「大丈夫です」

「ん。じゃあ4個渡しておく。昼と分けても良いから無理して食べさせないように」

「はい」

「と、いうことで看病を頑張ってくれる二人には、これだ」

「あっ!ブルーベリーアイス!」

「チョコアイス!」

「あと、お粥のレトルトも買っておいた。湯煎かレンジで温めれば良い」

「レーションみたいなもんですよね?」

「まぁそうだ。梅粥だからさっぱりすると思う。ティーバッグの緑茶も置いとくから」

その時、ミレーナがまじまじとファッゾを見ていたので、ファッゾは首を傾げた。

「ん?なんだ?」

「・・・ファッゾさんって」

「あぁ」

「お父さんですよねぇ」

「なんだそりゃ」

「どうしてこんなに手際良いんですか?」

「まぁ、鎮守府ではそれなりに所属艦娘がいたんだ」

「ええ」

「数が居るって事は、しょっちゅう誰かしら怪我したり体調を崩してるんでな」

「・・」

「まぁその、こういうのも慣れたんだよ」

「不具合の対処って工廠の人がやりません?あるいは間宮さんとか」

「うちは小さかったから間宮さん居なかったし、皆工廠にはちゃんと行かせたんだが・・」

「はい」

「なんか知らんが、俺が看病に来いって指名されてなぁ」

「・・」

「怪我人や病人の言う事じゃ無碍にも出来んし、こんな感じで手伝ってもらえばやれてたからな」

フローラが優しい目でファッゾを見ながら言った。

「お父さんだ」

「えっ?」

「お父さんだ」

「おいおい、まぁ、フローラ位の娘がいてもおかしくは無い年だけどさ・・」

「そうじゃなくて、心意気がお父さんだって事」

「そうか。そんなもんか」

「きっとファッゾさんの鎮守府は、あったかかったんでしょうねー」

ファッゾは悲しそうに笑った。

「俺がクビになったから、皆記憶を奪われてバラバラに再配属されていったけどな」

「あっ・・」

「その行き先でどうなったかは、正直今も心配だよ」

「・・」

「まぁ、過去を知ってるというか、覚えてるのは俺だけだから良いけどな」

「皆さんが・・」

「うん?」

「再配属先で幸せにやってると、良いですね」

「そうだなぁ・・」

何となくしんみりした雰囲気になったので、フローラとミレーナは申し訳なさそうにファッゾを見た。

ファッゾは手を振って言った。

「良いよ良いよ昔の話だ、じゃ、二人とも悪いけど頼んだよ」

「あ!ファッゾさん!」

「なんだ?」

「請求書ください。ちょっと後日になると思いますけど必ず精算しますから」

「・・病人から金むしるような極悪人に見えるか?なんでも屋としてやってるわけじゃないぞ?」

「それは解ってますけど、ファッゾさんにお支払い頂く理由がありません」

「んー・・ま、ナタリアには運び屋を始める時の借りを返した。そんな風に言っといてくれ。じゃあな」

 

バタン。

 

閉まったドアを見つめながら、フローラは悲しげな目で微笑んだ。

あんな司令官が沢山居たら、艦娘達はさぞ幸せだったろう。

どうして良い人はクビになり、悪い司令官がはびこるのだろう。

私達が始末しなきゃいけないような、救いようのない司令官が。

冷凍庫の奥底にアイスを仕舞ったミレーナは、フローラに声をかけた。

「どうしたの、フローラ?」

「ううん。世の中上手くいかないよね」

「・・・」

ミレーナはフローラの目を覗き込んだ。

「えっ?」

「まぁ、軍は割り切りの世界だからさ」

「・・」

「割り切れない人は弾かれちゃうけど、割り切り過ぎてても弾かれないんだよね」

「・・」

「だから私達みたいな組織が、割り切り過ぎる人を弾くしかなかったんじゃないかな」

「・・何とかならないのかなぁ」

「戦争が終わって、軍が用済みになるしかないよね」

「でもさ、終わったら、私達は無用だよね」

「そうね」

「そうなった時、ミレーナはどうしたい?」

「そうねぇ・・」

ミレーナは少し考えていたが、

「ファッションモデルやりたいかな!」

「そのまま?」

「このまま」

「なんで?」

「化け放題じゃない」

「体重管理は要るけどね」

「うっ・・ま、まぁ・・それは・・・」

「ははっ、変な事聞いてごめん。じゃあヨーグルトとか持っていこうよ!」

「そうだね」

実はミレーナは適当に答えただけだったのだが、フィーナ用の水とヨーグルトを手に考えた。

戦争が終わった後、か・・

 

 

 


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