Deadline Delivers   作:銀匙

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第11話

 

この町で生きていく上で、守らなきゃいけないルールはそれ程多くない。

だが、ファッゾが行おうとしている事は間違いなくその中の最優先事項だった。

 

ファッゾは表通りから少し奥に入った所にある、目立たない家の前でBMWを止めた。

 

「テッド仲介所」

 

そう書かれた扉を開けると、きつい葉巻の匂いがした。

「やぁテッド、調子はどうだい?」

部屋の奥で書類とにらみ合いをしていた小太りの男は、ファッゾの声で顔を上げた。

「ああ?ファッゾか、今忙しいから面倒事はお断りだぞ」

「分配かい?」

「違う。差配だ」

 

差配とは、1つの依頼を複数のDeadline Deliversに任せる為に仕分ける事。

分配とは、複数のDeadline Deliversで1つの仕事をした後、仕事量に応じてギャラを按分する事を指す。

両方ともテッドの重要な仕事であり、その為にテッドは居るようなものである。

ゆえに、一番ここに来てはいけないタイミングは分配額でDeadline Deliversがテッドに文句を言ってる時だ。

テッドはDeadline Deliversに仕事を依頼する唯一の仲介人である。

とばっちりを食って仕事を干されてはたまらない。

差配で良かったと思いながら、ファッゾは話し始めた。

 

「何年か前、うちでインドまでの長距離輸送を受けただろ?」

テッドは思い出すように顎に手をやったが、やがて頷くと、

「・・あぁ。あの超長距離な。あの後依頼人が大層喜んでな、うちの評判も上がったぜ」

そう言いながらテッドが満足そうに葉巻の煙を吐き出すのを見て、ファッゾは頷いた。

「そりゃ良かった。で、その輸送中にミストレルが世話になった艦娘が居るんだが」

「ほう」

「そいつから今朝、ミストレル宛に電話がかかってきた。だから2週間くらい、うちはそっちを対応する」

「仕事か?」

「今は会ってくれと言われただけだから解らない。仕事に変わった場合は改めて連絡するよ」

「そうしてくれ。じゃあファッゾのとこは2週間対応不可・・・と」

「すまん」

テッドが気づいたようにガリガリと頭をかいた。

「あーそうか、じゃあ今度の計画にはお前らが使えんのか・・参ったな」

ファッゾが肩をすくめた。

「終りが早まったら連絡するよ」

「そうしてくれ。期待しないで待ってる」

「報告はこれだけだ。邪魔したな」

「ああ、またな」

ファッゾはテッド仲介所を振り向き、1度頷くとBMWに乗り込んだ。

 

あらかじめ、このように知らせてしまえばどうという事は無い。

まずいのは後で、しかも他の人の口からテッドが聞いてしまった場合である。

もしもテッドという仲介システムをないがしろにしてると疑われれば、町の連中が一気に敵に変わる。

そうなればもう町にはいられない。

以前、ちょっとでも多く稼ぎたいとコソコソ動き回った連中がどれだけ消されていった事か。

破ってはならない町の掟だ。

 

BMWのエンジンをかけた時、聞きなれた「ドッドッドドド」というエンジン音が近づいてきた。

バックミラーをちらりと見たファッゾは運転席の窓を開けた。

BMWの隣に派手なハーレーのチョッパーが優雅に止まる。

キックスタンドを起こしつつライダーが声をかけてきた。

「はぁーいファッゾ、元気?」

「ナタリア、どうしたんだ?」

 

ナタリア。

レ級4人組のDeadline Delivers、「ワルキューレ」のボスである。

ナタリア自身もレ級であり、当然今は人に化けた姿である。

乗ってきたハーレーは彼女の愛車であり、傷でもつけようものなら跡形なく吹き飛ばされるだろう。

 

ナタリアは眉を寄せて話し始めた。

「聞いてよファッゾ、テッドの奴、この間の山越えのギャラ、ペナルティで250万も減らすっていうのよ!」

「うん?深海棲艦向けの弾薬輸送だろ?なんで山越えなんだ?」

「運び先は海底だけど置いてあるのが山奥の倉庫だったのよ。地上を300kmも運んだんだから」

「どうやって運んだんだ?」

「決まってるでしょ。艤装に押し込んで皆で1台ずつバイク運転したわよ」

「で、なんでペナルティなんだ?」

「ハイウェイにパンダが隠れててスピード違反でパクられたの」

 

パンダとはパトカーの事である。色でお察し頂きたい。

 

「何キロで?」

「・・・」

バツの悪そうな顔になるナタリアをファッゾが無言で見上げると、渋々と言った様子でナタリアは答えた。

「・・120km」

「高速で120km?別に皆出してるじゃないか。蛇行運転でもしたのか?」

「120kmオーバーよ」

「一発免停確定じゃないか」

「そもそも免許持ってないけどね」

「よく警察とトラブルにならなかったな」

「なって、留置場にご案内されて、輸送が間に合わないって事でテッドに電話した」

ファッゾがますますジト目になったので、ナタリアは人指し指を立てて反論し始めた。

「しょうがないでしょファッゾ。ハーレーは高速の方が安定するのよ。知らないの?」

「だからって200kmも出す事ないだろ」

「あら、240kmよ」

「お前なあ」

「超特急でってオーダーだったし。パンダ振り切ったら機動隊のヘリまで出てきてさぁ」

「留置場からどうやって出たんだよ」

「身柄引き受けに来たのは町長の秘書だったわよ」

「あー・・」

交通違反で留まる限り、速やかに収束させるなら政治家に介入してもらうのが手っ取り早い。

この町の警察署長と町長はとても仲が良いから尚の事だ。

警察もナタリア達が深海棲艦だとは気づかなかったのだろう。

もっとも、ナタリアが本気で怒れば警察署の1つや2つ訳も無く壊滅させられるのだが。

「それなら250万て実費じゃないの?政治家動かしたんだろ?」

「実費だろうが何だろうがアタシ達は砲弾掻い潜って海底まで運んだのよ!そこまで値切られる覚えは無いわ!」

ファッゾは両手を挙げた。

「んじゃあ後はテッドとやってくれよ。サシで」

「えー、一緒に来てくれないのファッゾぉ?」

「どう考えても肩を持てる理由がないよ」

数秒間ファッゾを見たナタリアは、フンと鼻を鳴らし、再びハーレーのエンジンをかけた。

「ファッゾがダメだっていうなら勝ち目無いか。じゃ、帰るわ」

「それが良いよ」

「みっちゃん達によろしくねー」

「ああ」

 

みっちゃんとはミストレルの事である。

 

「やれやれ、テッドの肩代わりをしちまったよ」

ファッゾはハーレーの後姿をちらりと見送ると、BMWを発進させた。

 

 

 


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