Deadline Delivers   作:銀匙

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第21話

 

意味に気づいたフローラはファッゾに言った。

「つまり二人とも、味覚が・・」

「うん。熱によるものだと思う。で、2つ目だ」

「それは・・聞いても?」

「これは生姜湯だ。濃さも普通だよ」

コップに生姜湯を注ぎながらファッゾはフローラに言った。

「二人はこれを飲んだら早く休ませたほうが良いと思う」

「この場合って、ビットさん達を呼んだ方が良いんでしょうか・・」

「艤装の不具合によるものじゃないし微妙な所だね。けど、起きてて良いとは思えない」

「じゃあ二人のベッドメイクしてきます!」

「うん、頼んだよ」

ズズ・・ズズズズズ・・

ナタリアは生姜湯をゆっくり飲み干していた。

全く味がしない。お湯じゃないのこれ?

フィーナはちらちらとナタリアとファッゾを見ては、そっと生姜湯を飲んだ。

「う・・あたま・・痛」

ナタリアは急にそう呟くと、眉をひそめて額に手をやった。

ファッゾは腕組みをしてフィーナに訊ねた。

「こうなる原因に心当たりは?」

「ボスは昨晩、モヒートを11缶空けました」

ファッゾがすっとんきょんな声を上げた。

「11缶!?」

ナタリアが呻いた。

「そんなに飲んだっけ・・それからあまり大声出さないで・・お願い・・」

「あぁすまん、じゃあこっちの方が良いな」

「うー?」

「こっちの魔法瓶は、シジミの味噌汁なんだよ」

「あー・・超飲みたいわー」

「待ってろ・・あ、フィーナはどっちが良い?」

「私は生姜湯の方で良いです」

「じゃあこっちだな。もう1杯飲むか?」

「頂きます」

「ん・・ほら」

熱でぼうっとしながらも、フィーナはファッゾを見返した。

「どうした?視界がぼやけるか?」

「あ、いえ、大丈夫です」

「そうか。フローラがベッドを作ってくれてるから、飲んだら寝るといい」

「・・はい」

「ファッゾぉ、お味噌汁ぅ」

「あぁスマン・・・ほら、熱いから気をつけて」

「ん・・おいしー」

「ナタリアも飲んだら休むと良い」

「部屋まで連れてってよぅ」

「女の部屋に上がりこめるか馬鹿」

「本人が良いって言ってるんだから良いでしょー?」

「朦朧としてるなぁ・・あ、フローラ、出来たか?」

「お待たせしました!出来ました!」

「よし、二人とも足元がふらついてるから、ナタリアはフローラ、フィーナはミレーナが肩貸してやってくれ」

「はーい」

「表の札はclosedにしておく。後で適当に見繕ってくる。皆は食品アレルギーはなかったな?」

「ボスもフィーナも全くありません」

「フローラとミレーナは?」

「甘いものが大好きです!」

「アイスならブルーベリーで!」

「・・・まぁ良いか。じゃ、後でな」

 

そう言ってファッゾは札をくるりと返すと、そっとドアを閉めて出て行った。

 

そして。

 

「じゃあねフィーナ、こっちは気にしないで寝てなさいよ」

「ごめんねミレーナ」

「顛末は後でゆっくり聞くからね?」

「・・うん、治ったら」

「ええ」

 

パタン。

 

天井をぼうっと眺めながらフィーナはつらつらと思い出していた。

テッドは私達を見た途端、ちゃんと遠慮して早々に帰って行った。

仕事も待ってくれたし、良い上司という感じだった。

一方でファッゾは最初から私達がどういう具合かを考えて、その対策を持ってきてくれた。

生姜湯を飲んで初めて猛烈に喉が痛かった事、体が冷え切っていた事に気がついた。

フローラ達にベッドメイクや私達を運ぶ役をさせたのも紳士的だ。

さすが元なんでも屋。気配りは町内一だ。

・・・いや。

そこでフィーナは気づいた。

なるほど、あれは「お父さん」だ。

年頃の娘の体調不良を気遣い、嫌がりそうな事は始めからしない。

そういう段取りを組み慣れてる。

さすが、「ミストレルの父親」とか「ファッゾお父さん」とか呼ばれる訳だ。

まぁテッドにしてもファッゾにしても親切だし、悪い気はしない・・

でもやっぱり私にはナタリアがファッゾを好きになった理由が解らない。

ボスとはほとんど一緒に居るのになぁ・・

・・しんどい、ちょっと寝よう。

目を瞑ったフィーナはあっという間に眠りについた。

 

一方。

 

「うー・・・」

「ボス、ほら横になってください・・靴脱いで」

「ごめんねぇ」

「良いんですよ、どうして風邪引くまで外でモヒート飲んでたか教えてくだされば」

「えっ」

「後でで良いですから、じゃー」

「あっ・・うん・・いや・・出来れば違う事で・・」

 

パタン

 

ナタリアはベッドの上でズキズキする頭を抑えつつ、そっと横を向いた。

視線の先にはいつも自分が座る椅子が見える。

「んー・・」

そこに座るファッゾの姿を想像する。

正直、自分でも良く解らないのだが、ファッゾに全て晒してしまいたい。

これを好きと言って良いのかフィーナに聞きたかったのに、恥ずかしくて言えなかった。

さっきは部下3人の目の前だからと辛うじて理性が勝ったが、ちゃんと隠せたかしら。

「うー」

なんか熱でぼうっとしてるせいで隠し切れなかったような・・

ナタリアはそっと椅子に手を伸ばした。

「もし、そこにファッゾが居たら・・・」

きゅっと手を握ってもらって・・濡れタオルを額に当ててもらって・・

体とか・・拭い・・・・・

ナタリアはそのまま眠りについた。

 

 

 


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