Deadline Delivers   作:銀匙

105 / 258
第17話

 

「・・・」

「・・・」

 

ナタリアとファッゾの睨み合いは無言のまま30分が過ぎようとしていた。

フィーナはつんつんとテッドの肩をつつき、小声で囁いた。

「あのー」

「・・あぁ」

「ボスがファッゾさんと睨めっこして何か解決するんでしょうか?」

「俺が思うに、ナタリアは引っ込みがつかなくなってるんだろうよ」

「と言いますと?」

「ここで折れたらファッゾのDeadline Delivers入りを認める事になる」

「でしょうね」

「だがそうなればいずれファッゾの顧客がナタリアに牙をむく」

「テッドさんが余計な事を言わなければ良いのでは?」

「俺が黙ってても必ず噂は漏れ広がるさ」

「でも言わなければ噂で済むかもしれないですよね?」

「俺だけ死ねって言うのかよ」

「言う気満々じゃないですか。ボスを困らせるんなら砲火を交えるくらい厭いませんけど?」

「俺が死んだらある1文が出回る事になるぜ?」

「なんでしょう?」

「{必殺宅配人}ってネーミングを考えた誰かさんの話だ」

真顔になったフィーナはホルスターからHK45Cを引き抜くと、ぴたりとテッドの額に押し当てた。

「額で葉巻吸えるようにしてあげましょうね。45口径では狭いですか?」

テッドはフィーナの目を見上げながら邪悪な笑みを浮かべた。

「よほど町中に知って欲しいんだな?俺の話がコケオドシかどうか体張って確かめるか?ええ?」

数秒間、フィーナとテッドは睨みあったが、フィーナが溜息をついてゆっくりと銃を戻した。

「と、いうのをあの二人も繰り広げてるんですね」

「無言でな。まぁメンチ切ったら先にイモ引いた奴の負けだ」

「メンチカツにジャガイモなんて入ってないですし、何の関係があるんですか?」

「違う。にらみ合いになったら先に目を背けた奴が負けって事だ」

フィーナはニッと笑った。

「あれぇ?説明が解りやすくないですよぉテッドさぁん」

「ぐっ・・お前こんな時まで・・」

「テッドさんが解り易くない説明をしたから誤解しちゃったぁって言いふらそうかなぁ」

テッドが真顔になった。

「ふざけんなフィーナ」

フィーナも真顔に戻った。

「嫌ならボスに加勢してください」

「ファッゾにスネられたら俺の葉巻はどうなるんだよ!」

「自分で買って来たら良いじゃないですか」

「キューバまで行けるか阿呆!」

一方。

ファッゾとナタリアは完全に顔の筋肉がけいれんを起こす寸前だった。

そもそも睨み顔を延々と続けられるように顔の筋肉は形成されていない。

「い・・いい加減に・・諦めなさいよ」

「断る」

 

開始から49分27秒が過ぎて。

 

「ハー!もうだめ!顔が筋肉痛!イタタタタ!」

両手で顔をマッサージするナタリア。

肩で荒い息をするファッゾ。

しばらくしてファッゾを見たナタリアは、すっかり憔悴した顔になっていた。

「んもー、なんでそんなに強情なのよぅ」

「俺の今の生活は、ミストレル無しには語れない」

「・・」

「そして彼女は艦娘で、彼女の願いはDeadline Deliversになる事だ」

「・・」

「俺は借りを返す為に、彼女の願いを叶えてやりたい」

「・・」

「俺も元司令官だ。だから海の事は多少は知ってる」

「・・そう」

「今の海に出る危険は解ってる。本音を言えば余り賛成では無い」

「だったら」

「それでも彼女が望むことなんだ」

ナタリアは大きな溜息をついた。

「さすがファッゾお父さんと言われるだけあるわねぇ」

「誰がお父さんだ」

「ダメな物はダメだって言えば良いじゃない」

「他人が不便になるなんてのは願いを拒否する理由じゃない」

「・・まぁそうなんだけど」

「だろ?」

「うわっ!だっ、ダメよファッゾ!ダメったら!あ、アタシは認めてない!認めてないからね!」

「そんな真っ青になって首を振らないでくれよ」

「町の連中の恨みを一手に引き受けるなんてテッドだけで良いの」

テッドが怒鳴った。

「おい!聞き捨てならねーぞ!死ぬ時は道連れだからな!」

ナタリアは怒鳴り返した。

「だから巻き添えにしないで!」

ファッゾはテッドの方を向いた。

「・・このリストの連中を説得してこないとどうしてもダメなんだな?」

「あぁ」

「そして二人は味方してくれないんだな?」

「あ、あぁ」

「ごめん。命は惜しい」

「解った。じゃあ一人で何とかしてくる。ミストレルの為に。権利書は持っててくれテッド」

 

パタン。

 

閉まったドアを見ながら、ナタリアはテッドに囁いた。

「ねぇ・・その、このままだと後味悪くない?」

「寝覚めは悪いが町を敵に回すなんて冗談じゃないぜ?」

「うーん・・フィーナは何か思いつかない?」

「果報は寝て待て、寝た子を起こすな」

「・・余計な事すんなって事ね」

テッドはカリカリと頭を掻いた。

「まぁ町の連中もファッゾが本気で辞めるとは思ってなかったんだろうな」

「正直、取引してない人の方が少ないものね」

「マメで、トラブルは少なく、よく気がつき、正直者で、料金は安いときてるからなぁ」

「完全に信用出来る何でも屋って彼しか居ないのよね」

「ミストレルが加わって二人で仲良く頑張ってるとますます評価も上がってたしな」

「やっぱり無理だと思うわ、今回は」

「町の連中を説得出来ない、か」

「ええ」

「・・それで良いのかな」

「そこはちょっと引っかかるわね」

「町の連中がなんでも屋でいてくれる方が都合が良い、それだけだからなぁ」

「本人が意欲を失ったら同じサービスは提供しないでしょうし」

「んー」

「私も幾つか借りがあるのよね・・」

「まぁそうなんだが、町の連中がどうしてあそこまでムキになってんのか解らねぇからなぁ・・」

「・・ちょっと探りを入れてみるか。このままじゃやっぱり可哀相だし」

「もし動かす事で済むんなら町長なり警察署長なり幾らでも頼んでやるから言ってくれ」

「あんまり期待しないでね」

「解った」

 

二人は立ち上がった。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。