Deadline Delivers   作:銀匙

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第16話

テッドは短縮ダイヤルを押し、応じた声に機嫌良く話しかけた。

「よぅ、アエロマイクロの社長、俺だ。テッドだ。早速だが葉巻売ってくれ。コイーバをよ」

「・・あぁそうだ。ファッゾに流してた奴。なんでも屋辞めるからって連絡先置いてってな」

だが、相手の興奮した様子に、次第にテッドの表情が曇り始めた。

「え?あ、ああ、許可は・・出したけどよ。それが何だ?」

「・・なんで引き止めなかっただと?ああなったアイツが言う事聞くわけねぇだろうがよ」

「・・おい待てよ、俺のせいだって言うのか?ちょっと話・・あっ、切りやがったクソ」

ガチャンと受話器を置いたテッドは葉巻の箱を開けた。

「・・切り詰めても3日が良い所かよ。ちくしょうめ」

その時、電話が鳴り響いた。

「はい、テッド仲介所。あぁどうも、依頼ですか?え?違う?と仰いますと・・」

「・・ええ、確かにファッゾは来ましたし、心構えはあるようなので許可を出しましたが・・」

 

25分後。

 

「・・いえ、あの、私としましても皆様の生活状況まで鑑みて可否を判定する事は困難ですから・・」

「そ、そんな泣かないでください。あの、ええと、もう1度確認させて頂きます、はい」

チン。

テッドはぐったりとした様子で受話器を置いた。

「俺に泣き落としかけられても困るんだがなぁ・・」

そうつぶやいた途端に電話が鳴った。

嫌な予感を抑えつつ受話器を取る。

「はいテッド仲介・・えっ?あ、あぁ。さっき許可した・・なんでだって?断る理由がねぇだろ!?」

「・・俺に言うなよ!やるっていったのはファッゾだぜ!?断らなかった俺が全部悪い!?無茶苦茶言うな!」

「・・入店禁止!?そりゃない・・あっ」

テッドは電話の切れた受話器を持ったままじわりと青ざめた。

俺は情にほだされて大変な間違いをしちまったかもしれない。

ファッゾがなんでも屋を畳むなんてのは論外だったって事か?

溜息と共にそっと受話器を置いた途端、電話が鳴り響いた。

テッドは一瞬受話器を耳に当て、すぐに切った。

するとすぐさま電話が鳴り始めた。

テッドは今まで電話してきた連中をメモに取りながらごくりと唾を飲んだ。

ちょっと待て。

これはビッグトラブルじゃねーか?

 

2時間後。

「ナタリア!ここにファッ・・居たあ!」

ナタリアから真剣に話を聞いていたファッゾはテッドの大声にびくりとして振り向いた。

「なんだよテッド、お前がここに行けって言ったんじゃないか」

「ファッゾ!お前の許可取り消す!」

「俺が何したって言うんだ!まだ1件も依頼貰ってないぞ!」

「取り消しったら取り消し!ほら権利書返す!」

ナタリアは肩をすくめ、細巻き煙草に火をつけた。

「何があったのよテッド」

「俺のオフィスの電話が鳴りやまねーんだよ!」

「電話機の修理なんて俺は元々やってないよ」

「違うわボケ!お前のDeadline Delivers入りを認めた事に対する抗議の電話だよ!」

「は?」

テッドはメモをファッゾの目の前につきつけた。

「これがかけてきた連中だ。俺が断ると思ってたのにふざけんなって言われまくってるんだよ!」

「えー・・」

「たった2時間でこんなにかかってきやがった!ほらリスト受け取れ!」

「・・やけにあっさりしてたのはそういうことか」

「いいかファッゾ、お前が何とかしろ。まず!いの一番に!アエロマイクロの社長を説得して来い!」

「なんで?」

「俺のせいだから葉巻売らねぇって言われたんだよ!」

「は?」

「リミットは俺の葉巻の在庫が切れる3日後までだ!説得するかなんでも屋に戻るか選べ!」

「無茶苦茶言うなよテッド、職業選択の自由はあるはずだろ?」

「そんな安い憲法論で俺が禁煙するいわれはねぇよ。ほうぼうの店に出禁になるのも以下同文だ!」

ナタリアはくすくす笑っていた。

「それは・・本当にとばっちりね。ご愁傷様、テッド」

テッドはナタリアを見てニッと笑った。

「・・じゃあナタリアにもこの恐怖を味わってもらおうか」

「えっ?」

「ファッゾにDeadline Deliversの指南をしたのはナタリアだって言いふらしてやる」

一瞬でナタリアの笑顔がひきつった。

「ちょっと!待ちなさいよ。アタシを巻き込まないでよ!」

「じゃーナタリアも俺の側についてくれるよな?」

「汚いわよテッド!」

「うるせぇ!俺一人ジョーカー押し付けられてたまるかってんだ!」

真顔でナタリアがファッゾを見た。

「貴方に恨みは全く無いんだけどね、ファッゾ」

「え、あの」

「なんでも屋に戻らない?ああいえ、言い方が悪いわね。戻りなさい。今すぐ」

「命令!?」

「さすがにここまでテッドが血相変えるのは只事じゃないと思うのよ」

「・・」

「だから今まで通りなんでも屋で、ねっ?」

ファッゾが真顔になった。

「もし復業したとしても、このリストに乗ってる人達には取引しない。今決めた!」

「え!?」

「俺の門出を邪魔するのなら応分の報いをくれてやる。だからこの連中に今後一切御用聞きには行かん!」

テッドは手を額にやった。

ああちくしょう、誰か俺の葉巻を救ってくれ。

 

ナタリアはファッゾをジト目で睨んだ。

ファッゾも負けじとナタリアを睨み返した。

 

 

 


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