Deadline Delivers   作:銀匙

103 / 258
第15話

 

それから2年が過ぎた、ある朝のワルキューレ事務所。

「昨晩、また一人始末しました。いつも通り投棄しときましたよ」

「うそでしょ・・前の奴が一昨日来たのに昨晩も来たっていうの?」

「皆ももう苦笑するしかないって感じです。一番経験の少ない子でさえ3人は始末してますから」

そう。

テッドが旗揚げしてからこの2年間で、SWSPは57人もの暗殺者を仕留めていたのである。

もちろん、暗殺者のターゲットはテッドただ一人である。

ナタリアは報告を聞いて最初げんなりした顔を見せていたが、次第にギリギリと歯を食いしばると、

「ほんっと龍田の奴!ここまで酷いなんて聞いてないわよ!だから海軍なんて信用出来ないのよ!」

と、拳で机を叩き、フィーナ達もむすっとした表情で頷いた。

事情を知っている警察署長が一切黙殺してくれているから良いものの、下手な戦場より酷い。

既に町では公然の秘密となっており、テッドの事務所近辺の家は巻き添えを恐れて誰一人住んでいない。

このブロックで真夜中に足音がすればSWSPか暗殺者か、という程である。

(テッドはナタリアから、真夜中に家から出たら命の保障はしないと言われている)

とはいえ。

テッドの差配が功を奏し、寂れた港町はDeadline Deliversの集う町として知られ始めていた。

Deadline Deliversの出自に関心が向かないよう、テッドは慎重に舵取りをしていた。

それでも旺盛な海運需要は目ざとくDeadline Deliversを見つけ、依頼件数は増えてきたのである。

 

その数年後。

町で最も有名ななんでも屋だったファッゾがテッドの事務所に入ってきたのである。

テッドは顔を上げて首を傾げた。

「よぅファッゾ、今日は特に何もねぇぞ」

「今日でなんでも屋を畳もうと思ってな」

「お、おいおい、ちょっと待ちなよ。困る奴ぞろぞろ居るだろ?」

「ライネスにもそう言われたが、そんなに変わらんと思うぞ」

「まずは俺が葉巻の入手先に困るんだが?」

ファッゾは1枚のメモを差し出した。

「ここで買える」

「・・あん?これはアエロマイクロの住所と連絡先じゃねーか」

「ああそうだ。よく覚えてたな」

「キューバから・・空輸させてたのか?」

「セスナで行ける訳ないだろ。アエロマイクロの社長は喫煙具の通販を副業にしてるんだが」

「マジか?今度行ってみるか」

「通販だってば。それで、ロシアから年1回仕入れる時に一緒に輸入してもらってたんだよ」

テッドはぴしゃりと額を叩いた。

「くそ、そういや奴らは好天の季節ならウラジオストクまでは行けるって言ってやがったな」

「そして自分が依頼人ならテッドに報告する必要は無い。だろ?」

「あぁなんてこった。灯台下暗しってやつか」

「でな、テッド」

「あぁ」

「俺もDeadline Deliversになろうと思うんだが」

「・・あー、ちょっと前に入ってきた重巡の姉ちゃんか」

「そういう事」

「だが、なんでも屋でやっていく方が安全じゃねーのか?町でも評判良いぞ?」

「そうなんだが、どうしてもやりたいとミストレルが言うんだ」

「なんでだ?」

「俺にも解らんが、海が恋しいのかもしれん」

「あー・・」

「まぁ、あいつには借りもあるし、したい事をさせてやりたいからな」

「・・ファッゾ」

「うん?」

「お前本当にミストレルの親父になっちまったな」

「止めてくれ、まだそんなトシじゃない」

「しかもかなり娘を甘やかすタイプだよな」

「・・そう見えるか?」

「他に言いようがねぇよ」

「・・まぁそういうわけで許可ってどう貰えば良いんだ?」

「俺がテキトーに審査するだけだ」

「テキトーって・・」

「例えばファッゾがなんでも屋とDeadline Deliversどっちでいる方が俺に都合が良いかとかな」

「あまりにも偏ってないか?審査基準」

「で?Deadline Deliversになったらどの分野やるつもりだよ」

「単発の、チャーターだ」

テッドは顎に手を置いた後、ふむと言って葉巻を取り出した。

もう片方の手にシガーカッターを持ち、カシャカシャと動かした。

「目の付け所は悪くないぜファッゾ。よくライバルを観察してるな」

「あぁ」

 

 カシャッ

 

「だがよ、Deadline Deliversは文字通り死線を彷徨うぜ?」

「そうだな」

 

 カシャッ

 

「あの姉ちゃんが遠くの海で大破したらどうする?」

「まずテッドを力一杯ぶん殴る」

「ふざけんな馬鹿野郎。何言ってやがる」

「大真面目だ。そんなヘボいプランを立てたって事だからな」

「ぐっ」

 

 カシャッ

 

「ま、まぁ置いとく。それで?」

「全財産を渡すから確実な救出作戦を立ててもらうよ、テッド」

「言っちゃ悪いが、俺達のギャラ解ってるか?」

 

 カシャッ

 

「知ってる。だからこれを預けとく」

「・・家の・・権利書だと?」

 

 カ・・シャッ

 

「俺の車はもう市場では価値がないからな」

「・・・」

「それで足りない分はなんでも屋再開してでも返す」

「社員割引はねーからな」

「こっちも容赦なくグーで行かせて貰う」

「マジで殴る気かよ!?」

「当たり前だ。航路やプランは全部テッドに任せるしかないんだからな」

「・・じゃあお前にも権利をやるぜ」

「何の?」

「俺のプランが本気で気に入らねぇ時はお前が考えろ」

「!?」

「俺も納得したらお前のプランでやってやる。その時は自分で手前の顔殴れよ?」

「・・良いのか?」

「正直な話、俺はファッゾにはなんでも屋で居てほしい。その方が町の為だからな」

「・・」

「だがミストレルに大甘なお父さんは言う事聞きそうにも無いしな」

「だから誰が親父だ」

「最初は軽いミッションから回していく。二人で考えてこりゃダメだと思ったら早く言え」

「・・」

「俺もお前の家の権利書を債権屋に回すような事態にはしたくねぇ。意地を張るなよ」

「解った」

「じゃ、権利書は預かる。これがルールブックと許可証だ、受け取れ」

「許可証・・なんか簡単にコピー出来そうだな」

「ふざけんな。やったらどつき回すぞ」

「やらないさ。じゃあ後は連絡を待てば良いんだよな?」

「あぁ。依頼を引き受けるならここで説明を聞き、行って帰ってギャラ貰ってめでたしデンデンだ」

「解りやすい要約ありがとう」

「それは俺にとって褒め言葉だぜファッゾ?」

「褒めたつもりだが?」

「ちっ、ファッゾは頭が回るからな」

「なんだよ」

「なんでもない。あぁ、もろもろの相談するならワルキューレの所に行けよ」

「何故だ?」

「まぁ、古参だからな」

「ん、解った。ありがとう」

「じゃーな」

パタン。

閉まったドアの音を聞きつつ、テッドは葉巻の箱を開けた。

危ない危ない、そういや在庫が切れかけてたんだ。早速注文するか。

テッドは受話器を上げた。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。