Deadline Delivers   作:銀匙

100 / 258
通算100話になりました。
ええと、何話くらいまでショートストーリーと言って良いんでしょうね(汗)




第12話

ナタリアが頷いたのを見て、龍田は続けた。

「という事なんですけど、我々が皆様を攻撃しない代わりに、隠匿工作にご協力頂けますか?」

「他所の鎮守府からも?」

「ええ、主語は海軍とご理解ください。ただ・・」

「ただ?」

「付近で民間船や鎮守府、その所属艦娘などに攻撃されると、難しくなりますね~」

「自分の首を絞めるような阿呆な事はしないけど、喧嘩は売らないで欲しいわね」

「もちろんです。見込み通りの方で安心しました」

「あと、昨晩の件はどうするの?」

「何も無かっただけですよ~」

「依頼人も死んでるけど大丈夫なの?」

「そんな人はここに居なかった。私達が警察にお話すればそういう事になりますから~」

「・・」

「では・・」

龍田が差し出した手を、ナタリアは握り返した。

握手を終えた後、龍田は立ち上がった。

「詳細は別途、町長さんにご連絡しますね~」

「待って、そいつの名前は?」

「テッドさんです~」

「・・オーライ、そういう事ね」

「そういう事で~」

 

・・トン

 

襖が閉まると、ナタリアはがくりと頭を下げた。

昨晩から今までジェットコースターも真っ青の展開だ。

ひどく疲れた。本当に疲れて・・・

 

 くぅ

 

お腹が空いた。

フィーナがお櫃を開けて訊ねた。

「ボス、ご飯は特盛りですか?山盛りですか?」

「あなたは察しが良すぎるし、その2つは選択肢ですら無いわよ・・」

「皆聞こえてると思いますけど」

「いいわよ、山盛りでよそいなさいよ!」

「は~い」

フローラとミレーナはくすっと笑った。

ボスも大丈夫、海軍は攻めてこない。

後は死んだ仲間達を弔い、自分達と生き残った仲間で町を再建するだけだ。

 

 

その日が来た。

 

「初めまして。ええと・・あ、そうだ。テッドと申します。この度はお世話になります」

「こちらこそよろしくお願いします。私が町長で、こっちが海運業者代表のナタリアさん」

「よろしく」

「さて、早速ですが現状の詳細を伺いたい。聞いている事は概要ばかりで役に立たん」

 

町長もナタリアも、テッドの対応に驚いていた。

遠路はるばる来た初日なのだから、挨拶だけ済ませて宿に向かうだろうと思っていた。

だがテッドは文字通り詳細をナタリアや町長から次々と聞き出していった。

 

コトリ。

 

途中で職員がお茶を持ってきた時、テッドはぴたりと止まると、そわそわしだした。

「あー・・」

ナタリアはピンと来た。

「町長、喫煙所はどちらでしたっけ?」

「ここで吸って構わないですよ。灰皿持ってきましょう」

テッドは苦笑した。

「すみません。俺は考えをまとめるのにどうしてもコイツが入用なんで」

そういってテッドが葉巻のセットを取り出したので、ナタリアは咥えた細巻き煙草を噴き出しそうになった。

会議中に葉巻!?

こいつ、やっぱりクセ者か。

ナタリアは慌てて町長を見たのだが、その町長は目を輝かせていた。

「や、や、キューバ産・・コイーバの上物ですな?また良い物を」

「ご存知ですか町長!」

立ち上がった町長は席の引き出しから小箱と別の灰皿を持ってきた。

「いやぁ、わしの方で手に入るのはこれぐらいでしてな。灰皿はこちらの方が具合が良いでしょう」

「や、や、どうも。ほほう、これはキューバから輸出される最高級品じゃないですか」

「テッドさんがお持ちなのはキューバ国内の上級将校向けでしょう?」

「お、そこにお気づきですか。嬉しいですなぁ」

「ぜひ交換しませんか?」

「では1本どうぞ」

「ではこちらは2本で」

「いやいや、町長、ここは等価交換で」

「とんでもない、価値は2倍はあります」

「いやいやいやいや」

ナタリアは嬉しそうに互いの葉巻を交換する二人を見て、そっと脇に紫煙を吐いた。

一気に打ち解けたわね、この二人。

心配して損したわ。

 

「大体様子は解りました。後は現ナマの方ですな」

「そこは山甲信用金庫が上手く捌いてくれるはずです」

「ん?・・あー、あぁ。聞いた事がある。なるほど、そういうことか」

ナタリアは面白そうに目を細めてテッドを見ていた。

葉巻を咥えてから、テッドの洞察力は一気に跳ね上がった。

既に町長室は主にテッドが吐き出す煙で火事かというくらい紫煙が立ち込めている。

しかし、町長も割と葉巻を嗜んでいたとは知らなかった。

途中で秘書が来たが、全く動じる事無く窓を開けていったのはそういう事だろう。

 

こうして話が終わり、3人は町を順番に見て回っていた。

最後に着いたのは、かつてサウスウェストストリートだった場所だった。

無人の廃墟を破砕機を付けたパワーショベルが砕き、瓦礫を積んだダンプが埃を立てて通り過ぎていった。

町長が俯き加減に言った。

「数日前に現場検証が終わったので、復興に向けて整地しているところです」

ふとナタリアが見ると、テッドは瓦礫に向かって手を合わせて頭を垂れていた。

「テッドさん・・」

しっかり祈りを捧げた後、テッドは顔を上げて言った。

「俺は二度と、こんな悲劇を生まない。その為にここに来たと思ってるぜ」

そのテッドの姿が、滲んだ。

「うっ・・うううっ」

町長はナタリアがぽろぽろと涙をこぼしたので、そっとハンカチを差し出した。

「泣きなさい。君には泣いて良い理由がある」

「うううっ・・ぐすっ・・うー」

「テッドさん。わしからもお願いする。この町で惨事を見るのはもう沢山だ」

「気安い事は言えないが、最初から全力で行く。理由が良く解ったからな」

ナタリアが泣き止むまで、テッドと町長は眉を顰め、瓦礫の町を睨み続けていた。

 

 

 


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