「はいっ。副担任の山田真耶です。みなさん、一年間よろしくお願いしますね」
黒板の前ににっこりと微笑む女性副担任。
IS騒動から二ヶ月。一夏はあの後、すぐさま病院へと直行されたが、入院することなくすぐに退院した。
一時的な膨大な量の情報量が一夏の脳が処理出来なかったことによる頭痛で、操縦者の中にも偶にある症状だったのだ。
頭痛も既に収まり、一夏が起こしてしまったIS起動のことで楯無に呼び出され、IS学園に通うことになった。
幸いにも楯無と簪はIS学園に通っていたことだ。
「えっと。じゃあ、最初のSHRは皆さんに自己紹介をしてもらいましょう」
その時に楯無は一夏より一つ上で、簪は同い年だったことが発覚した。
そして、簪は四組で一夏は一組に入れられた。
「―――くん。―――くん」
そんなことを考えていると、一夏の前で何かを言っている副担任と目があう。
「織斑一夏君」
『はい。何でしょう』
唇読みで自分の名前を言っていることに気付き、一夏は手持ちの空中ディスプレイを展開し、書き込む。
「あ、あの、お、大声出しちゃってごめんなさい。お、怒ってる? 怒ってるかな? ゴメンね。ゴメンね!」
『あ、すみません。俺、耳も駄目で』
「え? ご、ごめんなさい!! えっと……」
書かれた言葉に山田先生はぺこぺこと頭を下げる。
そして、慌てているのか、どうすればいいか迷っていたが、ある程度状況を把握し。
『自己紹介ですね』
「あ、はい!」
がばっと顔を上げ、山田先生は一夏の手を取って熱心に詰め寄る。
それと同時に思わぬ人物が入ってきた。
「新学期早々騒がしいぞ。織斑」
そこにいたのは、一夏の実姉。織斑千冬がいたのだ。
「あ、織斑先生。もう会議は終われたんですか?」
「ああ、山田君。クラスへの挨拶を押し付けてすまなかった」
そう言って、教卓に立つと。
「諸君。私が織斑千冬だ。君たち新人を一年で使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。出来ない者には出来るまで指導してやる。逆らってもいいが、私の言うことは聞け。いいな」
何やら後ろの方で騒がしいが、一夏には雑音でしか聞こえないから何を言っているのか分からない。
だが、言っていることは予想がついた。
「……毎年、よくもこれだけの馬鹿者が集まるものだ。感心させられる。それとも私のクラスだけ集中させてるのか?」
まあ、あの千冬様ですからね。
織斑千冬。第一世代IS操縦者の元日本代表。現役時代、公式戦、無敗の記録を残したままある日突然、引退。
以後その舞台から姿を消した。―――その千冬がこのIS学園で教師をやっていたのだ。
「まあいい。織斑、続けろ」
相変わらず手話ではなく話してくる。
一夏が唇読みができることを知ってのことだ。
『山田先生、手話の通訳をお願い出来ますか?』
『ええ。大丈夫ですよ』
ディスプレイの文字を呼んだ山田先生は手話で返してくれる。
『織斑一夏です。よろしくお願いします。あれ?』
一夏はそこである人物を見つけた。
『箒?』
幼馴染。
篠ノ之箒がそこにいたのだ。
「お前は自己紹介も、まともにできんのか」
途中で自己紹介が止まったことに千冬は一夏の頭を叩く。
『いや千冬お姉さん……俺は……』
手話な為、翻訳がこうなってしまう。
それがまずかった。
「学校では織斑先生と呼べ」
もう一発喰らう。
「……今のって……」
「織斑君って……」
「ひょっとして……」
山田先生の翻訳でどうやらバレてしまったのだ。
姉弟だと言うことが。
「さあ!! SHRは終わりだ。諸君らにはこれからISの基礎知識を半月で覚えてもらう!! その後実習だが、基本操作は半月で身体に染み込ませろ。いいか。いいなら返事をしろ。良くなくても返事をしろ。私の言葉には返事しろ」
千冬がIS学園にいるから楯無と面識があるわけだと、一夏はこの時気付いた。
あんな事件をしでかしたのだから、千冬の耳に届かない訳がない。しかし、説明を求められた記憶がない。
楯無が事前に直接、千冬に説明してあったのだろう。
「席に着け。馬鹿者」
道理で素直に話が進む訳だと、一夏は思った。