インフィニット・ストラトス ~未定~   作:ぬっく~

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第5話

数ヶ月後、織斑一夏は目覚めた。医者の言う通り、一夏は言語能力をかなり失っており、聞こえる音は雑音に聞こえ、言葉もまともな会話すらできなくなっていた。

 

『もう、大丈夫?』

 

『ああ』

 

あの事件以降、一夏の病室に通い続けた少女、簪が手話で会話する。

一夏もそれで返す。

 

『今回のことだけど……』

 

『気にしていない。あれは俺がやったことだ』

 

『ち、違うの。私が……』

 

言いかけたところで、一夏は簪のおでこにとん、と人差し指と中指を当てる。

 

『お前が気にする必要はない』

 

そう言って、一夏は自分のおでこに触れる。そこに丁度、円状の痣があった。

あの日の弾丸は一夏の頭部に直撃し、普通なら死んでもおかしくない。しかし、一夏は生き残った。大きな代償を背負うことで。

 

『う、うん。また来るね』

 

簪は少し寂しげに病室を出て行ってしまった。

静まり切った病室で一夏は外を眺める。

 

「(もう直、冬か……)」

 

数ヶ月も眠りに着いた一夏は当然ながら学校には行っていない。

事件も誘拐事件ではなく、銀行強盗事件で片付けられ、一夏はそこで怪我を受けたと言うことになっている。

リハビリ、治療費などの金銭も更識側が全て出すことで全て両者は了承した。

 

「失礼するぞ」

 

一夏の病室に誰かが訪れる。

 

『弾か』

 

親友の五反田弾が見舞いに来たのだ。

 

「勉強は進んでいるのか?」

 

「お兄! 一夏さんは耳を悪くなさっているのですよ」

 

「いっけね! そうだった」

 

弾の後ろから現れたのは弾の妹の蘭だった。

 

『別に気にしていない。それより、勉強だったか?』

 

ホワイドボードにそう書く。

この2人には手話での会話は難しいので一夏はホワイドボードでの会話をしている。

そして、最近は口の動きである程度、何を言っているのかが識別できるようになっていた。

 

「そうそう。もう直、受験だろ? その進行状況をな」

 

弾はホワイトボードにそう書く。

 

『まあ、そこそこだな』

 

「そっか。それとこれな」

 

そう言って、弾はバックからノートを数冊取り出す。

 

『ああ。いつも悪いな』

 

今日の授業ノートを受け取る。

そして、数十分程会話して、帰っていった。

 

 

 

 

更に数日後。今日は珍しい客が訪れた。

 

『元気していたかしら?』

 

今日は簪ではなく、姉の楯無が来たのだ。

 

『珍しいですね。あなたが来るとは』

 

『あたしにも責任がある以上、来るわよ』

 

楯無は相変わらず扇子で口元を隠し、その野獣の様な鋭い眼をこちらに向けてくる。

そして、楯無は一枚の書類を取り出す。

 

『これは……』

 

『契約書よ』

 

それは更識家の従者へとなる為の契約書類だった。

一夏の将来を考え、楯無が特例で作った書類だったのだ。楯無と簪には既に従者がおり、その者は長年に更識家に仕えてきた。そして、そこに一夏を入れる為に楯無が一夏に提案して来たのだ。

さらに言えば、もう一つある理由があった。

一夏の身体能力と潜在能力だ。

一般人が、それも銃を扱える者を四人も撃退する程の実力を持っているのはあり得ないのだ。

楯無もそこには疑問が生まれ、一夏の経歴を調べつくした。

しかし、残念なことに一夏は裏の人間ではなかった。喧嘩事は時々あったが、黒と呼べるような事は一切なかったのだ。

だけど、楯無は諦めきれなかった。だから、自分の手元に置くことにした。

 

『進学も就職も辛いでしょうから』

 

『まあ、そうでしょね』

 

一夏もそれは分かっていた。

この身体では、この先は地獄であることは。

そして、楯無の考えていることも。

 

『もちろん、あなたの当初の予定も保証するわ』

 

そう。一夏は最初から高校行って、就職するつもりだったのだ。

何故なら、一夏には両親はいない。

一夏が小学校に上がる前に両親は消えたのだ。

そんな環境で一夏は姉のおかげで今を生きて来た。

その恩を返す為に早く就職したかったのだ。

 

『判断はあなたに任せるわ。いい返事を期待しているね』

 

そう言って、楯無は退室して行ってしまった。

 

「(従者か……)」

 

一夏は空を眺める。

そこには雲一つない青空が広がっていた。


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