そこは奇妙な部屋であった。
部屋の至る所には機械の備品がちりばめられ、ケーブルがさながら樹海のように広がっている。
そんな中で生活している人物はこの世の中を探しても、一人しかいない。
そう、ここは―――篠ノ之束、その秘密ラボである。
「! この着信音は……」
篠ノ之束、その姿はこれまた異色そのものであった。
空の様に真っ青なブルーのワンピース。一言で言えば『不思議の国のアリス』の主人公であるアリスそのものなのだから。それに加えて頭のカチューシャにも問題があった。なにせ、それが白兎の耳なのだからである。そう、言うならば一人『不思議の国のアリス』状態であるのだ。
「やあやあやあ! 久しぶりだねぇ! ずっとず―――っと、待ってたよ!!」
突然の携帯電話の着信。その着信音が鳴るのは、今までになく。束はその相手が誰なのかは、出る前から分かっていた。
「欲しいんだよね? 君だけのオンリーワンが……
◇
「海だぁ!!」
七月初旬……一夏たち、IS学園の一年生は臨海学校に来ている。
各国から送られたISと装備。それを二泊三日で稼働試験するのだ。
一日目の今日は自由行動! とはいかなかった。
「今日ぐらい、休んでもいいんだよ……?」
一年四組、クラス代表である更識簪の警護を一夏とマドカがやっていた。
服装は勿論、お互いに水着である。しかし、その腰に刺突剣と日本刀型の待機状態のISを付けている。
『一応、俺たちはお前の護衛だ』
「安全な所だと分かっていても、仕事するのが私たちであります」
そう言って、マドカは日本刀の柄を撫でる。
マドカが持っているISは一夏が以前にタッグトーナメント時に使ったIS《夜刀ノ神》であった。
修理とマドカに合わせての調整が終わり、正式にマドカのISとして配備されたのだ。
「むっ……」
簪は一夏とマドカの言葉に納得がいかなかった。
一夏とマドカの言うことは、確かに正しい。
契約上、護衛として契約されている以上、常にその場にいることが義務付けられている。
IS学園の中であったのなら、マドカ一人でもよかったのだが、今いる所はIS学園から離れ、外であるのだ。
名家のお嬢様をフラフラさせる先輩は……そういう事で、一夏とマドカは常に簪の元を離れず、ISをいつでも展開できるようにしていた。
「織斑マドカさん!」
そんな中にセシリアが割り込んでくる。
「あの時の屈辱を今ここで晴らせてもらいますわ!!」
「あっそう」
セシリアのビジッ、と伸ばされた指にマドカは全く興味がなく、平然と返す。
「っ!! 決闘ですわ!!」
タコのように赤くなったセシリアが出した言葉はこれだった。
「でたわ! セシリアさんの決闘宣言!!」
あの日からセシリアはマドカに決闘宣言をし続けている。
それが、何時しか定着し、この有様だ。
「はぁ……」
マドカは大きな溜め息を吐き、うんざりしていた。
セシリアとの戦歴は全部勝っている。いつになったら、諦めてくれるものか……。
「お嬢様。少々失礼します」
「うん。いってらっしゃい」
そう言って、マドカはめんどくさそうにセシリアの所に行く。
「―――浸食せよ、凶兆の化身たる鏖殺の蛇竜。まつろわぬ神の威を振るえ、《夜刀ノ神》」
お互いにISを展開して、海上へと飛ぶ。
被害が及ばない領域へと着くと、戦いが始まった。
その光景をその場にいた者たちが眺める。
「また、あのバカがやっているのか」
「織斑先生……」
セシリアとマドカの戦いが始まると同時に千冬が到着したのだ。
もちろん、水着を着用してだ。
「しかし、凄いですよね」
「何がですか?」
「マドカさんの操縦技術もそうですが、更識さんの作った《機竜》シリーズですよ」
二機目のISを制作したことにより、簪の作ったISにシリーズ名を付けることになった。
そして、付けられた名が《機竜》と言う訳だ。
もちろん、制作処は一切伏せてある。
「スッペクは第三世代を越えて、第四世代とも言われている品物ですし……」
「まぁ、織斑共の身体能力がずば抜けているのも要因だろう」
「えぇ、確かにそれもありますが、やはり……単一仕様能力が凄いと私は思います」
一夏の空間移動である《
マドカの対象の一時的なコントロール強奪《
どれも今までにない凶悪な単一仕様能力であった。
「まぁいい。織斑、くれぐれも
『自重する』
そう言って、千冬は墜落したセシリアの所に歩いていった。
織斑先生と山田先生との会話をしている間にセシリアとマドカの試合は終わっており、セシリアはまたしても負けたのだ。
ちなみにマドカの強さは、打鉄(箒)にブルー・ティアーズ(セシリア)、甲龍(鈴)、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ(シャルロット)、シュヴァルツェア・レーゲン(ラウラ)の四機を相手に圧勝している。
現状、一夏の次に強いと言われていた。
「邪魔者を排除してまいりました」
「う、うん」
最強の護衛を連れた更識簪。彼女に対する害をなせる者は……この世にいるであろうか。
その場にいた一同が思ったことであった。