「今降ろすから、大人しくしていろ」
「う、うん……」
一夏は簪の手元に繋がっている鎖の先を辿り、装置の場所を特定する。
そして、そこにある装置のコントローラーを操作し、簪を下ろした。
「一人で行動するのを控えろ。また、狙われたら俺でも勘弁してほしい」
「う、うん。ごめんなさい」
一夏は拘束具を外し、簪を立ち上がらせる。
しかし、一夏は一つミスを犯していた。
「糞ガキがァ!!」
三番目に倒した男が完全に延びていなかったのだ。
それに気づいた時には遅く、男は銃でこちらを狙っていた。
「(冗談じゃあねえぞ……。また、悪い癖をやってしまったな。まあ、最後くらいは……)」
一夏は簪を突き飛ばす。
「きゃあ!?」
パアンンン……
銃声が鳴った。
そして、それと同時に一夏は倒れた。
「は、はは、ははは」
「い、一夏くん……」
倒れた一夏の元に簪は寄る。
しかし、一夏の頭部から血が流れ、一向に止まらない。
「やだ。やだよ……! どうしてあたしなんか……かばって……」
簪は動かない一夏を揺する。だけど、反応はない。
「起きてよ。起きて。起きてってば!! どうして、どうしていつもそうなの!?」
「この糞ガキのせいで計画は滅茶苦茶だ」
男はよろけながら、簪の元に近づき、持っていた銃を突き付ける。
「おめえはもう用済みだ。死ね」
「お願いだから……目を開けてよ……! 一夏くん!!」
引き金を引こうとした瞬間。
「うぐぅ!?」
「え?」
一夏は立ち上がり、引き金の間に指を入れ、男の顎を鷲掴みにする。
「なぁ!? なぁぜぇ、いぃきぃてぇいぃるぅ!?」
「一夏……くん」
一夏は答えない。
そして、中学生とは思えない程の力で男を床に叩き付けた。
「い、一夏……くん」
頭部から叩き付けられた男は完全に絶命し、一夏は糸が切れた人形のようにその場に倒れた。
「い、一夏くん!!」
簪は再び一夏の元に寄り、揺する。
その後、更識の者が来たのは数分のことだった。
◇
「あの子の様子は?」
簪が一夏の持っていた携帯で姉に連絡を取ったことによおり、すぐさま病院に運び込まれた。
緊急集中治療室に運び込まれ、数時間後。
「まあ、手術自体は無事に終わったよ」
「そう」
担当医から事情を聴いていたのは楯無だった。
簪は未だに眠りについている一夏の元にいる。
「だけど、言語能力がやられていてね」
「言語能力?」
「ああ。まあ、簡単に言えば、声と音を認識する機能がダメになってしまったと言うことだよ」
「それって……」
一夏は二度と話すことも聞くことも出来ない身体になってしまったと言うことだった。
中学生でそのハンデを受けてしまったとなると、相当この後苦労することだ。
一通り聞いた楯無はそっと退室し、一夏が眠る病室に入る。
「…………」
病室は個室で、一夏以外には誰もいない。
そのベットの横で寄りかかるように寝る簪が一人いるぐらいだった。
「っ……」
全て自分のせいだった。
当主なのに妹ひとり守れなかったのだ。
そして、同時に一般人を意識不明の重体へと追いやってしまった。
「何が、楯無よ……」
楯無は悔やむが、今そんなことをしても何も変わらない。
悔しさを噛み殺し、楯無は病室を後にした。