インフィニット・ストラトス ~未定~   作:ぬっく~

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第37話

『はい、あーん』

 

IS学園特別医療室。そこで一夏は件のホテル消失&テロ事件で瀕死状態になった楯無の世話を焼いていた。

 

「も、もう、自分で食べられるわよ」

 

そう言って唇を尖らせる楯無だったが、その頬はうっすらと赤い。

 

『あーん』

 

「あ、あーん」

 

一夏はといえば、普段のお返しとばかりにイニシアチブを取っていることに、自然と頬が緩んでしまう。

 

「次のニュースです。先日、消失した……」

 

備え付けのテレビからは、楯無がここに来ることになった事件が流れていた。

ホテル消失事件は隠すことは出来ず、今もその話題で世間は持ちっきりである。

死体などの物騒な物は一夏が《星光爆破》で跡形も無く消したおかげで、事件は死者ゼロとなっていた。

事件の後、一夏はIS学園に一直線に飛び、楯無はすぐさま特別医療室へと運ばれることになったのだ。

 

「一夏くん……」

 

『……知らん。なんのことだ』

 

一夏は依然とホテル消失のことは何も話さない。

多くの隊員を失ったが、代わりに大きな成果を得ることが出来た。

しかし、楯無は素直に喜べない。

 

『それより、あいつはどうする?』

 

「それのこと、なんだけどねぇ……」

 

その子とは、ホテル消失の際に連れ出した、亡国機業の黄昏種……Mのことだ。

彼女には大きなケガはなく、一夏は彼女が持っていたISを回収した後、IS学園にある特別区画に置いてきた。

特別区画は、違反者などを入れる区画で、いわゆる反省部屋のような物だ。

IS学園とあって設備は充実しており、普通に生活ができる場所でもある。

 

「普通なら尋問とかで、吐かせるのが常識なんだけどね……」

 

『あの顔だとな……』

 

楯無の言う通り、普通なら情報を吐かせるために人道的な行為を無視してでも手に入れたい。しかし、そこで大きな問題があったのだ。

Mがある人物のクローンであることに一夏が気付き、楯無も困っていた。

そのクローンの元である人物が、一夏の姉……織斑千冬であったことが、一番の問題であったのだ。

 

「何処かのバ……お国が作ったせいで、こっちもいい迷惑よ」

 

『…………』

 

処遇を決めるにも決められず、一週間も経ってしまい、さすがにそろそろ決めなければいけないと楯無は考えていた。

 

『なら、この件は俺にやらせてもらっても、構わないか?』

 

「え?」

 

楯無は一夏の意外な言葉に驚く。

普段なら放り投げる一夏が珍しく自分から請け負うことに、楯無は驚いたのだ。

 

「め、珍しいわね。あなたから言うなんて」

 

『これは、俺たちの問題でもある気がしたからだ』

 

そう言って、一夏は首に掲げられているタグに触れる。

楯無はそんな一夏を見つめるのだった。

 

「じゃあ、任せるわ」

 

その言葉を聞いて一夏は頷き、Mのいる特別区画に向かった。

 

 

 

 

「皆……いなくなちゃった……」

 

Mはあの日からずっとベットの上でそう呟くのであった。

 

「どうして……どうして……どうしてなの……」

 

唯一のMにとって心の拠り所であったあの場所はもうない。

 

「あいつが……奪った」

 

Mの中に一人の人物が浮かび上がる。

 

「織斑……一夏。お前が……皆を……殺した」

 

Mの中に怒り、憎しみが生まれる。

 

「許さない、許さない、許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さないぃ!!」

 

Mの中には一夏を殺ることしかなかった。

 

『そんなに俺が憎いか? M』

 

「!?」

 

いきなりの侵入者にMはぎょっとする。

 

「お、織斑一夏ぁ!!」

 

Mはベットにあったシーツを一夏に目掛けて投げ、死角を作る。

そして、部屋にあったペンを一夏の顔の位置に目掛けて思いっ切り振り下ろす。

しかし、それは届かずMの手首を掴まれ、いとも簡単にひれ伏せられてしまった。

 

「離せぇ! クッ……」

 

『全く、世話を焼かせやがって……』

 

「ッ……」

 

普通の人間であったなら、Mでもこの状況を覆せてただろう。

しかし、お互いに黄昏種のため、そうはならなかった。

 

「お前のせいで……」

 

『……そうか。なら』

 

そう言って、一夏は拘束を解く。

その行動にMは動揺する。

殺そうとした相手を前に一夏は拘束を解いたのだ。そんなのは殺して下さいといっているようなもので、Mは一夏の行動がようく分からなかった。

 

『来い』

 

「…………」

 

一夏はその一言を言って、部屋を出る。

Mは無言のまま、一夏の後を追う。

そして、連れてかれた先は……アリーナだった。

 

『ほらよ』

 

一夏はMに何かを投げ渡す。

それを受け取ると、改めて驚く。

一夏がMに投げ渡したのは待機状態の《サイレント・ゼフィルス》だったのだ。

 

『そんなに俺が憎いんだろう? なら、戦ってやる』

 

そう言って一夏は、待機状態の《リンドヴルム》を起こす。

Mはそれを見て笑い、《サイレント・ゼフィルス》を纏う。

 

「織斑一夏ぁ!!」

 

『来いよ』

 

試合の合図などない。ISを纏った時点でそれは試合の合図でしかなかった。

Mが《サイレント・ゼフィルス》を纏うと同時に瞬時加速で一夏との距離を詰める。


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