インフィニット・ストラトス ~未定~   作:ぬっく~

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第30話

一夏の《最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)》をまともに受け、ラウラは既に立ち上がる気力が湧かない。

操縦者を守るためにシールドエネルギーが防御に回り、膨大なエネルギーを消費し、もう戦うことはできない。完全なラウラの敗北が決まった瞬間だった。

 

「こんな……こんな所で負けるのか?」

 

確かにラウラは相手の力量を見誤った。それは間違えようのないミスだ。しかし、それでも―――

 

「(嫌だ……負けれない……私……私は……)」

 

―――だが次の瞬間、異変が起きた。

 

 

 

 

「今日からお前はラウラ・ボーデヴィッヒだ」

 

人工合成された遺伝子から作られ、戦いの為だけに鍛えられた存在……私は優秀だった……世界最強の兵器、ISが現れるまでは……。

ISとの適合性向上の為……私は肉眼にナノマシンの移植手術が施された。『越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)』と呼ばれるそれは、脳への視覚伝達、動体反射能力を爆発的に向上させる筈だった。

しかし、私の身体は適応しきれず……最強だったはずの私は、いつしか出来損ないの烙印を押されていた……。

そんな時だった。彼女と出会ったのは。

彼女の名は織斑千冬。世界最強のISの使い手……。

教官は極めて優秀な指導者だった。教官の教えを忠実に取り入れる事で、私はたった一月で最強の座に返り咲いた。

教官の強さ、凛々しさ……そして、自らを信じる姿。その全てに憧れた……私もああなりたいと……。

 

「教官……どうしてそこまで強いのですか? どうすれば、強くなれますか……?」

 

ラウラはある日訊いてみた。

 

「……そうだな」

 

「(……えっ……)」

 

その時―――ああ、その時だ。あの人が、鬼のような厳しさを持つ教官が、わずかに優しい笑みを浮かべた。

ラウラは、その表情になぜかだか心がちくりとしたのを覚える。

 

「私には弟がいてな……あいつを見ているとわかる時がある。強さとはどういうものなのか……その先に何があるのか……」

 

優しい笑み、どこか気恥ずかしそうな表情―――

 

「いつか日本に来る事があれば……」

 

違う。

私が憧れるあなたは、強くて、凛々しくて、堂々としていて……それがあなたなのに。

許せない。あなたにそんな顔をさせる男が……!

 

 

 

 

「(織斑一夏……教官の弟。教官の栄光に泥を塗った男……あいつを敗北させると決めたのだ。完膚無きまでに叩き伏せると!! 欲しい……今より強い力……比類無き最強の力が!!)」

 

その時、ラウラの奥底で何かがうごめく。

 

「うあああっ!!」

 

突然、ラウラが身を引き裂かんばかりの絶叫を発する。

 

「な……なに!?」

 

一夏と簪は目を疑った。その視線の先では、ラウラが……シュヴァルツェア・レーゲンが変形していた。

 

『ISに……取り込まれているだと……』

 

「そんな……変形するISなんて、聞いた事も無いよ!」

 

『非常事態発令! 全試合を中止! 鎮圧の為、教師部隊を送り込む! 来賓、生徒は速やかに避難すること』

 

『どうやら、ヤバい状況みたいだな』

 

「う、うん。一夏は?」

 

『このまま、避難するのがベストだろうが……』

 

そう。このまま簪を連れて避難しても良かった。しかし、一夏は変形したラウラのシュヴァルツェア・レーゲンを見て、それは出来ないと判断した。

 

「(最後まで面倒事を持ち出しやがって……)

 

変形したシュヴァルツェア・レーゲンの姿は元の姿とはかけ離れ、あるISへと変わり、それは―――千冬が使っていたIS《暮桜》その物だ。だから、これは一夏がやらなければいけないと思ったのだ。

 

『俺が終わらせる』

 

そう言って、一夏は《リンドヴルム》を解除する。

 

「一夏!? 何故、ISを解除する!」

 

『《リンドヴルム》の武装ではラウラを殺してしまうからな』

 

意識を取り戻した箒が目にしたのは、試合が終了した後であり、今一状況が理解できていなかった。

そして、明らかにISを解除するべきではない状況で一夏はISを解除し、思わず声をあげてしまう。

箒は一夏がISを解除することが意味の分からなかったが、一夏の言う通り、《リンドヴルム》の武装では殺傷能力が強すぎたのだ。

 

『だから……コイツを使う。簪、サポート頼む』

 

「うん。でも、無理だけはしないで! それ、まだ調整が終えていないから」

 

『ああ』

 

一夏が《リンドヴルム》から取り出したのは、一本の日本刀だった。

 

『―――浸食せよ、凶兆の化身たる鏖殺の邪竜。まつろわぬ神の威を振るえ』

 

展開されたISは―――刃のような鋭い形状の装甲と、腰回りを覆う奇妙な(リング)―――そして、両足から後方へ伸びた、二つの補助脚のISだった。

 

『《夜刀ノ神(ヤトノカミ)》』


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