インフィニット・ストラトス ~未定~   作:ぬっく~

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第29話

六月も終わりに入り、IS学園は学年別トーナメント一色にと変わる。その荒ただしさは予想よりも遥かに凄く、今こうして第一試合が始まる直前まで、全生徒が雑務や会場の整理、来賓の誘導を行っている。

 

「ひゃーすごい人出だよ!」

 

「学園外の人も沢山きてるね……」

 

更衣室のモニターから観客席の様子を見る。そこには各国の政府関係者、研究所員、企業エージェント、その他諸々の顔ぶれが一堂に会していた。

 

「そりゃあ企業にとっても大事なイベントだからね」

 

「黛先輩」

 

「有能な三年を見極めてスカウトしたり、援助している生徒の成長を確認する為に、色んな国・企業の人間が集まるのよ」

 

「へ~……」

 

「うう……なんか緊張してきた……」

 

「そういえば先輩はどうしてこんな所に?」

 

「それは勿論! 今話題のドイツの候補生の試合前インタビューをする為よ! まぁ、速攻で一蹴されたんだけどね……」

 

「……はぁ……」

 

「先輩はどなたとペアを組んだんですか?」

 

「私? 私はねぇ……」

 

「(私は焦ってばかりいる。一夏とのこと……候補生でも無い自分のこと……)」

 

箒は静かにまぶたを閉じながら、その心中は穏やかではなかった。

 

「(こんな有様で……今度こそ強さを見誤らず、勝つことは出来るだろうか……)」

 

ペア参加へと、箒はどうやって一夏を誘うかを考えていたらいつの間にか夜になっていた。

せめて日付が変わる前にと部屋を訪れると、待っていたのは知らない女が出て来たのだ。

その後、一夏の客だと分かると、彼女は奥に行ってしまい、その後に一夏が出て来る。

箒に返って来たのは「もうペアは組んでしまったぞ」という返事だった。

 

「あっ、対戦表発表されるみたいだよ!」

 

それからは、締め切り当日になってしまい、ペア抽選になってしまった。

 

「(パートナーがいない生徒は、当日に抽選で組決めされる。良いパートナーに恵まれるといいのだが……)」

 

このペア抽選の当たりは、シャルル・デュノアだ。

シャルルのペア決めで戦争が起こるってことで、生徒会長権限により、抽選で決めることになったのだ。

なので、例年よりもペア登録しなかった生徒が多数出てしまった。

 

「なっ……!?」

 

出て来た文字を見て、箒は声をあげた。

一回戦の対戦相手は一夏、簪のペアだったのだ。

 

()()はいい」

 

異様な気配を感じ取った箒は後ろを振り向く。

 

「手間が省けた」

 

「……ラウラ・ボーデヴィッヒ…」

 

 

 

 

「一戦目で当たるとは待つ手間が省けたな」

 

「(この抽選……楯無が仕組んだな。まあいいか、久しぶりに本気を出したかったしな)」

 

試合開始の鐘が鳴る。

 

「叩きのめす!!」

 

ラウラが試合開始と同時に瞬時加速を行う。

一夏もそれに答えるように瞬時加速を行ない、槍を握った右手の半身ごと突き放つ一撃を、繰り出した。

 

「ふん……」

 

ラウラはそれをさらりと避けるが、

 

バシィイッ……!

 

瞬間。雷鳴が轟き、突撃槍から雷が放たれる。

 

「ぐっ!?」

 

障壁と装甲の上から電撃を受けたラウラは、機能低下したシュヴァルツェア・レーゲンが態勢を崩し、地面に落ちる。

 

「範囲展開が、可能なのかそれは……っ!!」

 

ラウラは一夏のISを隈なく調べあげたが、全くと言っていいほど、情報がなかったのだ。

それもその筈、一夏は《リンドヴルム》の武装の三割ほどしか開示していないのだ。だから、いつも同じ手しか使わない。対策されようと、無理矢理押しつぶし突破すると言う無茶をしている。

そして、今回はラウラに初めて使う、《雷光穿槍》の雷撃を周りにばら撒いたのだ。

 

「くそ、くそぉおお!!」

 

一夏の電撃を受けたISは機能が低下する。

完全復活には十数秒かかる。一夏はそんな時間など与えない。

 

「私を忘れて貰っては困る」

 

箒が割り込むが、一夏は気にせず《雷光穿槍》を振るう。

ラウラが復活するまで時間稼ぎをするつもりだろうが、そこの連携は問題ない。

 

『簪』

 

「《竜咬縛鎖(パイル・アンカー)》」

 

瞬時に右腕に追加武装を展開し、右腕を突き出す。その腕から鈍色のワイヤーを射出する。

 

ドゥンッ!

 

弾丸のような豪速で撃ち出された金属の杭が、大蛇の顎の如く縦に開き、箒の《打鉄》を強襲した。

 

「くっ!?」

 

箒が持っていた《打鉄》の標準装備であるブレードを奪われ、一夏の《雷光穿槍》をまともに受けてしまった。

 

バシィイィッ……!!

 

「がぁ!?」

 

絶対防御で守られていると言えど、完全に防ぐことは出来ない。

一夏の電撃を受けた箒は、意識を飛ぶ寸前に打鉄のシールドエネルギーがなくなり、沈黙した。試合は続行不可能と判定され、《打鉄》が膝をつく。

 

「時間稼ぎぐらいには役に立ったか……。これで、もう貴様の電撃を当たることは少なくった」

 

『その考え方は、甘いぞ』

 

簪の《打鉄弐式》の肩部ウイング・スラスター、そこに取り付けられた六枚の板がスライドして開く。

その中から、八連装ミサイルが六筒所・計四十八発、一斉に顔を出したのだった。

 

「お、おい! 待ってぇ!!」

 

「《山嵐》」

 

ドドドドドドッ!

 

凄まじい音を立てて、ミサイルが一斉に発射される。

ラウラへ向けて、ミサイルが一斉に襲いかかった。

 

「くそ、くそ、くそぉおおおッ!! 何て出鱈目な数をぉ!!」

 

スラスター制御による後退回避を行うが、ミサイルはラウラを地の果てまで追いかける勢いで飛んで来る。

 

「(AICが展開できない! このままでは……)」

 

ラウラのIS《シュヴァルツェア・レーゲン》には、ドイツが開発した《AIC》がある。

正式名称はアクティブ・イナーシャル・キャンセラー。ざっくりと言えば、慣性停止能力。対象を任意に停止させることができる能力なのだ。一対一では最強を誇るシステムなのだが、今のように複数の物を止められないという、弱点を備えていた。そこを一夏に狙われたのだ。

 

「うおぉおお!!」

 

状況を打破しようとAICを可能な限り展開する。

ラウラを中心に大爆発を起こし、砂煙が晴れると、ミサイルによる爆発の嵐に呑み込まれて砕かれた《シュヴァルツェア・レーゲン》が姿を現す。

 

「今度は……」

 

『おめぇのターンなんてねぇよ』

 

「!?」

 

ラウラが一夏の姿を目にした時、そこにあったのは絶望しかなかった。

 

『《最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)》』

 

暴風が《雷光穿槍》からラウラ目掛けて放たれる。

ラウラはその場から一歩も動く事無く、《最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)》に呑み込まれた。


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