場所は保健室。時間は第三アリーナでの一件から一時間が経過していた。ベッドの上では打撲の治療を受けて包帯の巻かれた鈴とセシリアがいた。
「別に助けてくれなくて良かったのに」
「あのまま続けていれば勝っていましたわ」
『お前らなあ……強制解除まで追い詰められておいて……』
感謝すると思えばこれである。
あれだけボコボコにやられたのに、全く反省していないのである。
「……勝手に調べたことは、先に、謝る。二人の、IS、ダメージレベル、Cを、超えている」
そんな事を思いながら、一夏の横にいた簪が二人のISのダメージレベルを調べており、その報告をする。
一夏も二人のダメージレベルが相当高いことは分かっていたので、何も言わない。
そして、その報告で鈴とセシリアは簪の存在に初めて気づいたのだ。
「って! 何で四組のクラス代表がいるのよ!!」
この保健室にいる接点がない四組のクラス代表がいることに、鈴が大声を上げる。
簪は鈴の問に答えた。
「私は、一夏の、主」
「主? 一夏、どう言うことよ!」
そう言って鈴が一夏の方に向き、一夏も言っていないことを思い出す。
『そういや、話していなかったな。簪とは従者契約を結んでいるんだよ』
「はあ? なんでアンタがそんな物を結んでいるのよ」
『色々と事情があるんだよ。……話すつもりはないからな』
「なんでよ!!」
「(あの事件には箝口令が引かれている以上、これは墓まで持って行くつもりだからな。)」
鈴がその理由を探ろうとするが、一夏は決して答えるつもりはなかった。
「一夏たちここにいたんだ」
『シャルルか……』
そんな中にシャルルが保健室に入ってきた。
「先生からね、落ち着いたら帰っていいって言ってたから、しばらく休んでいいって」
『そうか。とりあえず、お前らは休め。そんで、アレの参加は欠席しろ』
「「うぐ……」」
アレとは学年別トーナメントのことである。鈴とセシリアのISはダメージレベルがCを越え、修理しなくてはならない。その為、今回は辞退しなければならないのだ。
「わかったわよ……」
「不本意ですが、辞退しますわ……」
鈴とセシリアも分かってくれたことにより、一夏の悩みの種が一つ消える。
そして、もう一つの方はと言うと……
ドドドドドドッ……!
「織斑くんっ!!」
どうやら、予想より早かったようだ。
「私とペアを組んでくださいっ!!」
コレである。
学年別トーナメントは二人一組の試合であり、必ず組まなければならないのだ。そして、今年は男性操縦者である一夏がいることにより、ペアを組もうとする生徒が多発するだろうと、一夏は予想していたのだ。
『ペア?』
「トーナメントは原則、二人一組の参加なの! だから」
もちろん、一夏は既に組む相手は決めていた。
『悪い。俺は簪と組むから諦めてくれ』
「一夏くん……」
簪は微かに一夏の名前を言う。
だが、他の生徒たちは納得しなかった。
「えー。なんでよ!!」
「そうだよ!!」
確かに納得しないのは当たり前だった。
全く無関係に思われる二人がペアを組むと言うのだ。
納得するとは、一夏も思っていない。
「……ここで潰す?」
そんな中で、僅かな殺気を感知した一夏は、
ガンッ!!
『これは、決定事項だ。文句があるなら、俺が相手になるぞ?』
《リンドヴルム》のブレードを展開し、黙らせた。
「うっ……」
流石のこれには生徒たちも、引き下がざるをえなかった。
生徒たちが保険室から引き下がると一夏は、
『簪、暫くは俺の傍にいろ』
「う、うん……」
傍にいるようにと伝えておく。
「セシリア……気付いた?」
「ええ……あの気迫。本気でしたわね」
そんな二人を見ていた鈴とセシリアが、一夏の殺気をまじかに感じ取り、一つの答えにたどり着く。
「この試合、大きな嵐が来る」
「わたくしも同じことを思いましたわ」
お互いに災厄を訪れる未来を予想する。