簪とのお出かけを途中で中断されて、日が暮れかかった時だった。
「さて、と。始めましょうか」
そう言った楯無も、隣に立つ一夏も、IS学園の制服だった。
場所はIS学園から近い臨海公園。なにかと曰く付きの場所である。
「先程、亡国機業らしき工作員の所在を突き止めることに成功したと、本家から連絡を受け取ったわ。よってこれから私たちは彼らのいると思われる場所に突入する。私と一夏くんは本艦に突入。他は警戒線を張って頂戴」
「了解しました」
一夏の他に集められた更識家の者が楯無の命を聞き、解散する。
「さて、私たちも行きましょうか」
一夏は楯無の口読みし、頷く。
それを確認した楯無は臨海公園の柵をひょいっと乗り越えて、海に着水する。
一夏もそれに続いて降りた。
◇
「さて、と。ここまではいいわね」
一夏と楯無はびしょ濡れの髪をかき上げながら、何でもない様子で楯無が言う。
「それにしても、妙ね」
一夏と楯無は少し疑問を感じた。
ここまで、来るのに誰人と会っていないのだ。
「(運が良かったのかしら? いや、でも……)」
罠だったのか。
そして、それはどうやら後者だった。
「出て来たらどうだ? 更識楯無」
「っ!?」
声からして女だろう。気配を消していた楯無がいとも簡単に見つかったことから、この女は相当できる奴だと確信した。
そして、楯無は何かに掴まれたような感覚に落ちる。
楯無は仕方ないと出ようとした瞬間、
『外れだよ』
機械的なボイスを放ちながら、一夏が女の背後から刺突剣を引き抜いていた。
「はっ! バレバレの攻撃だよ」
女の背後から伸びたアームのような物に阻まれ、一夏は一気に距離を離す。
「なんだよ。楯無かと思ったんだが、犬の方かよ」
女はガッカリしたように手を腰に当て、めんどくさそうに頭を下げる。
だが、女は一夏のある物を見て、目を開く。
「おいおい。更識家って、あんなの物まで飼い馴らしていたと思わなかったな」
そう言って、女は首元からある物を取り出す。
それを見た一夏も目を大きく開く。
「
オータムが取り出したのは、二つのタグだった。
そして、その一つに、
『B2……』
B/2と刻まれていた。
そして、一夏もタグを相手に見せる。
「(……
だが、オータムは一夏のタグを見て、驚かされた。
一夏のタグに、A/0と刻まれていたからだ。
◇
「…………」
オータムは一夏のタグを見て、息を呑む。
「(A0級? こいつが!? 更識家め……とんでもねぇ物を飼い馴らしてやがるんだよ)」
このタグの意味を知る者なら、一夏は相当な化け物だ。
しかし、それの意味を知っているのは、オータムだけだった。
「(……はったり。そうだ、ハッタリに決まって―――)」
バシィイッ! という雷鳴と同時に一夏の背後が輝き、黄金のISが現れる。
オータムが驚きに目を瞬かせている隙に、更にその半身を装甲が覆った。
「っ!? ISだと!? 男がISって……まさか、お前!!」
『対暗部。更識家の守護者、《雷帝》。織斑一夏が参る』
そして、狭い船室で同時に瞬時加速に入ったIS二機がぶつかり合う。