インフィニット・ストラトス ~未定~   作:ぬっく~

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第11話

放課後。一夏はある所に向かっていた。

IS学園からかなり離れた所にある倉庫に入り、灯りを付ける。

カーテンに包まれたそれを一夏は引っ張ると、忠誠を誓う騎士のように跪いた『何か』があった。

 

『(予定より早く使うことになるとはな……)」

 

それは『IS』だった。

一夏は更識家の力を借りて、IS制作に手を出していたのだ。

機体は既に完成しており、最後にフォーマットとフィッティングを済ませるだけだった為、一夏は一人で作業を進める。

そして数分とかからず、それらは終わり、ISは待機状態になった。

待機状態になったISは剣の形状で、一夏は竹刀袋にそれを入れ、倉庫を後にする。

自宅に戻ると、その日を終えた。

 

 

 

 

その次の日。一夏は山田先生から寮の鍵を渡され、寮暮らしを言い渡されるが、自宅のこともあって数日後に行くことにした。

そして、ルームメイトは何故か、簪だったことは後で気付く。

そんな日々が過ぎ、当日になる。

 

 

 

 

翌週月曜日。クラス代表戦、当日。第三アリーナ。

 

『問題ない?』

 

『ああ。俺が不調でもなると思うか?』

 

簪は一夏の手話に首を横に振る。

一夏はそれを見て、腰に付けられた剣に触れる。

 

『なら、安心しろ』

 

一夏は簪の前髪を上げ、おでこにキスする。

その行動に簪は顔が赤くなる。

 

「織斑。時間だ」

 

『ああ。行ってくる』

 

そう言って、ピット・ゲートに進む。

しかし、一夏はISを展開しない。それに疑問を持つ山田先生。

 

『そのまま、ゲート開放してくだい。IS展開はあっちでやりますので』

 

何かを思い出したかのように一夏は山田先生に手話でそう伝える。

そして、ゲートが開くと一夏は歩きだす。

 

「あら、逃げずに来ましたのね」

 

セシリアがふふんと鼻を鳴らす。また腰に手を当てたポーズが様になっている。

しかし、一夏の関心はそんなところにない。

 

「わざわざ負けて惨めな姿を晒すためにご苦労なことですわ。今ここで謝るというなら、許してあげないこともなくてよ」

 

『そいつは……できねえな』

 

「あらそう。残念ですわね」

 

その言葉に一夏は腰の剣を引き抜く。

特徴的な刺突剣(レイピア)型の剣。

 

『この先はこいつらで語り合おうか』

 

この時、セシリアは知らなかった。

一夏が“学園最強”の称号を持つ楯無より強かったことに。

 

『降臨せよ。為政者(いせいしゃ)の血を継ぎし王族の竜。百雷を纏いて天を舞え』

 

高く掲げた剣の背後から現れたのは、鋭くも荘厳な形状(フォーム)と、、黄金の輝きを纏った大翼の巨竜だ。

 

『《リンドヴルム》』

 

オープン・チャンネルから聞こえる機械的な声と同時に、一夏の身体を瞬時に纏った装甲は、光輪のような両翼をその背に備え、天使の如き神々しさを備えていた。

 

「―――」

 

その美しさと底知れぬ迫力に、観客の生徒たちは、思わず歓声も忘れて見入ってしまう。

右手には、特大な突撃槍(ランス)、左肩には特殊な形状のキャノンが連結されていた。

 

「っ! そんな見せかけの物!! すぐに終わらせてあげますわ!!」

 

キュインッ! 耳をつんざくような独特な音。それと同時に走った閃光が一夏に向けて放たれる。

 

『《雷閃》』

 

しかし、その一撃は突撃槍(ランス)から放たれた電撃にかき消され、そのままセシリアを襲う。

 

「くっ……」

 

ブルーティアーズのオートガードがどうにかセシリアの身体を守る。直撃は避けたものの、シールドエネルギーが大幅に削られる。

 

「(なんて、出鱈目な威力ですの!? わたくしの一撃を相殺するどころか、かき消すなんて……)」

 

セシリアは予想外な一撃に困惑する。

 

『……いい一撃でした。十分、勝ちの目はありますよ』

 

穏やかな、しかし静かな威圧感を交えた声で、一夏が告げる。

 

『相手が俺でなければ、ですが』

 

その直後、《リンドヴルム》が爆発的な速度で滑翔する。《ブルー・ティアーズ》を纏ったセシリアの眼前へ瞬時に接近すると、槍を握った右手の半身ごと突き放つ一撃を、一夏は繰り出した。

 

「くっ……」

 

バシィイイッ……!

 

瞬間。雷鳴が(とどろ)き、突撃槍(ランス)の穂先から雷が放たれる。

 

「きゃああッ……!?」

 

障壁と装甲の上から穂先と電撃を受け、セシリアは後方へと弾かれた。

 

『では、肩慣らしは終わりにしよう』

 

一夏の恫喝(どうかつ)のような笑みとともに、《リンドヴルム》が光を帯びた。

 

 

 

 

「あれが《リンドヴルム》の特殊兵装……!!?」

 

「…………」

 

ピットでリアルモニターを見ていた山田真耶が一夏のISを見て呟く。

しかし、千冬は対照的に忌々しげな顔をする。

 

「更識。あれは一体何だ」

 

「一夏の専用機《リンドヴルム》です」

 

「そうではない。織斑に渡されたISは《白式》のはずだ」

 

「え?」

 

そのことに真耶は驚く。

一夏が今使っているISには《リンドヴルム》と表示され、千冬の言う《白式》ではないのだ。

 

「ガラクタと言って、コアのみ運用して新しく作ったと言っていた」

 

「な!?」

 

まさかの一から作ったとは千冬は思ってもおらず、そのことに驚く。

そして、そんなやりとりを気にもかけてない様子で、ずっとモニターを見つめているのは箒だった。

 

「お前はどうして……そんなに変わってしまったんだ」

 

箒がほんの僅かだけ唇を噛んだ時、試合が大きく動いた。

 

 

 

 

『《支配者の神域(ディバイン・ゲート)》』

 

直後、空中に(たたず)む《リンドヴルム》が激しく輝き、巨大な球状の光が広がった。

 

「(何も起こらない? 機体性能には異常は見当たりますせんし……ブラフ?)」

 

一夏を中心に展開された光の領域―――空中も含む第三アリーナ全体を満たした空間を見て、セシリアがぼやく。

だが、そんなセシリアを見て、一夏が冷ややかな笑みを見せ―――呟く。

 

『来ないなら、こっちから行くぞ?』

 

瞬間、七色の光輪に包まれ、一夏の姿が消える。

そして、様子を疑うセシリアの真横へと、一瞬で移動した。

 

「(瞬間移動!!!)」

 

息を呑んだ刹那、電撃を浴びた突撃槍(ランス)の一撃が、《ブルー・ティアーズ》の背翼目がけて繰り出される。

不可避のタイミングに、セシリアが思わず身体を硬直させ、一夏はセシリアの背翼を貫き、破壊した。

 

「なっ……」

 

『……背翼の推進装置を破壊した。お前の負けだ』

 

一夏の言い分はその通りだった。

背翼の推進装置を破壊されれば、もはや落下するしかない。

 

「いえ……まだ、わたくしは負けておりませんわ!!」

 

そう言ってセシリアは自分の周りに浮いている四つの自立機動兵器《ブルー・ティアーズ》が多角的な直線機動で接近してくる。

 

『無駄だ』

 

雷を帯びた大槍の特殊武装―――《雷光穿槍(ライトニングランス)》を巧みに振るって、あらゆる方向から襲いかかる《ブルー・ティアーズ》を、次々と弾く。

それでもなお、セシリアは攻撃を続けるが、一夏の槍に弾かれる度に機動力を失い、やがて全ての《ブルー・ティアーズ》が、落下した。

 

『まだ、やるか?』

 

一夏はセシリアの首元に突撃槍(ランス)を突き付ける。

それはセシリアの敗北が確定した瞬間だった。

 

「わたくしの……負けです……」

 

セシリアの主力武器である『スターライトmkⅢ』以上の出力を持つ《雷光穿槍(ライトニングランス)》。

切り札であった四つの自立機動兵器《ブルー・ティアーズ》すら全て落とし、推進装置も破壊され、完全に詰んだのだ。

セシリアの降参に決着を告げるブザーが鳴る。

 

『試合終了。勝者―――織斑一夏』

 

圧倒的な力量差を見せた一夏。

観客席からは誰の声もしない。全員が一夏の戦いに言葉を失っていた。

そんな中で簪は喜んでいた。


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