モンスターハンター 【紅い双剣】   作:海藤 北

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遅れてしまって申し訳ないです!
お詫びにいつもより少し長めです。


第五話 リンの過去

 リンは自室で調合書と睨めっこをしていた。

 

「うぐぐ、この通り調合すれば出来るはずなんだけど……!」

 

 リンの周りには既に調合を失敗したごみが散乱している。

 リンはトウガラシを磨り潰しながら考え事をしていた。

 

(ドスギアノスの狩りの時、カイトを危ない目にあわせちゃったなあ……。ウチのほうがハンターでは先輩なんだから、もっとしっかりとしないと!そのためにも調合ぐらいは上手くならなくちゃ!)

 

 そうしているうちに出来上がった赤い液体を小瓶に入れる。

 ドロリとしたその液体は、寒冷地での狩りでは必ず世話になる物だ。

 

「出来た! ホットドリンク完成!」

 

 リンは出来上がった赤い液体を早速飲んでみる。

 しかし、その効果は予想とは真逆のものだった。

 

「……うっ!? な、なんで? 逆に寒気がする……」

 

 またしても失敗かと思ったその瞬間、ポンと手を打った。

 

「……そっか、こういう失敗をするってことは、きっとクーラードリンクをつくれば逆に暖かくなるハズ!」

 

 そう言ってアイテムボックスから氷結晶を取り出すと、ゴリゴリと調合を始めた。クーラードリンクらしきものが出来上がると、それを一気に飲み干す。

「……うえ。ぬ、ぬるい……」

 

両手を突いてがくりとうなだれる。ある意味天才的な不器用さは、そう簡単には直りそうにない。

 

(や、やっぱり実践練習したほうがいいかも……。う、うん、そうだよ! 将来的に狩りで活きるのはそっちのほうだから!)

 

 そうと決めるとリンは早速武器を取り出して訓練所へと向かう。

 彼女が調合の腕を改善するのはまだ先の話になりそうだ。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「……暇だ」

 

 カイトは自室のベッドで寝転んでいた。

 ここ数日、これといった依頼もなく暇を持て余している。

 ベッドの横の本棚からおもむろに一冊を取り出す。月刊誌『狩に生きる』の先月号だ。

 

「月頭に発売って書いてあるのになあ」

 

 ポッケ村は僻地であるため、モノや情報の流通が遅い。特に雑誌等の品は、都市からの行商が来ない限り手に入らないのだ。

 先月号をパラパラとめくると、目に留まる記事があった。

 『フラヒヤ山脈一帯における生態系の異変。その原因は!?』という題目とともに、学者の見解やコメントが書かれていた。

 

(他人事じゃないよな……)

 

 記事によると近年フラヒヤ山脈の一帯において、モンスターの大量の目撃情報などの異変が起きているらしい。中でも凶暴なモンスターが奥地から出てきたという情報も多々あり、近辺の村では常に厳戒態勢がしかれている。

 

(って言ってるのに、この村はなあ……)

 

 実質まともなハンターと言えるのはガウ一人だけ。もしものことがあったときに対処できるような状況ではない。 

 

(だからこそ、俺も早く強くならないとな)

 

 カイトは体を起こすと、身支度をして部屋を出た。

 

 村を歩いていると村長が誰かと真剣な表情で話しているのが見えた。

 

(村長と、おっさんとブルックさんと……、あと誰だあれ?)

 

 見るとその集団の中に知らない男が一人いる。五十代ぐらいと思われるその顔には深い彫があるが、厳ついといったイメージはなく、むしろ優しそうな印象の方が強い。赤いベストと同色の羽付き帽子をかぶっているところを見ると──

 

(ギルドナイトか……)

 

 ギルドナイトに関してはきちんと知識があったらしく、瞬時に頭に浮かんだ。

 ギルドナイト──ハンター統括組織である『ハンターズギルド』の所属部隊で、表向きは、難度の高い狩猟依頼や、ギルド統括都市の警備、王立書士隊の警護などをしていることになっているが、裏では密猟者や違反を犯したハンターを罰している、即ち暗殺をしているというのがもっぱらの噂だ。

 ちらりと村長らの方を見るとどうやら話は終わったようで、各々解散しようとしている。ブルックがカイトを見つけて声を掛ける。

 

「お、そんなところで何やってんだ?」

「え、あ」

 

 声を掛けられたのでとりあえず四人の所まで下りていくことにした。

 

「君は……?」

「あ、どうも。えっと、名前は、カイトって言います。あ、一応この村でハンターをやっています」

 

 初対面の、しかもギルドナイトが相手となるとなかなか言葉が出てこない。

 

「ふむ、君のような若いハンターがいればこの先この村も大丈夫だろう」

「あ、ありがとうございます」

 

 カイトは褒められたような気がして少し照れくなった。

 

「私はジャン・マーカット。見ての通りギルドの者だ。フラヒヤ山脈周辺の村や町のギルド支部の経理を担当している」

「経理?ではさっきはそういった話を……?」

「まあ、そんなところだ」

 

 そこに教官のおっちゃんが会話に割ってはいった。

 

「それよりも貴様、少々汗臭くないか?体を洗って来たらどうだ」

「え!?臭いですかね?」

「ふむ、臭いぞ。とっとと温泉につかって来い」

「は、はあ、そうします」

 

 カイトはそう言うと急いでその場を立ち去り、村の上の方の共同浴場に向かう。

 

「そうやってすぐに追い返さんでもええのにの」

「奴が聞くにはまだ早過ぎる話だ」

「そうやって誰も彼も子ども扱いするのは良く無い癖だの。あの子の事もそうであろう……」

「ム、それは……」

「何やらいろいろあるようですな。まあそれでは私はこの辺で」

「ふむ、お疲れさん。詳しい話はまた今度やるかの」

「ええ、では……」

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 村の上の方にある階段を更に上がって行くと温泉の密集地帯に着く。

 

(ふう……、このあたりは暖かくていいな)

 

 温泉から立ち込める湯気で辺りは暖かく、カイトはコートを脱いでも寒いとは感じなかった。

 

「今日は一番広い露天風呂に行ってみるか」

 

 カイトは脱いだコートを片手に脱衣所に向かった。

 下着も全て脱いで脱衣所の暖簾をくぐると、大浴場とその先に見える雄大な景色が目に写った。 

 

「……こいつは、スゲェ……!」

 

 目の前に広がるのは、真っ白なフラヒヤ山脈の山々とそこへ沈もうとしている夕日。その紅と白から織り成される景色はまさに──絶景。

 

(この景色を見ながら温泉に入れんなんて、贅沢すぎるな……)

 

 カイトは早速湯船に足をつける。少し熱めの湯に一瞬足を引っ込めるが、次に一気に肩までつかる。

 

(ああ、すっげえ気持ちが良い)

 

 身体の芯まで冷えていたのだろうか。湯に使った身体がゾクゾクと震え、逆に身体の芯まで温まるのが感じられた。

 もっと景色を良く見ようと、カイトはお湯をこいで奥の方まで進んでいく。

 そして大きめの岩を通り過ぎたとき、そこにもたれかかっている人影を発見した。

 

「お、リンか……」

 

 そこにいたのは、一糸纏わぬ姿で岩にもたれているリンだった。

 しかしリンは、カイトに対して反応を見せず、目を瞑っている。

 

(ん……? もしかして、のぼせてるのか……? だとしたら早く湯船から上げないと)

 

 一瞬躊躇したものの放っておく訳にも行かないので、カイトは両腕でリンを抱き上げる。

 そしてなんともタイミングがよく、リンが目を覚ました。

 

「……ん? だ、誰……?」

「お、お前……ただ寝てただけかい!」

「え? あれ? ……ってカイト!?」

 

 リンが悲鳴を上げそうになったので、反射的に手で口を塞ぐ。

 しばらくリンはもがもがと抵抗していたが、カイトの必死の形相に一度抵抗を止め、「離して」と身振りをした。

 カイトから開放されたリンは肩まで湯船に浸かって、それからカイトの方を睨んだ。その形相は雪獅子の如くだったと後にカイトは語っている。

 

「……それじゃあ、ウチに何をしようとしていたのか説明してもらえるかな?」

「いや。リンがのぼせているかと思ってな……。勘違いだったみたいだ。すまん」

「……まあ、いいよ。許したげる」

 

平手の一つでも来ると思ったカイトは、リンのその返答に拍子抜けした。

 

「なにさ」

「い、いや。いつもなら頬にもみじ形のスタンプをもらっているところだと思ったんだが……。どうかしたのか」

「すっごく失礼だね」

「……すまん」

 

 これ以上喋るとせっかく回避したイベントを再発させてしまいそうなのでカイトは黙ることにした。

 

「ちょっと剣の練習をしてたから疲れてるだけ」

「ん?今朝は調合の練習をするって言ってなかったか?」

「む、それは……。……ナシになったの」

「ん……?」

 

 なにやらもごもごと言っているリンを不審に思ったが、カイトはそれ以上詮索しないことにした。

 

「いやしかし、いい景色だな」

「……そうだね。ここはウチもお気に入りなんだ」

「いつも風呂はここに来てるのか?」

「うん、大抵はここかな」

「俺もここが気に入ったよ」

「……それはウチと同じ湯に浸かりたいという意味?」

「違う! ただ気に入ったってだけだ! ……本当にいい場所だからな」

「……ふふ、そっか」

 そんな調子で二人は景色を楽しみながら温泉を堪能した。

 結局リンはのぼせてしまい、カイトは色々と苦労することになった。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

「約束の日だ!」

 

 カイトはベッドから跳ね起きると、瞬時に着替えて鍛冶屋へと向かって走っていった。

 

「すいません、アレ出来てますか!?」

「お、来たな。もちろんだ、今取ってくる」

 

 そういうと鍛冶屋の男は店の奥に入って行き、しばらくして双剣を手に戻ってきた。

 

「はいよ、注文の品だ」

「これが……」

 

 カイトが手渡されたのは、ドスランポスの素材を用いた双剣『ランポスクロウズ』。ギアノスクロウズ改からの強化品であるが、氷の属性が消えており双剣の利点を最大限には発揮できない。

 しかし、ギアノスクロウズ改は切れ味が低く、手数の多い双剣としてはこれもまた力を発揮することが出来なかった。

 それに比べてこのランポスクロウズは、切れ味がギアノスクロウズ改よりも高めで、属性を除いた武器自体の攻撃力も大きく上がっている。

 

「それにしてもラッキーだな兄ちゃん。まさかアルビノエキスを持って帰ってくるとはな」

「ぼくのお陰ニャ!」

 

 カイトの横でドンと胸を叩いたのは、最近のカイトのパートナーになった、茶ぶちアイルーのモンメ。

 アイルーとは、獣人種と呼ばれるモンスターの仲間で、外観は猫そのものであるが、二足歩行をしており、更に非常に知能が高く、人間のように社会を築いている。さらに人語を理解するため人間社会で暮らしているアイルーも少なくない。

 彼らはその外観からは想像出来ないほど手先が器用で、料理等の家事をもこなす──はずなのだが、モンメは想像を絶するほど手先が不器用であるということがこの数日の共同生活でわかった。そのため、それ以来は一緒に狩りに赴いて、サポートに徹してもらうことにしていたのだ。

 

(狩りの最中になんか拾っているとは思ったんだけれど、まさか『フルフル』の素材だなんてな)

 

 フルフルは、主に洞窟の中になどに生息する強力な『飛竜』の一種で──何だっただろうか。『狩りに生きる』に生態が書いてあったのだがほとんど忘れてしまった。

 

(でも素材があったってことは、あの山のどこかにフルフルがいるっていうことだよな……)

 

 以前遭遇したリオレイアの事を思い出して、思わず寒気がする。飛竜種の絶対的な力を前に一歩も動けなくなってしまった。

 もしかすると『あの時』見たあのモンスターも飛竜なのだろうか。

 

(そういえば、記憶が少し戻ったこと、まだ誰にも話してないな)

 

 何故あの時自分は雪山にいたのか、そういったことは、まだ全く思い出せないでいる。

 

(まあ、早めにみんなに話したほうがいいよな)

 

 ランポスクロウズを腰に下げると、村長が腰をすえている広場の方へ歩き出した。

 

「ふむ、どんなモンスターに襲われたのかの」

 

 取り敢えずカイトは村長に話してみようと思い、村長と焚き火を囲んでいた。

 

「ええと……本当に知らないモンスターだったんですよね……」

「姿形や色を、出来る範囲で教えてもらえるとわかるかもしれんの」

「う~ん、そうですね、なんと言うか大きなトカゲみたいだったな……。黄色っぽい体の……」

 

 それを聞いた瞬間、村長の顔が強張る。

 その額には汗が浮かんでいた。

 

「……それはこいつのことか?」

 

 気が付くと後ろにはブルックが立っていた。

 ブルックは手に持っていたモンスター絵の描かれた一枚の紙をカイトに差し出した。

 

「……これは……! そ、そうだ、こいつだ! 俺はこいつに襲われたんだ!」

 

 そこに描かれていたのは、雪山で自分を襲ったやつの姿だった。

 

「……村長。これは……」

「ふむ……まさかこやつが再び出てくるとはの……」

 

 カイトは二人の反応を見て顔をしかめる。

 危険なモンスターであるということは二人の反応からわかる。

 

「……村長、こいつはどんなモンスターなんですか」

「フム……。こやつの名はティガレックス──またの名を轟竜という。飛竜の始祖種と言われておるが詳細は不明での。寒さに弱く、普段は砂漠におるのだが、なぜか過去に一度、この近辺にこやつが現れたことがあるのじゃ」

 

 そしてブルックが衝撃の言葉を口にする。

 

「……そしてこいつに、バルドゥスの嫁さんと、リンの母さんは殺された」

「な……」

 

 カイトは一瞬何を言っているのか理解出来なかった。

 

(殺された? こいつに……?)

 

 バルドゥスとは、確か教官のおっちゃんの名前だ。

 カイトはふと、リンの時々見せる悲しげな顔を思い出した。

 そのとき、ふとカイトの頭にある疑問が浮かび上がった。

 

(ん? そういえば今の話おかしくないか?)

 

「バルドゥスの嫁さん『と』リンの母さんは、ってどういう事だ……?」

 

 バルドゥスがリンの父親なら、リンの母親とバルドゥスの妻は同一人物であるはずだ。

 

「──その話はウチ達から直接話すよ」

 

 カイトが振り向くとそこには、リンとガウが立っていた。

 リンの表情は、暗い。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 三人はは集会所のテーブルを囲って座っていた。一応朝食を注文はしたが、全く手をつけていない。

 ちなみに、モンメは集会所にいたアイルーと何か話している。

 

「…………」 

 

 重い空気の中リンが口を開く。

 

「……それじゃあ、一から説明するね」

 

 話すだけでも辛い事なのだろう。リンの顔にはいつもの眩しいほどの笑顔の面影も無い。

 

「ウチのお父さんとガウの両親とブルックのおじさんは、この村で生まれて一緒に育ったんだって。お母さんは、どこかから引っ越してきたみたいだけど……。多少の歳の差はあったもののみんな本当に仲が良かったみたいでね、ウチら位の年齢になるころには皆でハンターをやっていたんだって。前も話した通り、五人のパーティーなんてのは不吉だって言われたんだけれども、それでも皆仲良しだったから、五人で狩りを続けたんだってって言ってた」

 

(おっちゃんとブルックさんがよく一緒に話しているのは見かけていたけれども、狩りの仲間だったのか……)

 

「そうして、ウチの両親とガウの両親が結婚して、ウチらが生まれてしばらくした時のことなんだけどね。フラヒヤ山脈でのティガレックス目撃情報があったんらしいんだ。我が狩らんとドンドルマやミナガルデから赴いた手馴れのハンターですら次々にやられてしまうほど、すごい強力な固体だったらしいんだ。当時各地に散らばっていたウチの両親達も『自分達の故郷は自分達で守る』ってこの村に戻って来たんだって。それでまた五人で狩りに出て……そのまま──うぅっ……ひぐっ……ぐすっ」

 

 ついに耐えられなくなったのかリンは泣き始めてしまい、その横に座っていたガウは、優しくリンの頭を撫でてあげ、その先の言葉を継いだ。

 

「それで俺の母さんと、こいつの母さんはティガレックスにやられちまったんだ。ココット村の話と同じように、な……。それからうちのクソ親父がリンのことを面倒みることになってな、以前、兄妹『みたい』なもんだ、って言ったのはそういうことだ」

「…………」 

(大体は、今の話で納得できた。だが……──)

「……リンの親父さんの方は?」

「……その後、ティガレックスが雪山から姿を消したと思ったら、こいつの親父も突然いなくなっちまったんだ。……そんで三年前、この村に帰ってきたよ。死体でな」

「し、死体で……!?一体どういう……」

 

 リンの横でこのような話を進めていくのは非常に心苦しかったが、今ここで全てを聞いてしまいたかったため、カイトはそのまま話を続けた。

 

「正確な死因は解かっていない……。ハンターズギルドの人間が棺桶に入れてわざわざ運んできてくれたんだ」

「そんなことが……」

 

 テーブルの空気が重苦しく、カイト自分が作り出した空気にも関わらず耐えられなくなり、何か口にしようとしたその瞬間──

 

「こりゃ! 食事様を目の前にしてなんて話をしておる!」

 

 驚いて振り返ると、黄色いヘルメットをかぶった竜人族の老人が立っていた。

 

「……あ、トレジィさん……」

 リンの顔が少し明るくなる。

 

「あ、どうも、先生」

 

 リンの横でガウが頭を下げている。ガウにとってこの老人はどんな人なのだろうか。

 

「先生?」

「ああ。俺ボウガンの使い方を教えてくれた人だ。皆には親しみをこめてトレジィって呼ばれている」

「おっちゃんに習ったんじゃないのか?」

「……いや。クソ親父は大剣と片手剣とランスとハンマーと弓しか(・・)使えないからな。トレジィはこう見えても昔はかなりの腕利きのライトボウガン使いだったみたいでな。どうせなら、ってことで専門家に習うことにしたんだ」

(『しか』って、それだけ使えれば十分じゃないのか……。……そういえばガウって全部の武器を使えるって言ってたよな。冷静に考えると、かなり……いや凄過ぎないか?)

 

 横に立っている大男に、素直に感心する。

 こんなガタイをして、案外器用なのかもしれない。

 

「ふん、ワシの事などどうでもいいわ。それよりも、せっかくの料理を前に全く手を付けないとはどういうことじゃ!」

「ご、ごめんなさい……」

 

 リンがしゅんとなって謝る。それにあわせてカイトとガウも「すいません」と謝った。

「……あ、あのね、おじいちゃ……じゃなくてトレジィさん」

「ふむ、別に好きな呼び方でかまわんぞ」

 

 リンの顔がまたぱっと明るくなった。

 

「おじいちゃん、あのね! ウチね、シビレ罠の調合できるようになったよ! 前おじいちゃんが教えてくれたからね」

「ほぉ、そうか! 流石ではないか」

 

 そう言ってトレジィはしゃがんで話していたリンの頭を撫でる。撫でられたリンは「えへへー」と満面の笑みである。

 

(リンって本当に十八歳だよな……)

 

 どう見てももっと年下にしか見えない。

 もっとも、そのことをリン本人に言うと怒るので口には出さないが。

 

(……身寄りがないから、甘える対象を他に求めているんだろうな)

 

 そう思うと、目の前の『祖父と孫のほのぼのとした光景』がとても悲しいものに見えてしまう。

 そんなことを考えていると、ガウがカイトの肩に手を置いて言った。

 

「……そいつは違うな。確かに家族が一人もいないという事は悲しい事だがな、今そこに見えている光景は、紛れもないあいつの幸せだ。ここに至った経緯なんてどうだっていい。今あいつが幸せだっていうその事実だけで十分だろ?」

「その通り、かもしれない……」

 

 大事なのは過去ではなく、今。そして未来を幸せに生きていくこと。過去の因果に囚われ続けてはいけないのだろう。

 

「ホラ、飯、冷めちゃったけど食べるぞ」

 

 ガウは席について二人を呼ぶ。

 

「うん!」

「おう」

 

 三人は集会所に入ったときとは全く違って、笑顔で食事をしているのであった。

 いつの間にか集会所は朝食を食べに来た人たちで満たされており、いつもの喧騒が戻っていた。

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 食事を進めながら、カイトはとある相談をガウに持ちかけていた。

 

「──だから俺はもっと強くなりたい。ドスギアノスに苦戦しているようじゃ、この村は守れない。如何なる状況でも村を守れるようなハンターになりたいんだ」

「それで、少し難度の高いクエストにいきたいと? ……まあここはハッキリと言うがな、その武具だと──」

「別に一時の感情の高まりで言っている訳じゃないんだ。俺だってわざわざ死にに行くようなことはしない。ただ、今のままじゃ駄目だってこともわかったんだ」

 

 カイトは思わずガウに詰め寄る。

 

「……なるほど、ただ思い付きで言っているわけではないようだな。……そうだな、ちょうど俺のところにイャンクックの討伐依頼が来てるけど、同行するか?」

「イャンクック!? それ、ウチも行きたい!」

 

 イャンクックと言えばハンターならば必ず通らなければならない登竜門。ランポスやギアノスと同じ鳥竜種でありながら、その風貌は飛竜と酷似している。翼を用いての飛翔攻撃や尻尾回転、そしてブレス(イャンクックの場合は火炎液)など飛竜の攻撃の基礎をここで学ぶのだという。そのため一部から『先生』などと呼ばれている。

 基礎だ基本だと言っても、立派な大型モンスターである。イャンクックと対峙してハンターの道を諦める者や、最悪死亡するケースも少なくない。

 

(正直自分の武具では厳しい狩りになるだろう……。だが──)

「丁度いい、と言うよりむしろタイミングがいい。もちろん行くさ! 行かせてもらう!」

「だね!ウチも久しぶりに行きたいかな!」

「よし、そうと決まりゃ、部屋帰って準備して来い。昼に再度集合だ」

「ああ」

「うん!」

 

 そうして三人は自宅に戻り、それぞれの準備を始めた。

 カイトにとって初の中型モンスターとの戦いになるため、その準備はいつも異常に入念なものとなった。




 クック先生と言えば、復活おめでとうございます、ですね^^
 とはいっても3DS持っていないので、感動の再開はできていないのですが……。

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