お久しぶりの方、本当にすいませんでした。お久しぶりです。
この度、キャラクターの設定やストーリーなどを練り直して再始動する事といたしました。幾分かは文章力も向上いたしましたので、本作を楽しんでいただけるとうれしいです。
更新はゆっくりになってしまいますが、気が向いたときに読んでいただけるとうれしいです。
前置きはこのあたりにして、本編をどうぞ。
第一話 目覚め
大地を、大洋を、そして大空を、数多のモンスター達が翔けている世界。
その強大な自然と共存し、そして立ち向かうために知恵を絞り、腕を振るう者たちを人々はハンターと呼んだ。
そのハンターたちの聖地とも言える都市、ドンドルマ。ここは狩りの最重要拠点の一つとなっていた。ハンターならばここに憧れぬ人はいないだろう。
ここは多くのハンターが集まるため、必然的に生活物資も多く必要になり、また多くの情報も飛び回っていた。そうしてドンドルマは、狩猟都市としてだけでなく、地方でも最大級の交易都市となっていた。
そんな、ドンドルマからは離れたとある山間。猛吹雪の峠道に一つの人影があった――
◇ ◇ ◇
視界が悪い。多めに持ってきたはずのホットドリンクも殆ど底をついた。頭から足の指の先まで、全身が凍り付いているみたいだ。いや、本当に凍っているのかもしれない。
意識が薄れる。
──しかしここで止まる訳にはいかない。
寒さや手足の痛みをぐっとこらえてその青年はまた一歩一歩と踏み出した。
その青年を上から見下ろすもう一つの影があった。
青年はその影の奇襲に気がつけなかった。普段の彼ならばその『職業柄』からしても、すぐに対応出来る筈だった。
しかし、ひたすらに進み続けることに必死になっていた彼は、その影への反応に遅れた。
飛び降りてきた襲撃者の爪青年の背中をかすめた。
「っ?!」
かすめただけの爪に青年は数メートルも吹き飛ばされ、ニ、三度雪の上を転がされた。青年はすぐに振り返って襲撃者を見た。
青年は初めて目にするそれに硬直した。
青年の中を支配したのはただ純粋に恐怖だけだった。いつも狩る側にいた青年が、狩られる側に立たされた。そんな久しく感じたことがなかった感覚のせいで彼は何もすることができなかった。
気がつけば青年は宙を舞い谷底へと落ちていった。
◇ ◇ ◇
──ポッケ村のとある民家──
「まだ、目は覚めないかの?」
「ああ、ただ傷は大体は癒えたみたいだ。大した回復力だ」
「ふむ、そうか。目が覚めたらこのオババに教えてくれの」
「はいよ、オババ様」
部屋に一人になった男は、ベッドに寝かせている青年を見下ろした。
「これも運命の巡り会わせってか?偶然にしては世の中よくできているもんだ」
彼はそう言って手の中のペンダントを見つめた。
◇ ◇ ◇
「ここは、どこだ……」
目を覚ますと見知らぬ部屋に寝かされていた。
辺りを見回すと大きな道具箱と本棚、それから自分の寝ているベッドぐらいしかない質素な部屋だった。窓の外を見るとまだ朝らしい。
「お、目が覚めたか」
「……あんたは?」
「私か?私はブルックだ。山中にキミが倒れていたところを、私が助けたのだよ」
そこに立っていたのは五十歳ぐらいと思われるフードをかぶった男だった。いまいち状況が掴めていないが、とりあえず一言「ありがとうございます」と礼を言った。
「で、俺が山の中に倒れていたって?」
「覚えていないのい?」
「……ああ、全く」
まだちゃんと意識が覚醒しきっていない様子のその青年を見て、ブルックは少し考えてから言った。
「念のため聞くが、まさかキミ、記憶喪失とかではないよな?」
「記憶……」
「……まさか本当に記憶喪失なのかい?」
「……わから、ない」
「あちゃー、冗談のつもりだったんだけどなあ」
ブルックは気まずそうに頬を掻いた。
「自分の名前は覚えてるかい?」
「いや、本当に何も……」
「そうか……。ああ、いや、気にすることはないと思うよ。おそらく何らかのショックによる一時的なものだろうから。……ああそうだ、まだ傷も完全には癒えていないから、しばらくはここで安静にしているんだ」
「そういえば、この部屋は?」
「ここは、私がハンター稼業をしていた頃に使っていた部屋だ。引退して今はもう使っていないから、自由に使っていいぞ。ああ、あと余裕があれば村長に挨拶をしておくんだぞ」
元気になったら部屋賃は払ってもらうぞ、と言い残してブルックは部屋を出ていった。
不思議だった。自分のことは何一つ覚えていないのに、知識というものだけはしっかり残っていた。
ベッドの横の窓に止まっていた小鳥を見ると、慌てて飛び去って行ってしまった。
「何だっけなぁ……。なんか、大事なことを忘れている気が……」
なぜ自分が雪山にいたのか、その重要な理由もすっかり忘れてしまっていた。
◇ ◇ ◇
次に目を覚ますと、もう日が落ち始めていた。
「は、腹減ったな……」
おそらくここに運ばれてから数日寝ていたのだろう。胃が絞った雑巾のように小さくなっているようだった。
青年はベッドから降りて自分の体を見回した。
(そういや俺、何も着てないじゃないか)
インナー以外は脱がされており、体のあちこちに包帯が巻かれてある。おそらく傷の手当の時に着ていたものを脱がされのだろう。
着るものが何か入っているだろうかと思い、部屋の隅の道具箱の方へ歩いた。体の節々が痛かったが、それでも歩けない程ではなかった。
箱の中を覗くと、マフモフと呼ばれる防寒具が入っていた。
(とりあえずこれを着ておくか)
青年は誰の物かもわからないマフモフを身につけて部屋の外へ出た。
「おお、これは……」
外に出て目にしたものは、見渡す限りに連なる山々。『初めて』見るその景色に感動した。ちょうどその時風が吹き、青年のの黒髪を揺らした。
「うわっ、これは寒いな」
ここポッケ村は、もともと地域的に寒い地方で更に標高の高いところに位置するため非常に寒い気候となっている。村といっても規模はそこそこに大きく(ドンドルマなどとは到底比べものにはならないが)地域地域を結ぶ峠の中央部にあるため、大都市からの狩りや物資輸送の中継地点として多くの人が訪れる。
ただし、あくまで中継地点であって腰を据える人は少なく、時期によっては全くと言っても良いほど人がいなくなることもある。
辺りを見回すと、村の人々は自分と同じような防寒着を着ているが、全く寒そうなそぶりは見せない。やはり慣れだろうか。
道を下っていくと、村長らしき老婆が焚き火の前で座っていた。同じような格好をしたアイルーと呼ばれるネコ型の獣人種が横に立っていた。
目が開いているのかもよくわからないほど細目のその老婆は青年に気が付いたらしく、青年にそばへ来るように手招きをした。
「おお、すっかりよくなったようだの。雪山に人が倒れていると聞いたときには驚いたよ。改めて自己紹介させてもらおう。このオババが、ここ『ポッケ村』の村長さ。よろしくたのむの」
村長はその小さな体でペコリとお辞儀をした。
「こちらこそよろしくお願いします。えっと、俺は……」
「事情はブルックから聞いておるよ。まあ、この村での生活の中でゆっくりと思い出していくとええ」
焚き火を杖でつついていた村長はこちらを向き直すと改めて言った。
「生活を保証する代わりに、というわけではないのだが、一つオヌシに頼みがあるのだが聞いてもらえるかの?」
「ええ、なんでしょうか」
「うむ。実はこの村には、手練の専属ハンターがいなくての。……以前は五人もいたのだが、それぞれ引退したり色々あっての。今は一応そのハンターの子供に修行も含めて簡単な依頼をこなしてもらっておるのだが……。一人でこなすには依頼の量が多いこともあるし、手に余る難度の高い依頼は、たまたま村に訪れていたハンターに頼んだり他の街から呼んだりしているのが実情での。無理を言っているのは十分承知ではあるが、オヌシは今収入原がないだろうからの、ひとつこの村の専属ハンターを引き受けてくれぬかの」
随分と急な申し出だった。しかしまたこれは幸運だとも思った。先程ブルックに家賃を払えよと言われた時に、さて身元もわからない自分がどうやって働こうかと思ったが、まさかこうも早く仕事の候補が見つかるとは思っていなかった。
「でも俺はハンターなんて未経験ですよ……、おそらく」
「別に構わぬよ。あの子と一緒に頑張っていっておくれ。オヌシらが一人前になるまでは今までどおり、他のハンターにもお願いしてなんとかするつもりだからの、心配せぬともよい」
あの子、とはおそらく先程の話に出てきた元ハンターの子供のことだろう。自分一人ならば心細いと思ったが、仲間がいるならば色々と楽だろう。
「……分かりました。引き受けたいと思います」
「おぉそうか、引き受けてくれるか。……そうだホレ、支度金だよ。少ないけれど受け取っておいておくれ」
そう言うと村長は1500zを手渡してくれた。数日の食事の分だと考えれば十分な額だ。
(これで狩りの準備をしろってことか。でも……)
「ま、まずは食べ物だ。そろそろ、限界だ……」
青年はそのままふらふらとした足取りで、集会所の中へと入っていった。
集会所の中には、受付嬢などを除くと数名しかおらず、それもハンターらしき人は一人もいなかった。おそらく仕事を終えた後であろう村の人たちが、麦酒とおつまみで卓を囲っていた。
自分にはああやって楽しく笑い合える仲間はいない。そう思うと急に忘れかけていた孤独感に再び襲われた。
そうしてしばらく沈んだ面影で立っていると、入口付近にいた女性が話しかけてきた。
「あら、初めまして~。話は聞いているわ~。私はポッケ村でギルドマネージャーを務めさせてもらっている者ですわ~。よろしくね~」
話しかけてきた女性は、極東の地の民族衣装をまとっており、また竜人族と呼ばれる種族の特徴である長い耳をしていた。
「あ、ど、どうも」
軽く会釈をすると、ニッコリと笑い返してくれた。大人女性、という感じで少しドギマギした。
そこで我に返った。今はそれどころではない。すぐにでも最優先事項を済ませねば、と。
「あ、あのすいません。食事ってどこでとればいいでしょうか?」
「あら、食事?うちの村の人たちは自宅で自分で作ったり、アイルーさんに作ってもらったりするのが普通だけれども、集会所でも食事は可能よ~。そうね~、歓迎の意味も込めて今回だけはおごってあげましょか」
悪いですよ、と断ろうかと一瞬思ったが、自分の全財産が1500zであるということを思い出して、素直に好意に甘えることにした。
集会所の中央にある席に腰掛けてしばらく待っていると料理が運ばれてきた。ステーキに芋が少し添えられている簡単なものだったが、溢れ出る肉汁とほくほくと出る湯気と香りに思わず生唾を飲み込んだ。
「いっただきます!」
勢いよく口に放ると、想像以上に熱く口の中を火傷しそうになった。しばらく口を開けて冷ましてからゆっくりと噛み始めた。その味に思わず言葉が漏れた。
「……美味い。……でも初めて食べる肉だな」
それは彼の
「あら~、ポポのお肉は初めて?」
いつの間にか前の席にはギルドマネージャーが座っていた。
「これがポポ肉……」
「そうよ~。ポポはこの付近にしか生息していない草食獣なの~。こうやって食用に使うこともあるけれども、気性が穏やかで力持ちだから、人と一緒に暮らして、荷物運びや農業のお手伝いもするのよ~。このあたりは高い山に囲まれて生態系が一部独立しているのよ~。だから珍しいものが多いかもしれないわね~」
その後も様々なことを教えてもらいながら食事をした。どれも新鮮な話ばかりで、おそらく自分はこの辺の人ではなかったのだろうということが想像出来た。
ギルドマネージャーは村の人たちから人気があるらしくいつの間にか二人は沢山の人たちに囲まれていた。なにせ美人である。ギルドマネージャー目当てでこの集会所に足を運んでいる人も多いようだ。
そしてそこに同席していた青年にも自然と声が掛かるようになった。
「きみ、初めて見る顔だな。引っ越してきたのか?」
「私ここを出たところで雑貨屋を営んでいるの。今度何か買いに来てね」
「ビールでも一杯おごってやろうか?」
そんな調子でお酒までおごってもらえた。この国の法律では飲酒に対して年齢制限がなく若いうちから飲む人も多い。
自分の喉がジョッキに注がれたビールを欲しているところから察するに、どうやら自分は日常的に飲んでいたらしい。
ぐいっと一飲みでジョッキの半分ほどを飲み干した。冷えたビールが喉を通る感じが非常に心地よい。「おうボウズ、若いくせによく飲むじゃねえか!」と、さらに継ぎ足してくれる。周りの人たちも料理や酒を注文して、集会所はほとんど宴会状態になった。
親切なな村人たちだ。これなら記憶が無い自分でも暮らしていける。そう思えた。
記憶を失った自分に居場所などないのではないか。そんな不安はいつの間にか消えてなくなっていた。
◇ ◇ ◇
村の人たちと酒を交わし始めてからしばらくした時、突然集会所のドアが勢いよく開け放たれた。
「みんなー!たっだいまー!」
集会所全体にまで響き渡る大きな声と共に入ってきたのは、ランポスシリーズと呼ばれる防具を身に付け、大剣のゴレームブレイド改をを背負った十五、六歳と思われる少女だった。髪の毛は先が外側に跳ねたショートで、茶髪は先に行くほど色が薄くなり、毛先は金髪のようになっている。瞳は炎のように赤く、口元から白い八重歯がのぞいていた。見るからに元気いっぱいの少女だ。
「「おぉっ、帰ってきたか!」」
賑やかだった集会所がさらにそのボリュームを上げた。
(あれが、村長の言っていたハンターの子供。てっきり男だと思ってた……)
まだ集会所に入って一分と立っていないのに彼女は村人たちに囲まれて、食べ物を勧められたりなんだりと、身動きが取れなくなっていた。
(しかしすごい人気だな……)
しばらくその様子を眺めていると、お互いに目があった。
「あれ、初めて見る顔だね。キミ、旅の人?」
突然話しかけられてどうしようかと思ったが、ここまでの経緯を話すことにした。記憶がないことを聞いた村の人たちは驚いていた。
(そういえばまだ村長やギルドマネージャーしか知らなかったんだっけ。……ああ、あとブルックさんもか)
「そっか、自分の名前も覚えていないんだ……」
少女は少し困ったような顔してから、ぱっと顔を上げて言った。
「名前が無いんじゃなんて呼べいいか困るし、いま決めちゃおうよ。とりあえずでいいからさ」
「……ん?」
一瞬何を言っているかわかなかった。
(な、名前を付ける?いま?)
突拍子もない話に面を喰らってしまった。たしかに呼ばれる名がないのは困るが、会っていきなり名づけてやろうなど、普通の人は考えないだろう。
しかし彼女は既に少年の黒い瞳を覗き込んで何がいいかと考え出している。彼女の身長は少年の肩ほどまでで、必然的に上目遣いのような形になっている。
「ちょっ……!」
思わず顔をそらしてしまう。記憶は無いといえど、本能的な部分、特に感情の部分が失われた部分ではない。
年下に見えるとはいえ、ある程度成熟した身体の、しかも初対面の異性にいきなり接近されると気恥ずかしいものがある。
当の本人はそんな様子には気づかず、あれでもないこれでもないとまだ考えている。
しばらくしてポンと手を叩くと、笑顔で言った。
「よし、キミの名前は今日からカイト。カイトに決定ね!」
「決定したのかよ!……一応聞くけどなんでまたカイトって名前にしたんだよ……」
「えっとね、ウチの好きな物語の主人公の名前なんだ」
「も、物語の主人公ねえ……」
架空の人物の名前を付けられるなど少々どころかかなり恥ずかしい気がするが、周りの人たちが「カイトか、いい名前じゃないか」「よろしくねカイト君」なんて言い出すものだから、どうやらこのまま決定してしまいそうな雰囲気になってしまった。
「そうだ、まだこっちが名乗ってなかったね。ウチの名前はリンっていうんだ。よろしくねカイト」
あまりの強引さにあっけに取られていたが、思わずため息をついて笑顔がこぼれた。
(なるほど、村の人たちからも人気があるわけだ)
一緒にいるだけでこっちも元気なってしまう。そんな娘だった。
カイトはため息を付いてから笑いながら手を差し出した。
「じゃあ、これからよろしくな、リン」
こうして、カイトのハンターとしての生活が幕を開けることになった。
一話の分量はこのぐらいです。更に長くなることもあれば、短くなること(こっちのパターンが多そうですが)もあります。
お気づきの方もいるかもしれませんが、主人公の名前と、ヒロインの一人称が変わりました。