オーバーロード ~たっち・みーさんがインしたようです~   作:龍龍龍

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※今回、原作設定の改変要素があります。


“漆黒の剣”

「私が『漆黒の剣』のリーダーのペテル・モークです」

 金髪碧眼の男は、その特徴はないが十分に整った顔に柔らかな笑顔を浮かべ、丁寧に頭を下げる。

「先ほどはうちのチームの仲間であるルクルットが失礼をいたしました。チームの目や耳としてとても優秀な野伏なんですが……その、ちょっと軽いところがありまして」

「ひでぇな。俺はいつでも真剣だぜ? 特に彼女に対しては、人生かけていると言っても過言ではないくらいに真剣だぜ!」

 先ほど市場でモモンガに声をかけてきた男――ルクルットはリーダーに向けてそう抗議する。ぺテルはそれに対し、苦笑気味に応じた。

「だからこそ、性質が悪い時もあるんでしょうに……まあ、悪い奴ではないですし、それなりに分別はわきまえている男なのでご安心ください」

「わかった。信じよう」

 二人に向かい合う席に座っているたっち・みーは、そう答えつつも、ルクルットの動きをつぶさに観察していた。ぺテルという男は誠実そうではあるが、出逢ったばかりの人物の言うことを鵜呑みにして全く警戒しないことはさすがのたっち・みーにも出来ない。

 若干の緊張感を維持しつつ、たっち・みーは市場で知り合った冒険者のチームと交流を行っていた。

 モモンガが突然冒険者のルクルットに告白されるという珍事は、たっち・みーとぺテルが介入したことにより、ひとまず無事収まっていた。

 その後、ぺテルからお詫び代わりにお茶に誘われ、少しでも情報を得たいと考えていたたっち・みーは、あえてその誘いに乗ることにしたのだ。もちろん、ルクルットがモモンガにちょっかいを出さないように目を光らせてはいる。

(何気なく取った姿がまさかこんな事態を引き起こすとはな……少しうかつだったか)

 とはいえ、ルクルットもたっち・みーが傍にいるときにあんな騒動は起こさなかっただろう。たまたまたっち・みーと離れていたがゆえのことだとたっち・みーは考えていた。

 もっとも、実際仮にたっち・みーとモモンガが一緒にいたところで、ルクルットは二人の関係を聞いた後で同じような告白をしていたのだが、残念ながらそこまで想像することはルクルットという人物のことをよく知らないたっち・みーにはできなかった。

(街中を行動するときは別行動を避けた方が無難だな。余計な騒動に発展しかねない)

 そう密かにたっち・みーは決めつつ、ぺテルが自分たちの自己紹介を続けるのを促す。

 ぺテルはそれを了承し、自分の隣に座っている男――というには少々若々しすぎるが――を示す。

「魔法詠唱者であり、チームの頭脳である『術者(スペルキャスター)』ニニャ」

「よろしく」

 下手をすれば幼いとも取れる笑顔を浮かべて、軽くお辞儀をする。小柄な人間だった。青年を通り越して少年という表現が似合う。

「……しかし、ぺテル」

 ニニャは自分のチームのリーダーを、困ったような、恥ずかしがっているような、微妙な表情で見上げていた。

「その恥ずかしい二つ名を告げるの、やめません?」

 当たり前のようにいうものだから、当然の二つ名だとたっち・みーたちは思っていたが、どうやらそういうわけでもないらしかった。

「え? 良いじゃないですか。ニニャが天才的な魔法詠唱者であることは事実なんですから」

 ぺテルの方は仲間を誇っている様子で、悪びれた様子がない。

「その二つ名が通り名、というわけではないのか?」

 気になってたっち・みーが尋ねると、ルクルットが補足するように口を出す。

「生まれながらの異能を持っているんだよ、こいつ。それが魔法系統で、珍しく素質に合ってたんだよな。それを受けてうちのリーダーはニニャのことを『術者』って呼んでるんだ。組合に登録されている情報には記録されていないから、非公式な呼び名ってわけ。けど、冒険者仲間には浸透して来てるんだぜ?」

「ほう。生まれながらの異能持ちか」

 たっち・みーは理解して頷く。カルネ村で捕えた陽光聖典のニグンから詳しく得た情報の中にあった。

 生まれたその瞬間に得る能力であり、選択したり変えたりできる能力ではない。そのために、その人物が目指そうとしているものとは噛みあわないことも多いとか。

「魔法適性とかいう生まれながらの異能で、習熟に八年かかるところをわずか二年で済むんだっけ? 魔法詠唱者じゃない俺にはどれぐらいすごいのかいまいちピンと来ないんだけど」

「……へえ」

 モモンガが同じ魔法詠唱者としての好奇心からだろうか、それに興味を持っているような声をあげた。

「おっ、興味ありな感じ? なら色々教えちゃおっか――なぶっ!」

 興味を引けたことに対してか、ルクルットが嬉しそうにしたが、即座にぺテルの肘が脇腹に入った。「少しは反省しなさい」とルクルットに小声で説教するぺテル。よほどいい角度で入ったのか、脇腹を抑えて涙目になっているルクルット。

 仲間として気心の知れたやり取りをしている二人を、苦笑交じりに見つつ、たっち・みーは先ほどのモモンガの反応とニニャを見るモモンガの目に若干の危機感を覚える。

『モモンガさん、ちょっと好奇心を抑えて。獲物を見つめる目になってます』

『……っ。すみません』

 慌てて目を伏せるモモンガにこっそり苦笑しつつも、無理もない反応かとも思う。

 生まれながらの異能は武技と同じくユグドラシルにはなかった技術だ。ナザリック地下大墳墓にない力を得ることは、組織の強大化に繋がるため、できればそれを得たいと考えるのは、組織の長として自然なことだろう。

 とはいえ、それをこっそりコピーするならまだしも、奪うようなことをすれば敵を作るのは必至。まだこの世界の勢力の底が見えていない現状では、極力しない方がいいことは間違いない。

 ゆえに、たっち・みーはモモンガを抑えた。どんな形になるとしても警戒されていいことは何もない。

 空気を変えるためか、話の中心であったニニャ自身が口を開いた。

「この能力を持って生まれたことは幸運でした。これがなければ、夢をかなえる第一歩も踏み出せないまま……最低な村人で終わっていたところです」

 しかし言おうとした内容がよくなかったのか、ニニャの声は暗く重い。

 それを払拭するように、ぺテルが明るい声をあげた。

「なんだかんだ言って、この都市では有名なんですよ。ニニャは」

「まぁ、わたしよりももっと有名なバレアレという方がいらっしゃいますけどね」

 そのニニャの言葉に興味を引かれたたっち・みーは問いかける。

「その人はどのような生まれながらの異能を持っているんだ?」

 すると、四人が驚いた表情を浮かべる。常識的な情報だったことに気づいたが、たっち・みーは動揺しない。元から自分たちが情報に疎いのはわかっているのだから、その対処も考えていた。

「私たちはずっと旅をしていて、ここに来たのはつい先ほどでね」

 そのたっち・みーの言葉に、四人は納得したようだった。

「なるほど、それだけの立派な鎧を見逃すことはないはずなのに、お見かけしたことがないなと思っていましたが……このあたりの人ではなかったからですね」

「確かに。貴女みたいな絶世の美人を俺が見逃すわけがないもんな!」

 全力でアピールするルクルットだが、当然それでモモンガがよく感じるわけもない。むしろ気色悪いとばかりにルクルットから顔を逸らす。

 がっくりと肩を落とすルクルットを無視して、ニニャが話を続ける。

「名前はンフィーレア・バレアレ。名の知れた薬師の孫にあたる人物です。彼の生まれながらの異能は、ありとあらゆるマジックアイテムを使用可能な上、誰にも知られていない能力すらも余すことなく引き出すというものです」

「!?」

 その破格の能力に、たっち・みーとモモンガは顔を見合わせた。

 ギルド武器や世界級アイテムすら使用できるのか。それに、副次効果というにはあまりにも破格な、アイテムの隠された能力すらも引き出すという力。

 二人の中でその人物に対する警戒度は、即座に一番上に置かれた。しかし、同時にその利用価値も計り知れないものだ。なぜならこの世界において変化しているユグドラシルのアイテムの効果などもすべて把握できるかもしれないからだ。

『……たっちさん。その人物、危険を冒してでも接触する必要があるんじゃないかと思います』

『ええ。もしかしたら……いずれ必要な能力となるかもしれません』

 限界はあるのかもしれないが、それがないとしたらそれは是が非でも欲しい能力だ。

「お二方、どうかされましたか?」

 顔を見合わせて沈黙していたのを妙に思われたのか、ニニャがそう声をかけてくる。少し慌てて、たっち・みーは意識を目の前の四人に戻した。

「ああ、いや、気にしないでくれ。それより、まだ最後の一人の紹介をされていないが……」

 ぺテルに視線を向けると、彼は頷いて“漆黒の剣”最後の一人を示した。

「彼は森司祭のダイン・ウッドワンダー。治癒魔法や自然を操る魔法を扱い、薬草などの知識にも長けています。チームの体調管理も彼が行ってくれていて、日常的にも非常に助かっています」

「よろしくお願いするのである!」

 重々しい口調で、ぼさぼさとした髭を生やした野に生きる人物らしい風貌の男が口を開いた。

「ああ、よろしく。では、こちらも名乗っておこう」

 たっち・みーは自分と隣に座るモモンガを紹介する。

「私がタツで、こちらがモモ。見た通り、私が戦士で彼女が魔法詠唱者だ。この町には先ほど到着したばかりで、冒険者組合で登録は済ませている。しばらくはここに腰を落ち着けようと思っていてな。ひとまず都市を見学している最中に、そこのボルブに声をかけられた……というわけだ」

 丁寧なたっち・みーの自己紹介に、ぺテルは頷いて了承の意を示す。

「タツさん、私たちを呼ぶときは名の方で読んでいただいて結構ですよ」

「そうか? ではそれに甘えさせてもらおう。まだわからないことも多いので、色々と教えてくれると助かる」

 たっち・みーはぺテルに対してそう言いつつ、どうにも冒険者タツのロールプレイに慣れないものを感じていた。傲慢にならない程度に不遜な物言い、というのは中々難しい。モモンガからたっち・みーが冒険者を装うとするならそれくらいじゃないと、と言われていたのだが、やはりいつもの通りの態度や言葉遣いにすればよかったかと考えていた。

(まあ、いまさら言っても仕方ない。やりきることにしよう)

 そうたっち・みーが心の中で改めて決意を固めていると、懲りないルクルットがモモンガに話しかける。

「モモちゃんっていうのか! 可愛い名前だな! ところで、モモちゃんはニニャと同じ魔法詠唱者なんだよな。第何位階までの魔法が使えるんだ?」

 あからさまなルクルットの様子に、少し引き気味になりつつも、モモンガはあらかじめ「ここまで使えることにしよう」と決めていた位階を口にした。

「え。えーと……第三位階まで、です」

 この世界では第三位階まで極めていれば、魔法詠唱者としては大成していると判断される。

 そのモモンガの言葉を聞いた瞬間、四人がざわめいた。

「マジで!? すげえじゃん! ますます惚れたぜ!」

「その若さでそれは驚きである!」

「すごい……!」

「ええ、本当にすごいですね! ニニャは先ほど言った通りの生まれながらの異能持ちですから、第三位階の魔法をひとつだけ使えますが……モモさんはそうではないのですよね?」

 あまりに大きな反応だったため、本当にそういってよかったのか迷いつつ、モモンガは頷いた。

「え、ええまあ。色々と使えます」

 実はそれ以上の魔法も使えるのだとは言わないが、それでも使える魔法が多数あるということは彼らに伝わったのか、感嘆するのが伝わってきた。

「いやぁ……それはすごい。ということは……そんなモモさんと一緒に旅をしているタツさんも……」

「ああ。モモさんに恥じない程度の腕前はあると自負している」

 そうたっち・みーは言ったが、それにモモンガ自身が異を唱えた。

「いえ、タツさんの強さは私など遙かに超越したところにありますよ」

 なぜか自慢げに断言する。

 〝漆黒の剣”の四人がぎょっとした顔でたっち・みーを見た。それはそうだろう。第三位階の魔法の使い手の時点で、一般的な視点から考えれば相当な強さだ。それを遙かに超える戦士など、彼らからすれば想像することすら難しい。

 たっち・みーは慌てて手を振った。

「い、いやいや、そんなことはないぞ。モモさんはちょっと私のことを過大評価しているんだ」

「妥当な評価だと思いますけど……」

 憮然とした様子で呟くモモンガ。モモンガは本当に本気で言っているので一切の嘘がなく、たっち・みーの実力が本当にそれくらいあるのだと四人に実感させる。たっち・みーが否定するところも、強者の謙遜だと理解されたようだ。

 これ以上この話を続けるのはまずいと判断したたっち・みーは、話題を変えることにした。

「ま、まあ、強さの話はさておき……この街で冒険者登録をした以上は、お前たちとは先輩後輩という関係になるわけだな。せっかくだから、この都市ではどういった仕事が一般的なのか、教えてもらえるか?」

 そのたっち・みーの質問に、ぺテルたちは気まずそうに顔を見合わせた。

「そう、ですね……残念ですが、お二人が満足できるような依頼はすぐには受けられないんじゃないかと思います。銅のプレートに任せられるような仕事は、基本的には荷運びとか薬草採集とか、そんなものばかりですし……報酬も銅貨で何枚というものばかりです」

「……ふむ。まあ、それは仕方ないな」

 信用とは時間をかけて築き上げていくものだ。信用できるかどうかもわからない人間に重要な仕事が回ってこないのは当然すぎる。それに、ゲーム的な話としても、最初のうち受けられるクエストはそういう簡単な仕事だと相場が決まっていた。

(初心者に戻ったつもりで……とは言ったが、さすがにそれは退屈だし、面倒すぎるな)

 どうしたものかとたっち・みーが考えていると、ルクルットが身を乗り出してきた。

「じゃあさじゃあさ! 俺たちの仕事を手伝わないか? 俺たちはこれでも銀のプレートの冒険者だから、銅のプレートの仕事よりはずっとやりがいがあると思うぜ! うまくすれば銀のプレート並の仕事を任せられるって思われて、いい仕事を受けられるようになるかもしれねえし!」

「ちょ、ルクルット! さすがにそれは組合の規則的に無理な話でしょう!」

「わかんねえぜ? もしすげえモンスターを討伐できたら、それくらいの配慮はあるかもしれねえじゃん」

 ルクルットとぺテルが言い合うのを見ていたたっち・みーは、その話に興味を持ち、詳しく話を聞いてみたいと感じた。

「ふむ。どういうことなのか、もう少し順を追って説明をしてもらってもいいか?」

「おう! 任せてくれ!」

 たっち・みーが食いついたことに対し、ルクルットは喜色満面の笑顔を浮かべながら胸を叩き、他の“漆黒の剣”のメンバーは深々とため息を吐いたのだった。

 

 

 




※改変要素について※

 ニニャとンフィーレアの持つ生まれながらの異能を改変しています。

ニニャ:「魔法適性」→「超魔法適性」
 原作では習得に八年かかる魔法を四年でしたが、グレードアップして二年で習得できるように! しかもそのおかげでニニャは原作では第二位階まででしたが、第三位階の魔法をひとつだけ使える設定です。

ンフィーレア:「ありとあらゆるマジックアイテムを使える」→「ありとあらゆるマジックアイテムを使える上、その隠された能力も引き出す」
 もはや破格というレベルではない生まれながらの異能に。今作においてかなり重要な生まれながらの異能となっています。

 この変更は少し(結構)物語にも影響を及ぼす予定です。

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