苦労の始まり
しばらくして、私たちは三年生になった。
去年卒業したライラ姉さまの助言は、「悪役になるのを厭わないこと」。
というわけで、私は一年間悪役に徹してきた。
グリフィンドールをあざけりながら争いを防ぎ、ハッフルパフを貶めながらイジメを禁止し、レイブンクローを貶しながら裏口をやめさせた。
スリザリンを支配するのは容易ではないが、いまのところは一応うまくいっている。
唐突だが、ドラコ・マルフォイとは、前に何度か会ったことがある。
いわば家族ぐるみの付き合いである。
マルフォイ家とギルティク家は同系列で、少しだけギルティク家のほうが格上だが、ほとんど同列として付き合っていた。
だから、三年生となった今年、新入生のマルフォイがきたのを嬉しく思ったのは事実である。
「お久しぶり、ドラコくん。懐かしいな、私のこと、覚えてる?」
「はい、もちろんですよ。ますますお綺麗になりましたね」
「ありがとう。スリザリンへようこそ」
にっこりと笑って握手をする。
こんなになれなれしく話せるのは、ロザリーを除けばドラコくんぐらいだ。
ドラコくんは、私にとって弟みたいな存在だから。
……でも、なんか、ドラコくん、前はもうちょっとかわいかったのに、お世辞まで言えるようになったんだなあ。
嬉しいのか寂しいのか、よく分からない複雑な気持ちになった。
「ドラコくん。一つ、お願いがあるんだけど」
「? なんです?」
それはそうと、話を本題に戻す。
「グリフィンドールと、揉め事を起こさないでほしいの」
「……なぜですか?」
「ポイントが減点されるのよ。今までずっとスリザリンがトップだったのに、たかがグリフィンドールごときのために一位から降ろされるなんて。そんなの絶対に嫌だわ。だから、ドラコくんに失礼なことを言う人がいても、少し我慢してほしいの」
なるべく納得してもらいやすいように、グリフィンドールへの悪口をおおいに取り入れながら言う。
「いいわね?」
ドラコくんは、しぶしぶながらも頷いてくれた。
……これでなんとかなるだろう。
「ら・あ・にゃっ」
「にゃぁあ!?」
後ろからいきなり胸を掴まれ、思わずおかしな声が出る。
「ちょ、ロザリー、貴女どうしたの!? 長期の休みで頭がおかしくなったとか!?」
「んなわけないよーん。ラーニャは気づいてないかもだけどさ、去年まではライラさんの監視が厳しかったんだよ」
「え? い、う、うそでしょ?」
「マジでマジで。油断も隙もないぜーって感じ? でもっ、これからは存分にいちゃいちゃできるね!」
顔の横で指を組み、首をかしげつつ、キャ☆と目を輝かせるロザリー。
………私のまわりはこんなやつばっかりか、と、ラーニャは思った。
「ロザリー、そろそろ座りなさい。いくら騒がしいからって、さすがにばれるわよ」
「やだやだやだぁっ! ラーニャの傍がいいのぉっ!」
「こら、もう……また寮で会えるじゃない」
「ずっとそばに居たいの!」
こんなにテンションの高いロザリーは初めてだ。
熱でもあるのだろうか。
いや、むしろ今までのだるそうな態度よりはマシなのかもしれない。
ちょっと扱いに困るけど、可愛いし。
「何をしているのかね、アルナティア。ギルティクが困っているだろう。席に戻りたまえ」
「うわっ、でたぁ……」
スネイプ先生がいつの間にかそこに居た。
こちらは相変わらずの神出鬼没っぷりだ。
不愉快そうに声を漏らしつつ、ロザリーは耳をふさぐ。
「ちょっと立っただけじゃないですかぁ。やだなぁもぉ、センセーったらすぐ嫌味言いに来ちゃってさぁ。んん? ドエス? サドですか? しかもあたしに目ぇつけるあたりがロリコンっぽくてやだねー、あたしのろりろり体型に興味があると?」
「………ギルティク」
「は、はい」
「友人はよく考えて選ぶようにな」
「すみません………」
恥ずかしさと申し訳のなさで顔が赤くなっていくのが分かる。
額を片手で覆って冷やすが、本当は穴があったら入りたいくらいだ。
姉さまが卒業したから油断していたが、何のことはない、ただ単純に妹ポジションとしてロザリーが姉さま化しただけじゃないか。
「ロザリー、ごめん、もう本当に席に戻って……」
「はぁーい。じゃあまた寮でね、ラーニャ」
ととと、とローブを引きずりながら駆けていく姿は、前と変わらない。
ドラコくんが心配そうにこちらを見ていた。
大丈夫だよ、と返すと、「大変ですね」と言われた。
まったくだよ。